SMごっこ
二次元世界の調教師:作

■ 3

「あのな、翔、お前SMって言ったよな。」
「うん……」
「何でもいいっつったってさ……」
「知ってるかって聞いただけだよ!」

 確かに翔の言い分の方に分がある。私も頭に血が上って突発的に危険な行動を取った事を反省しなければいけない。私は努めて平静になろうとしながら慎重にしゃべった。

「ああ、知ってるよ、SMくらい。」
「ぼ、僕SMにとても興味があるんだ。」
「そうだな。
 あんな雑誌、まだ持ってんのか?」
「お金がないから……
 たくさんは持ってない。」

 うへえ、こいつ、もしかしてSM雑誌を買う金が欲しいのか? いや、物が欲しいわけじゃないと言ってたけど……私が「あんな雑誌」と言ったのには理由がある。翔が中1で、私が中2、ちょうど今から3年前の同じくらいの時期に、私は翔が「あんな雑誌」を見てえっちな事をしてる現場を見てしまったのだ。ちょうど時刻もほぼ同じ、学校から帰って親の帰りを待っている頃。先に帰宅して自室にこもっていた翔の部屋に、驚かせてやろうと気配を殺してそっと入ってみたら、正にその現場に遭遇したと言うわけだ。

 とんでもない雑誌を見ながら何か変な行為に耽っていた翔は、ものすごく驚いてとてもバツが悪そうだったが、もっと驚いたのは私の方だった。女子の方が成長が早いらしいが、その時私自身は指でえっちな悪戯をする事を覚えていた。でも翔は1つ下だし、その頃は本当に精通も来てなさそうなちっちゃなガキだとばかり思っていたのだ。そして普通のヌード雑誌くらいならまだ良かったが、「あんな雑誌」は中2の私にとってはとても衝撃的だった。翔の手前、そんなそぶりは見せなかったけど、チラリと垣間見たハダカの女性が縄で縛られてるグラビアに、私は内心ドキドキで異常な興奮を覚えてしまったのを思い出す。それにその決定的な瞬間を、翔がおちんちんを取り出して弄ってる場面そのものも、当分脳裏に焼き付いて離れなかったくらいの衝撃と共に、私は目撃してしまったのだ。

 それから私は、翔にズボンを直させ正座させると、厳しく叱りつけた。それは本心からの叱責で、勉強もしないでそんな雑誌を見て良からぬ行為に耽る弟が、私は本心から道を踏み外し悪の道へと踏み込もうとしているかのように感じていた。すぐに取り上げた雑誌は、親にバレないように私がどこかで捨てる事とし、今度こんな事があったら親に言い付けると、翔に言った。全くあの時後先考えずすぐ親に言いつけたりしなくて良かったと思う。興奮してまともに働かない頭でも、そんな事をすれば翔のプライドを決定的に傷付けてしまう事が本能的にわかったのだろう。私達は本当に仲の良い姉弟なのだ。

「あのな、翔。
 なんでもやるって言った約束は守る。
 でもそれで俺のお前を見る目が変わるかも知れない事は考えろ。
 いかがわしい事をしたら一生軽蔑してやる。
 俺は絶対にお前を許さないからな。」

 もううすうす翔が「いかがわしい事」を望んでいる事を察した私はそう牽制球を投げた。まさか本当の意味で「いかがわしい事」を翔が考えているとは思いもしなかったが。

「そんないかがわしい事をするわけないだろう。
 僕はめぐ姉とSMのまね事をしたいんだ。
 本物じゃない、ままごとみたいな、SMごっこだよ。」

 やっぱりそうか。あの中学の出来事を思い出した私は、同時に裸女が縄掛けされた写真も蘇って、翔の言う「SMごっこ」がどの程度のものなのかと思い、冷静にと心掛けていた気持ちがどんどん高揚してしまうのを感じていた。

「簡単な事だよ。
 僕と一緒にめぐ姉の言ってた甘味処に行って食べて帰る。
 ただし、スカートをいつもより短くするんだ、そうじゃないとSMごっこにもならないから。」

 それだけ? 私は拍子抜けした気分だった。私は実はすごく羞ずかしがり屋でスカート丈は他の子よりも長めにしないと気になって仕方ないのだ。しかも黒いスパッツをはいてるから万一覗かれてもあまり羞ずかしくない。そう思っていると、翔は「SM」について語り始めた。

「SMってのは、お互いに同意してやるプレイなんだ。
 だからめぐ姉も、本当に嫌だったらそう言ってくれればいい。
 それ以上僕は要求しない。」

 恐らく今も何冊か持っているという雑誌から仕入れた知識なのだろう。いつになく熱心に、そしてしっかりした口調で話す翔に、私は強い違和感を覚えていた。甘えんぼでヘタレで、私が助けてやらねば何一つ出来ない出来の悪い弟が、こんな話し方をするのは始めてだ。私はいつの間にかカラカラに乾いてた唇をペロリと舐めて湿らすと、気になっていた疑問を発した。

「と言う事は、まだ要求があるんだな。」
「うん。
 でも本当に嫌だったら断ってくれればいいから。
 まずスカートを上げてよ。」
「わかった。」

 う〜ん。私は他の子みたいに経験がないので、スカートを巻き上げて短くするやり方がよくわからず、見よう見まねで腰の部分を織り込んでミニにして行った。

「もっとちゃんと短くしてよ。」

 こいつ、調子に乗るなよ、と思ったが、私は黙ってさらにスカートを上げて行った。「本当に嫌だったら」と言われても、この程度で拒否しては翔がかわいそうだ、という気になっていたのだ。何晩も徹夜して、私から「ごほうび」をもらえる事を楽しみに頑張った、かわいい弟だ。そう、ちょっと羞ずかしい所も、どうせなら翔に見せたかった。私はちょっとスカートを上げるくらいの事で、弟に対するアブない気持ちが徐々に点火されて行くのを感じていた。

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