変身
二次元世界の調教師:作

■ 12

「きゃあっ!
 お兄ちゃんのえっち!
 ヘンターイ!
 出てって、レディーのお着替え中だよお!」

 気が付くと俺はさくらのピンク色の部屋の中で、なぜか全裸に靴下をはいただけと言うマヌケな格好で、セーラー服を着た妹に抱きついていた。これではまるきり変質者である。バシイッとさくらの精一杯の平手打ちが頬で炸裂し、俺はほうほうの体で部屋からおっぽり出された。

「あーん、パンツがビチョビチョで気持ち悪いよお!
 でも遅刻しちゃう!」
 
 おいおいパンツくらいはき替えていけよ、とおバカなことを考えて呆然としている俺の目の前を、ドタバタと支度をすませたらしいさくらが、走り去って行く。何が起こったのかすぐには頭の整理がつかず、妹の部屋の前で立ちすくんでいる俺を発見したのは又しても、偶然通り掛かったばあちゃんだった。

「シンイチ!
 何をしようるんじゃ、お前……」
「ば、ばあちゃん、これには深いわけが……」
「イソギンチャクになったり、ヘンタイになったり……
 早う自分の部屋に戻って服を着てこんか、この大バカモンが!」

 それから1か月後。

「お兄ちゃん、待ってー」

 俺は高校までの通学路をわざと早足で歩き、息せき切って必死に小走りで追いかけて来るセーラー服のさくらが追い着
くと、ふうーと大きなため息を付き、よしよしと頭を撫でてやった。

「お前相変わらず足が遅いな。
 こんなことでハアハア息を切らせて、運動不足なんじゃねえの」
「お兄ちゃんが早過ぎるんだよ!」
「ちょっと太ったんじゃないか、さくら」
「そんなことないよ!
 お兄ちゃんのバカ」

 プーッと膨れてみせるさくらは相変わらず小学生みたいでとてもかわいい。だが小柄でやせぎすで男の子みたいに見えても、スカートの下には女の子らしい柔らかい成熟が見られることを俺は知っている。心なしか胸もお尻もますます丸みを帯びて来たようで、だから俺も太ったんじゃないかとからかったのだ。

 あのおぞましい触手に変身し、さくらの処女血で又ヒトに戻った日以来、俺は悪い憑き物でも落ちたように気持ちが前向きになり、さくらの通う高校に編入学して妹と一緒に楽しく通学している。以前通っていたバリバリの進学校とは全然違う、どちらかと言えば偏差値の低い普通の高校だが、長い病気に伏せていて回復してからここに来たと言って通っている俺も充実した毎日を送っている。もちろん違うクラスだが同じ1年生のさくらは、困ったことに俺にベッタリ付いて回って来る。この学校でも劣等生のさくらが落第しないように勉強を教えてやるのは、自分の勉学よりはるかに大変だ。

 5年間と言う長期の引きこもりを脱した俺は、家族の中での地位もしっかり回復した。とりわけ冷たく突き放されていた父さんともすっかり和解し、本当に仕事で家にいる時間が少ない父さんに、お前が母さんやさくらやばあちゃんを守ってやれ、と言われて男としての自覚も付いて来た。もっとも父さんも、俺が母さんの性的欲求不満を時々満たしてやっているとは夢想だにしていないだろうが。

 さくらとはあれ以来、もちろん仲の良い兄妹以上の関係を持つなんてことは一切ない。本当にアイツのバージンを破ってやったのかどうかもハッキリしないのだ。さくらは笑ってごまかし教えてくれないし、天使のように清らかなさくらの心を知った今、コイツに手を出して汚すなんてことは俺には絶対出来ない。

 今張り切って幸せな生活を送っている俺の数少ない悩みのタネと言えば、ばあちゃんがあれ以来めっきりボケてしまって、それが俺のせいではないかと思われることだ。でもすっかりボケてしまっても、出来る限りの世話はしてやりたいと思っている。イソギンチャクに変身したり、全裸で徘徊したりはしないだろうから。

 それから、俺に嬉しそうに付いて回るさくらに、ちゃんとボーイフレンドが出来るかどうかも大きな心配ごとだ。いや、本当に心配なのはそうではない。さくらのボーイフレンドを知らされた時、俺が血迷ってその男をぶちのめしたりしないかどうか。俺にはまだ自信がない。

〜おしまい〜

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