走狗
MIN:作

■ 第1章 出来事26

 途端に激痛に襲われる香織の口は、大きく開き前歯のない口腔を晒し、舌をダラリと垂らす。
 咽の奥から笛のような悲鳴を上げ、苦悶に耐える香織。
 身体はガクガクと小刻みに震え、腹は痙攣を起こしたように激しく波打つ。
 下半身では、壊れた水道のように、勢いなく小便が漏れている。
 そんな香織を見下ろしていた、カメラの女が振り返り、固唾をのん見ていた者達に向き直ると
『この様子じゃ、後30分は掛かるわね…。涼子30分経ったら、そのオモチャ洗っておいで、それと帰ってくる時に、洗面器にお湯を張って来て』
 指示を出し、座り込むとピザに手を出し、頬張りだした。

 4人は、取り敢えず危機が去った事を理解し、緊張を解き、話を始める。
 黙々とピザを食べ、缶チューハイを飲むカメラの女は、4人の会話に入らない。
 4人も敢えて、カメラの女に話し掛けようとはしなかった。
 30分経って、涼子は指示された通り、香織の傷口を洗い、洗面器にお湯を張って持って来た。
 涼子の後に香織も付いてきて、カメラの女の前に座る。
 涼子を手で追い払い、香織の右乳首をチェックしだした。

 カメラの女は、ピアスニードルとコルクを取り出し、慣れた手つきで乳首に通す。
 すると、香織の乳首からは、ドロリとしたピンクがかった、血が流れ出してきた。
 それを洗い流し、香織の乳房を絞り上げる。
 すると、又ドロリとした血が流れてくる。
 それを何度か繰り返すと、赤い鮮血が流れて来て、香織に洗面器を片付けるように指示した。
 その作業の間も、カメラの女はチビリチビリとは程遠い飲み方で、2本の酎ハイを空けた。

 その作業を遠巻きに、黙って見ていた4人は、カメラの女の放り投げた、缶の転がる音にビクリと首を竦める。
『なによー…何見てんのよー…何か言いなさいよー…』
 完全に酔った口調で、4人に絡み出す。
 ヒソヒソと話す4人に、立ち上がり千鳥足で近づく。
 香織と涼子は部屋の隅で抱き合い、事の顛末を震えながら見守っている。
 カメラの女は、右手に鞭を持って、4人に近づき見下ろすと
『ねぇ…何で私に話しかけて来ないのよー!何でー…何でー』
 そう言いながら、鞭をぶらつかせ、絡みまくる。

 仮面の女が、カメラの女に缶チューハイを勧め、それを煽ってプハーッと大きく息を吐く。
 こうして、酒乱の病的加虐者が出来上がった。
 カメラの女は、床に転がった、香織の乳首のピアスを見つけ。
『あれ?何でこんなのがおちてるの?…香織!香織!』
 大きな声で香織を呼びつけ、近寄ってきた香織に
『だれが…外して良いって…言ったのよ…この馬鹿!』
 言いながら香織の胸と言わず、腹と言わず、全身を力任せに鞭で打ち据えだした。
 その状態を誰も止めに入れない。
 理不尽な怒りを必死に受け止め、懸命に詫びる香織。
 全身をみみず腫れにし、平伏する香織に、拾って着けるように命ずるカメラの女。

 涼子に向き直り、鞭を振って呼びつける。
 急いで這い寄る涼子を、遅いと言って鞭で打つ。
 そして、何でお前の身体には、ピアスが付いてないのと質問をする。
 意味が解らない涼子の頬を鞭で打ち
『馬鹿にしてるの!お前なんかに…お前なんかに…』
 そう言いながら、涼子を打ち据える。
 涼子もこうして、謂われのない鞭を受ける羽目になった。

 唐突に鞭打ちを止めたカメラの女は、涼子の額の辺りを蹴り上げ、仰向けにさせて跨った。
 そして近くにあった鞄を引き寄せ、ピアスニードルを取り出して
 右の乳首を摘み、針を通そうとする。
 しかしカメラの女は泥酔しているため、目標を間違え涼子の乳房に、深々と針を突き刺した。
 カメラの女は目標が外れたのを、涼子が動いたためだと言って
 何本も何本も、ピアスニードルを取り出しては差し、取り出しては差しを繰り返し、涼子の身体に針を突き立てる。
 ストレート型の中空タイプのピアスニードルのため、一歩間違えて体内にでも入れば大事と、流石に止めに入った4人達。
 手足をばたつかせ[ピアスするの]と子供のように、駄々をこねるカメラの女。
 なだめる4人に、駄々をこね頑として譲らない。
 そして話し合い、指揮はカメラの女、実行するのは4人達に落ち着かせ、涼子は身体にピアスを着けられる事に成った。

 ここで、11本目のファイルが終了した。
(何だ…?何なんだこいつらは…。統制が取れてるようで、取れてない…。無茶苦茶じゃないか…)
 俺は頭を抱え、此処までを振り返る。
 驚くべき最新の機材や、医療品を使いながら、誰一人裕福な家庭を感じさせず、それで居てどう言う繋がりかも解らない。
 仮面の女と大柄な男は知り合いだと解るし、男の一人は恐らく大柄な男の友人だろう。
 しかし、香織に入れ墨を入れた男と何より、このカメラの女が、誰とも繋がっていない。
 それと、このファイルで確信したが、この映像を加工しているのは、明らかに第3者だ。
 そして、この第3者は、この映像の中に所々、意図的にこの5人の素性が解るように、編集している。
(狙いが理解できない…。俺にこいつらを見つけさせ、制裁を加えさせたいのか…)
 そんな風に勘ぐってしまう。
 それともう一つ…このファイルは12本では終わらない、恐らく後これの倍は存在しているはずだと言う事。
 其処までを考えて、俺はマウスに手を伸ばす。

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