診察室
ドロップアウター:作

■ 2

 先生のところへ行くと、玲さんは野田さんに促されて、丸い回転椅子に腰を下ろしました。
 診察するお医者さんが女の人ということで、心なしか少し安心しているようでした。
 先生は、最初に問診をしました。
「よく気分が悪くなるということだけど、どれくらいの頻度で起こるの?」
「最近は、週の半分は気分が悪いです」
「どんなふうに?」
「体がだるいっていうのが一番多いです。あとは、頭痛がひどかったり、吐き気がしたり・・・」
「本当に吐くこともある?」
「はい・・・昨日学校で、昼休みに弁当を食べた後、気持ち悪くなってトイレで吐きました」
「今も?」
「はい・・・まだちょっと頭が痛いし、体もだるいです」
 恥ずかしさのせいか少し声が震えていたけれど、わりとしっかりした口調で話していました。
「生理痛なのかどうか分からないというのは?」
「はい、あの・・・生理の時も気分悪くなるんですけど、そうじゃない時も・・・高校に入学した時から、ずっとそんな感じなんです」
「なるほどね・・・それじゃあ、診察をします」
 先生はそう言うと、いつものように診察を始めました。まず玲さんの口を開けさせて中を見て、それから聴診器を使い始めました。
「両腕を下ろして、胸を張ってください」
「はい」 
 玲さんは素直に従いました。
 今度は、玲さんの乳房がはっきりと見えました。改めて見ても、小さいけれど形の良いキレイな乳房でした。
「大きく息を吸って・・・吐いて・・・また吸って・・・吐いて・・・」
 先生はそう言いながら、玲さんの体に聴診器を当てていきました。
 胸、おなか、そして背中と当てて、先生は聴診器での診察をやめました。
「ちょっとおなかを見てみようね」
 先生はそう言って、玲さんの腹部を指で押し始めました。
「痛いところある?」
「いいえ・・・」
「・・・ここは?」
「ここは?」
「大丈夫です・・・」
 一瞬、玲さんの表情がぱっと変わりました。先生が、少しだけ玲さんのパンツを指で下げたのです。でも、それは診察のために必要なことですから、玲さんも分かってくれたと思います。
「ここは?」
「・・・いいえ」
 さっきよりかすれた声で、玲さんは答えました。
 先生は玲さんのおなかから手を離して、カルテに書き込みながら言いました。
「もう少し詳しく診てみる必要があるわね。血液検査と、尿検査と、それから・・・」
「はい・・・」
「月経との関係もよく分からないから、外陰部も診てみないといけないわね」
 その瞬間、玲さんの顔から血の気が引きました。
 先生は念を押すように言いました。
「恥ずかしいと思うけど、自分のためなんだから、我慢できるわね?」
 玲さんはしばらくうつむいていました。女の子にとって一番大事で、恥ずかしいところを調べられると言われたわけですから、やっぱりすごくショックだったと思います。
 でも、玲さんは気丈にも顔を上げて、か細い声ではありましたが、「はい」と返事したのです。


 その後、玲さんは隣の処置室に移ることになりました。私はバスタオルを用意して、玲さんに羽織ってもらいました。
 これから受ける診察のことを思っているのか、玲さんの表情はとても堅かったです。でも私には、励ます言葉もありませんでした。
 そしてここから、玲さんの本当の悪夢は始まったのです。

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