授乳女教師
Tsuka:作

■ 真知子の回想5

加えて追い討ちをかけるような事態に陥る。学校側は前田の退学理由を生徒達に公表しなかったが、やはりそれでも噂は広がってしまう。
生徒達が真知子を好奇と欲望に満ちた視線を送るようになった。その無数の視線が痛い程に感じられ、とても教職を務める環境ではなくなっていた。
学校も辞職せざるを得ない状況になる。真知子は八方塞がりになり、身も心もボロボロになった。
幼い頃から教壇に立つことを目指し、ようやく念願が叶って頑張ってきた教師も辞めようと本気で思った。
この大きすぎる胸が……男を惹き付けて止まない豊満な乳房が教師をするのに妨げなのだ。華奢な身体には不釣り合いで、女教師らしからぬグラビアアイドル顔負けの見事な爆乳。
本人にはその気が無くてもちょっとした仕草で柔らかく弾むたわわな肉塊が男達の性欲を刺激してしまう。
真知子は中学生の終わり頃から胸が急激に膨らみ始め、高校時代はブラジャーを何度も買い換えた。急激な乳房の発育に真知子自身も戸惑いを感じた。

(胸が大きいのは女の子には嬉しいかもしれないけど……大きいのにも程があるわよ…)

しかし真知子の意思に逆らうように胸は膨らみ続け、高校生にはFカップにまで巨乳果実が実る。カップの大きいブラジャーを身につけなければならない事に羞恥心を覚えた。
大学に入り身長の伸びは止まっても、乳房の成長は止まらずに最終的にはHカップにまで到達してしまう。
だが学生時代はコンプレックスを感じていた爆乳だが、成人して大人になってからは自分自身でも魅力的に感じていた。

(お母さんから貰った大切な身体だもの……ありがたく思わなきゃね…)
爆乳を逆手にとり、コンプレックスをアドバンテージに切り返してプラス思考になる事で人生を前向きに生きようと考えた。
しかし今回の件で真知子は自分の爆乳を呪う気分になってしまう。
(やっぱり……駄目なんだわ…)
体育館倉庫での恥辱が夢にまで出で来る。悪夢にうなされ満足に睡眠も取れない。泣いても泣いてもあの時の忌まわしい記憶は拭えない。
辛くて重い日々が続いた。こんな大きな胸なんか無くなってしまえば良いとまで考える程に追い詰められた。まさに人間不信とノイローゼの一歩手前だった。

そんな失意のどん底にいた真知子に救いの手を差し延べてくれたのが大学時代からの親友だった石井明美である。学校を退職して家に引きこもり気味だった真知子に、明美から一本の電話が入る。
明美も中学校で保健教師として在職していたのは親友である真知子も知っていた。
『もしもし、真知子? 元気………な訳がないよね…』
「うん……ごめんね」
『話……聞いたわ。大変だったね。とても辛かったでしょう?』
「…うん…」
『私…、真知子をレイプしようとした奴を許さないわ…絶対に許さない。真知子……早く元気になって』
「うん……」
明美の気遣いが心に染み入るようで、嬉しくて思わず泣きそうになる。そんな時、明美から思いがけない言葉が出てきた。
『ねっ、真知子さぁ、唐突で悪いんだけど、まだ先生続けるつもりってある? もし良ければ私が勤める学校に来ない? 真知子って確か社会科担当だったよね? うちの学校さぁ、社会科の先生が定年で今年度で辞めちゃうみたいなんだ。だから、どうかなぁって』
真知子は正直迷っていた。自分が男好きする肉体の持ち主である事に否定的になりかけたが、レイプ未遂がきっかけで教師生活を終わらせるのにはもっと否定的だった。
さりとて再任する宛も無かった真知子にとって、明美からの連絡はまさに地獄に仏だった。それに明美の心遣いがとても有り難かった事もあり、真知子は再び教壇に立つ決意を固める。
『私はまだ真知子に先生を辞めて欲しくないし……ねっ?』
「うん、私…教師を続けるわ。明美……本当にどうもありがとう…」
『な、何よ、そんなに畏まらなくてもいいじゃない。私の父親ね、うちの学校の校長や理事と親しいから多分大丈夫よ。あとさぁ、私も気心知れた先生が多くいた方が良いしね』
こうして書類審査と面接を通して今の学校に赴任して来たのが4年前だ。心のカウンセリングを受けて精神的にも立ち直れた。今でも明美には言葉では言い尽せない程に感謝している。
明美がいなかったら今頃自分はどうなってたか全然分からない。今日教師を勤められるのも明美のお陰だ。

ただ今の学校に赴任した時から〈鉄の女教師〉を演じる事になる。
自分が持つ性欲をそそる肉感的な身体に寄り付かないように、指導・教育に厳しくする事で生徒と出来る限り距離を置こうと努める。
勿論この事は明美にも話した。明美も真知子が前の学校を辞める動機を知っていたので理解を示してくれた。
また風紀担当も積極的に買って出た。教育に厳しいイメージを強める為に、あるいはレイプの危機から救ってくれた先生が風紀担当だった事も理由なのかも知れない。
皮肉にもそれが功を奏して〈アイドル先生〉とは駆け離れていき、生徒達から敬遠されがちな存在となる。生徒達からしてみれば真知子はうるさい姑のような存在なのだろう。
だが同じ轍を踏まないためには必要な振る舞いなんだと自分に言い聞かしたが、何処かで心の片隅には一抹の寂しさも感じていた。
真知子の本当は心優しい性格にとっては〈鉄の女教師〉を装うのは苦しかった。本来の自分とは全く正反対な姿で生徒達と接しなければならないのだから…。

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