オカルト教師
二次元世界の調教師:作

■ 2

「お前みたいなやつを典型的なムッツリスケベと言うんだぞ、岡田。姉ちゃんのシモの毛を取って来たほうびに、お前にもいい思いをさせてやるからな、期待してていいぞ」
「い、いえ、結構です……」
「遠慮すんじゃねえよ、岡田。このムッツリスケベ野郎が。お前さんのおかげで、古代エジプトの秘術が蘇るんだぞ……」

 まるでしつこく絡んで来るチンピラみたいな言葉から始まったのは、「オカルト教師」と言う異名を取る鎌田の誇大妄想だ。やつの言い草からして、何やらいかがわしい「秘術」なのだろうが、あいにく僕は常識人でそんな戯言を信じるようなイカれた連中とは違う。この、若ハゲで背が低く醜く肥え太った、凡そ女性に嫌われる要素を詰め込んだようなおぞましい外見から、名前をもじって「ガマガエル」と陰口を叩かれている鎌田先生は、なぜそんな部活が存在しているのかかなり謎な「オカルト研究部」の顧問だ。そして驚くべきことに、オカルト研には暗くて大人しそうな女子ばかりの部員が存在し、タロットカードなどを用いて飽きもせずしょーもない恋占いに興じているらしい。もちろん彼女達とて、キモオタを絵に描いたような鎌田は相手にせず形だけの顧問のようだが、当の「ガマガエル」はオタク女子達のオアソビのような「オカルトごっこ」をはるかに超えた、アブない所までイッてしまってる本当にヤバい男だと言う評判だ。生徒である僕の弱みを握ったと見るや、姉貴と2人の陰毛を「秘術」とやらに使用するためだと要求し、僕にネチネチと卑猥な言葉を掛けて来る下劣さから、こいつが皆の評判通りの、校内一のヤバい男だと言うことが実証されたわけだ。僕は教師と言う仮面を脱ぎ捨て、おぞましい本性を剥き出しにし始めた「オカルト教師」に、絶対に知られてはならなかった秘密の行為を見つかってしまった日のことを痛切に思い出していた。

あれは約1月前のことだった。2年になってから移動教室でホームルームが空きになるとき、最後に鍵を掛ける生活委員と言う役になった僕は、その日も他のクラスメイトが誰もいなくなったわずかな時間、つい誘惑に負けてこの所悪いクセになっていたあの行為を行っていた。その日のターゲットに選んだのは、姉貴と同じバレー部の竹本ひとみさんだ。僕は竹本さんの机に直行すると、その中に彼女が部活で着用しているユニフォームと言うお宝を発見し、宝くじにでも当たったように大喜びしてしまった。

 そう。僕が生活委員になってからクセになってしまった行為とは、クラスのカワイイ女子の机をのぞき見ること。内気で彼女どころかガールフレンドもいない僕にとって、がさつな男子と違ういかにも女の子っぽい所持品を密かに盗み見るのは、胸がドキドキして甘酸っぱい気分を満喫出来る行為だった。そして何度もいろんな子の机をのぞき見してる内に、時折発見される体操着に僕は危険な衝動が抑え切れなくなり、女の子のぬくもりや汗や体臭が染み付いているように思われる衣類のニオイをかいで、幸せな気分に浸るようになっていった。あまり授業に遅れるわけにはいかず、せいぜい1分足らずの間に、絶対人に見られないようにドキドキしながら行うスリリングで甘美な秘密の時間。僕はもう完全にこのアブない行為にハマってしまっていた。

 そしてその日竹本さんの机から出て来た、姉貴でおなじみのバレー部が着用する緑色のブルマみたいなショートパンツは余りにも魅力的だった。竹本さんとはほとんど口を聞いたこともなかったが、僕好みのスラリと背が高いカワイコちゃんで、これを彼女が毎日はき汗だくで練習してるのだと思うと欣喜雀躍と気分の高揚した僕は、いつしか時が経つのも忘れ、夢中で彼女の「ブルマ」を鼻に当てがってウットリと幸せに陶酔していたのだ。

だからその決定的な瞬間、背中を軽く叩かれた僕は飛び上がりそうになった。振り返るとそこには、ニヤニヤと下卑た笑いを満面に浮かべた鎌田先生がいたと言うわけだ。誰もいない空き教室で女子の運動着の匂いをかぐと言う変態的行為を、学校一ヤバい「オカルト教師」に見咎められた僕は、サーッと顔から血の気が引いていったのを覚えている。まだ盗みでも見つかった方がましだった。
 
 すぐに今も呼び出されている理科室に連れて行かれ、すっかりビビっていた僕は鎌田先生に洗いざらい白状した。これが初めてではなく、つい出来心とは言え何度も繰り返し行ってしまっていたことを。すると生徒の変態行為を目撃して調子に乗ったガマガエルは下劣な本性を現して、僕を脅迫し始めたのだ。岡田、それはただではすまないぞ。盗難に匹敵する、いやもっと重い罪に問われるかも知れない、と。退学か、少なくとも停学になるのは間違いないな。冷静に考えれば盗難より罪が重いなんておかしいが、仮にも学校の教師なのだ。たとえそれが鎌田のハッタリだったとしても、コイツの言葉を信じるしかないではないか。天国から地獄に突き落とされたような気分で青ざめてしまった僕に、ガマガエルは畳み掛けるように言った。

「岡田、お前奨学金をもらって学校に通っているんじゃないのか」

 鎌田はいみじくも姉貴のクラス担任で、母子家庭である我が家の苦しい経済状況も知っている。そんな立場まで悪用したタチの悪い脅迫だった。鎌田はこれが表沙汰になったら奨学金がストップされるのはもちろんのこと、1学年上の姉貴にまで影響があるのは必至だと言いやがった。姉貴はバレーボールのスポーツ推薦で、いわゆる特待生として入学したため、学費ゼロなのだ。僕は苦しい家計を助けるため、許可をもらってバイトしながら何とか通学している状況なのに、奨学金がストップされては死活問題ではないか。自分ばかりか、卒業まで後半年の姉貴まで学校を追われる羽目になったら、一体家族にどんな顔向けが出来ると言うのか。しかも理由が理由だ。苦労を掛けている母さんや、仲の良い姉貴に知られるくらいなら、死んだ方がましだとまで僕は思った。

「なあ岡田、ここは1つ取り引きしようじゃないか」

 それはもうまともな教師のやることではなかった。しかしすっかり狼狽して冷静な判断力を失っていた僕に、鎌田はとんでもない「取り引き」を持ち掛けて来たのだ。それは何と、若い男と女の陰毛を手に入れて渡せ、と言う常軌を逸した要求だった。何のために?といぶかしがった僕に「オカルト教師」鎌田はとうとうと説明を始めた。

「俺が前から、古来より伝わる黒魔術の研究をしているのは知っているだろう」

 そう。僕がこいつのことを「学校一ヤバい」と形容した理由は、それが一番である。生徒達、とりわけ女子からは蛇蝎のように忌み嫌われている、絵に描いたようなキモオタ風の外見だけが理由ではないのだ。鎌田は形だけのオカルト研顧問とは別に、昼でも暗い理科室の奥の部屋にこもり真にアブない研究をやっていると噂される、いかがわしい化学教師である。そしてここで鎌田が語った内容は、やはりとても正気の沙汰とは思えないものだった。

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