走狗
MIN:作

■ 第1章 出来事30

 自分のカードで買い物を済ませ、片手を差し出しながら。
「8万円に成りました…」
 金額を請求するが、俺が計算して、どう考えても、7万5千円だった。
 まぁ、5千円は技術料だろう、俺は財布から金を取り出し、日下部に渡した。
 そして、本題に入る事にした。
「日下部…。今から話す事、見る事は、他言無用だ」
 そう言いながら、12枚のDVDディスクを差し出した。
 日下部は、それを受け取ると、自分のノートパソコンに入れ、ソフトを動かす。
「やっぱり…。このディスクも、プログラムが組み込まれてる…。これを再生すると、片っ端から感染させられますね」
 そう言いながら、別のソフトを起動させる。
 外付けのHDを取り出し、コピーを次々に取って行く。

 12枚目を取り出し、俺に向き直ると
「これについて調べれば良いんですね…」
 そう言って、鞄に片付ける。
「プログラムを分離したデータを、このHDに落としましたから、再生してみます」
 そう言って、ファイルを開く。
 日下部は、映像ファイルを見ながら、息を飲んだ。
「これは…、香織ちゃん…。どう言う事ですか」
 俺は、これまでの経緯を日下部に話し出した。
 日下部は、食い入るように映像を見て、俺の話を聞いている。
 おおよその概要を話し終えた俺は、日下部に
「その映像を作るのに、どれだけの技術が必要かを、お前に聞きたかったんだ」
 日下部は、俺に向き直ると
「相当です…。並みの技術じゃ、映像のデータにプログラムを仕込む事は、不可能です…。それに、この音声ですが、一度加工した物をアナログで再生し、後からメディアデータに変換していますね…。これじゃ、元の音声も特殊な器具を使わないと、復元できない…」
 どうやら、このデータは時間と技術を集めて作った物らしい。

 すると、玄関のチャイムを誰かが押している。
「お!来たか」
 日下部が巨体を持ち上げ、玄関に向かう。
 夜の11時を回っているのに、注文した荷物が1時間以内に届くなんて、どう言う事なのか考える気にも成れなかった。
 敏腕すぎる刑事は、ギリギリのラインで捜査する物だ、こいつも何かしらのコネを持って居るんだろう。
 戻って来た日下部は、段ボールを手に持ち、俺のパソコンに向かい合った。
 俺のパソコンをバラしながら、日下部が話し出す。
「俺が思うにその送り主は、URLを消したかったんだと思いますよ。結構、数があると変化を特定できますから、追跡できるモンなんです」
 マザーボードとCPUを引きはがして放り投げ、新たな物を取り付ける。
 パソコンの換装を終え、日下部がファイルをインストールする。
 見る見る、俺のパソコンは元の状態に戻って行った。
 しかも、随分処理の速度も上がっているようだ。
 日下部は、外付けのHDを俺のニューマシーンに取り付けると、俺のパソコンに転送しだした。
「このデータ、バックアップ取る事をお勧めします。じゃぁ、俺はこいつを調べますね…。俺の家の機材使っても、無理かも知れませんが、何とか調べます」
 そう言って、荷物を鞄に詰め、立ち上がると家を出て行った。
 これが動く日下部を見る最後に成る事を、俺はこの時知る由もなかった。

 次の日の朝、と言っても、お日様は真上に来ている時間だが、俺は連日酒を抜いた生活のため、清々しい朝を迎えた。
 久しぶりにカーテンを開け、大きく伸びをするとテレビのスイッチを入れた。
 テレビを付けると、ニュースが映り出す。
 そこで、報じられているのは、一人の刑事の死亡だった。
 同じ車に3度轢かれて、殺されたそうだ。
 そして、目撃者や遺留品は一切無く、物取りの犯行かと、沈鬱な表情でキャスターが報じている。
「日下部…」
 俺は、昨日此処に居た、友人の名を小さく呟いていた。
 そして俺は気付く、この部屋での遣り取りが、第3者に筒抜けだったという事に。
 俺は服を着て、知り合いの興信所に電話した。

 興信所の所長は、盗聴器を探す機材を持ち、30分ほどで俺の家の前に車で現れた。
 車を止めるなり所長は、運転席の窓を開け
「叶さん…。これ…、凄い電波が出てますよ…。これだけ出てたら、テレビとかにも影響してたはずですよ…」
 驚きを隠せない表情で、話し出す。
 俺はそのまま、所長を伴い、家に戻る。
 その後出る、出る、カメラと盗聴器合わせて、13個見つかった。
 しかも、興信所の所長が驚くくらいの、高性能機らしい。
 俺は、是非譲ってくれと言う所長に、10個選ばしくれてやった、…料金をロハにする約束で。

 俺は、動かなくなったカメラと盗聴器を持ち、家に戻ってパソコンの電源を入れる。
 携帯のアラームを6時半に合わせ、映像ファイルを再生した。
 今日は、俺の扉に紙を貼った奴との待ち合わせが有る。
 恐らく、この全てについて、よく知っている人物の筈だ。
 俺の表情は、暗く沈み、それも通り越して仮面のように変わっていった。
 俺にこの後、地獄を見せる人物との邂逅まで、後4時間少々。
 そして、俺を其処の住人にさせる、決断を迫るのだった。

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