診察室
ドロップアウター:作
■ 3
処置室に移動して、私はまず玲さんを椅子に座らせてから、血液検査の準備を始めました。血液検査は、新任である私が行うことになっていたのです。
玲さんの肘を採血台にのせ、二の腕をゴムでしばってから、注射針を刺す箇所をアルコールを含んだ脱脂綿で拭きました。
心なしか、玲さんは落ち着きがないように見えました。処置室に移動してから、なんだかぼんやりとして、目線が宙に泳いでいます。今は体をバスタオルで覆ってはいるけれど、これからのことを思うと、やっぱり怖いのかなって思いました。
私は、ただ淡々と、自分に与えられた職務をこなすしかありませんでした。注射針を玲さんの皮膚に刺して、採取した血液を容器に移しました。
私は玲さんに脱脂綿を渡して、「しばらくもんでいてね」と指示しました。
玲さんは脱脂綿を注射の痕にあてがいながら、うつむいて何かを考えているようでした。
「あの・・・」
不意に玲さんが話しかけてきたので、私は一瞬ドキッとしました。
「なぁに?」
「あの・・・診察の時って・・・」
「うん」
「パンツ・・・脱ぐんですよね・・・」
玲さんの不安が伝わってきました。気丈にふるまってはいても、女性として辛いものは辛いのです。まして、まだ15歳の女の子なんですから。
「はい、そうやって検査します」
何だか、私まで緊張してしまっていました。
「あの・・・どれくらい時間かかるんですか?」
「そんなに長くはかからないよ・・・長くても、五分くらいかな」
「そうですか・・・」
玲さんの思いつめた表情を見て、私は思わず聞いてしまいました。
「やっぱり、怖い?」
「・・・はい、とっても怖いです」
玲さんは、震えた声で答えました。
私は、胸が詰まりそうでした。
「でも・・・」
「でも、なぁに?」
「やっぱり・・・自分のためだから・・・我慢しなきゃ・・・ダメですよね・・・」
私に、というよりは、自分に言い聞かせているような感じでした。
「それに、女の先生に診てもらえるから、ちょっとは良かったです」
玲さんはそう言って、かすかに笑いました。
私は、結局何も言えませんでした。
その時、野田さんが顔を出して、私にこっちに来るようにと目配せをしました。
私が野田さんのそばに行くと、私の耳元である指示をささやきました。
私はため息をついて、玲さんのそばに行きました。そして、野田さんに指示されたことを、そのまま玲さんに伝えました。
「これから検査をするから、バスタオルを取って、それから・・・パンツも脱いで」
罪悪感を懸命に振り払って、私は言いました。
玲さんに私がパンツを脱ぐようにと指示したのとほぼ同時に、先生と野田さんが処置室の中に入って来ました。
玲さんの顔は、明らかに青ざめています。足を見ると、膝が急にがくがくと震え出していました。
それでも無言のまま立ち上がって、すぐにバスタオルを取りました。
もう胸は隠しませんでした。どうせさっき見られているのだから、今さら隠しても変わらないと思ったのでしょうか。
でも、さすがにパンツを脱ぐことはかなりの抵抗があるようでした。下半身を見られることは、胸よりもずっと恥ずかしいと思います。それに、さっきブラジャーを取った時は私しかいなかったけれど、今は三人の大人に囲まれて、だいぶ圧迫感を感じているはずなのです。
かわいそうに、玲さんはパンツをつかんでははためらい、つかんではためらうという動作を繰り返していました。
「女の人しかいないんだから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
野田さんが叱るように言いました。
「検査を受けるのは自分のためなんだから、それぐらい我慢しなきゃ」
そんな言い方しなくてもいいのに、と私は思いました。
でも、玲さんはか細い声で「はい、すみません」と謝りました。
「ちゃんとがんばって検査受けられるわね?」
「はい・・・がんばります」
玲さんは悲しそうな顔で、そう言いました。
そして・・・両手でパンツのゴムの部分をぐっとつかんで、一気に膝元まで下ろしたのです。
玲さんは、あらわになった下半身を左手で隠すようにして、右手でパンツを足元から抜き取りました。
「パンツは預かっておこうね」
野田さんは玲さんのパンツを受け取ると、他の衣服と一緒にカゴの中に入れました。
玲さんは両手でアソコを覆って立ち尽くしていました。寒いのか、腕や太ももに鳥肌が立っています。そのくせ、頬は真っ赤に染まっていました。よっぽど辛いのでしょう。目を赤く腫らして、今にも泣き出してしまいそうでした。
そんな玲さんの姿に、私は胸が痛みました。
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