変身
二次元世界の調教師:作

■ 7

「お兄ちゃん!
 ねえ、お兄ちゃんなの?」

 次に俺が意識を取り戻すと、さくらが心配そうに俺を覗き込んでいた。

(ここは?)
「私のお部屋だよ」

 つい自然に話していたが、俺はやはりおぞましい触手のままだった。さくらともテレパシーが通じるらしい。見覚えのある、ピンクが基調の少女趣味の部屋の中で、さくらも又かわいらしいピンクのパジャマを着ていた。真っ白いスベスベの肌が俺にはまぶし過ぎて、ついさくらの膨らみかけの胸とお尻に視線をやってしまうと、俺は猛烈な衝動に襲われてしまう。うう、犯りたい! お人形さんみたいなさくらの透き通る白い素肌を、穢らわしい触手でメチャクチャに汚してやりたい……

(母さんは?)
「たぶんお兄ちゃんを見てショックで気絶したんだと思う。
 でも、もう大丈夫だよ」

 さくらの話によれば、母さんがいつまでもトイレから出てこないので心配になって覗いたら、気絶した母さんのそばの床に、気色悪いイソギンチャクみたいな俺が蠢いていたのだと言う。父さんは食事を済ますと母さんのことなど気にせず自分の部屋に戻って、もう寝てるだろうと言うのだからひどい話だ。それに比べるとさくらはやっぱりいい子だ。俺はムクムクとわき起こって来る、このかわいい妹を陵辱してやりたいと言うおぞましい触手の本能と必死で戦わねばならなかった。

(さくら、お前こんな姿の俺を見ても平気なのか?)
「うん。
 だってお兄ちゃんはお兄ちゃんだもん。
 それに私、お兄ちゃんのこと大好きだから」

 うう。そういう意味ではないとわかっていても、俺は情けないくらいに動揺してしまう。後先も考えず触手になるなんて、俺は何とバカなことをしてしまったのだろう。俺は激しい後悔の念に駆られながら、恐ろしいことに又一つさくらを犯したいと言う邪念のスイッチが入ってしまった。

「お兄ちゃんに宿題見てもらいたかったのにな」
(ハハハ、それはちょっと無理だな)
「私もう寝るね」
(お、おい、さくら!
 俺がここに居てもいいのか?)
「え?
 全然平気だよ」
(俺たぶん、今出てったら捨てられちまう。
 こんな化け物だもんな)
「ずっとこの部屋に居ればいいよ」
(ホントか?)
「うん。
 お休み、お兄ちゃん……」

 信じられないことに、さくらは恐ろしい化け物の俺がすぐそこに居ると言うのに、すぐにスヤスヤと寝息を立て始めていた。ばあちゃんと言い、母さんと言い、さくらと言い、どうしてイソギンチャクみたいに変身した俺をすんなり受け入れてくれるのだろう? これが家族の愛と言うものか。長い引きこもり生活の中で根性がねじ曲がり、自分は死んだ方がましな人間のクズなんだと本気で思って自暴自棄になっていた俺は、こうして人間を捨て触手と言う化け物になって初めて家族の愛に気付いたと言うわけか。何と言う皮肉だ。スースーと寝息を立てているさくらに対する嗜虐欲は強まる一方で、この部屋に居る限り俺は早晩かわいい妹に襲い掛かってしまうであろうという恐ろしい予感に懊悩した。ああ、何と言うことだ。今度こそ俺は心の底から、自分は死んだ方がましだと思ったのだが、触手になった今自殺する方法すらわからない……本当に俺は世界一、いや宇宙一の大馬鹿者だった。

 俺が自分勝手な妄想を実現して変身した触手は、女に寄生して性の快楽エネルギーを貪り喰って生きるのだ。昨日は欲求不満の熟れた体をウズウズさせていた母さんに取り憑いて体中の穴を犯し、数え切れないほどのアクメに導いてやって、俺も母さんの絶頂エネルギーをおなか一杯に吸収して大満足だったのだが、母さんが失神すると同時に俺も力を失ってしまい、今偶然保護してくれた優しいさくらの部屋にかくまわれている。本来知性のかけらもない下等生物である触手に睡眠など必要ないのだろうが、俺はちゃんと人間としての理性も兼ね備えた奇妙な存在であるため睡眠する必要があるようだ。が、すぐ側のベッドの上で何の警戒もなくスヤスヤと安らかに眠りこけている少女を求めていかがわしい触手の本能が激しくいきり立ち、とても眠れやしない。理想的な宿主である母さんの部屋まで移動しようにも、それだけのエネルギーは俺には残されていなかった。ああ、俺は穢れのないかわいい妹に襲い掛かってしまうよりないのだろうか? こうして俺はおぞましい化け物に変身してしまった運命を呪い、妹を犯したいという触手の本能と徐々に薄れていくヒトとしての理性で戦いながら、悶々と懊悩し眠れない夜を過ごしていた。

 苦悩する俺にとって、さらに衝撃的なことが起こったのは明け方に近い未明の頃だった。

「お兄ちゃ〜ん……」

 さくらだ。さくらがはっきりと甘えるような寝言で俺の名を呼んだのだ。畜生! 俺はお前に取り憑いて幼い性を貪り喰らおうとしている、悪魔のような触手だぞ。何でそんな俺を、かわいらしい声で慕うような寝言を言うんだよ……

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