走狗
MIN:作

■ 第2章 猟(かり)1

 俺は、メールに書いて有った通りの方法で、警察のデータベースに侵入した。
 勿論、自宅では無い。
 繁華街にある、ネットカフェだ。
 俺は、プロファイリングしたデータを、データベース内の情報に当て嵌める。
 先ずは、犯歴のある大柄な男とその連れの男からだ。
 4年前の5月20日の夜から、5月27日の間に補導されている者を調べた。
 該当1万5千件弱。
 俺は、その中から当事の年齢を、16〜18歳と絞り込む。
 該当1万件弱。
 その中で、2ヶ月半以上拘留されている者を探す。
 該当176件
 少年刑務所送致を選ぶ。
 該当26件
 身体のサイズを入れると、該当は4件に成った。
 そして、その4件で事件の内容を調べると、共犯者が居るのは、1件だけだった。

 見つけた…。
 大柄な男(三浦 正二(みうら しょうじ))ともう一人の男(伊藤 泰介(いとう たいすけ))。
 俺は、住所と家庭環境、記載されている物を全てメモした。
 ファイルを保存したりすると、そこから足が付くと、メールに書いて有ったからだ。
 俺は、その足で三浦正二の自宅に向かった。
 三浦正二の自宅は、小さな2階建ての一軒家だ。
 表札に三浦と書かれて居る以外、これと言って特徴はない。
 そして、裏に回ろうとしたその時、見覚えのある黒いワンボックスが走って来た。
 香織を拉致した、ワンボックスだった。
 ルームミラーにぶら下げられている、飾りまで当時のままだ。

 助手席に女を乗せ、俺の前を通り過ぎる。
 後部座席にも人影が見える、男のシルエットだ。
 三浦家の駐車場に止めると、車から4人が降りてくる。
 男が2人と女が2人、女の方はどちらも見た事のない体型で、映像の女のどちらでも無かった。
 男の方は、伊藤泰介と三浦正二だった。
 三浦と伊藤は、同じ作業服を着ている所から、同じ職場で、今もつるんで居るのだろう。
 俺は、踵を返し、計画を練るために、帰路に着いた。
 俺の顔は、獲物を見つけ、追いつめる喜びに震えている。

 家に着いた俺は、部屋を片付けた。
 全てのゴミを捨て、綺麗に隅々まで、掃除機を掛ける。
 溜まった洗い物を片付け、全てを整えた。
 それは、自殺する人間が身辺を整理するのに、似ていたかもしれない。
 俺は、シャワーを浴び、目を閉じて考える。
 これから先の行動を…。

 頭を整理した俺は、なぞの男に手渡された鍵と地図を持ち。
 出来たばかりの、偽造免許書を取り出した。
 今回のために、俺が昔逮捕した男に作らせた。
 まだまだ、あいつには頼む事になるだろう。
 俺は、そんな事を考えながら、家を出た。

 車を借りて、地図の通りに走る。
 地名から八王子の奥の山の中だと、推測する。
 車を操る事2時間、陣馬街道の脇道に入ると、私有地立ち入り禁止の看板が有る柵に出会(でくわ)した。
 その柵に付いている南京錠を外し、20m程曲がりくねった砂利道を進むと、その建物は有った。
 鉄製の高さ3mを越える柵に囲まれた、古いコンクリート建築の洋館風建物。
 敷地の広さは、200坪程の広大さだ。
 近場の町まで、車で30分と言った所だろう。
 此処ならどんな悲鳴も聞こえない、届かない。

 柵の入り口の鍵穴に、貰った鍵を差し込もうとするが、タイプが違う事など一目瞭然だった。
 俺は、苦笑して勝手口を見ると、そこは門番の待機場所のように成っている。
 そこの扉に鍵を突っ込むと、扉はカチャリと開いた。
 俺は、ソッと中に入り、目の前の机に置いてある、4つの鍵を見つけた。
 一つは形状から言って、外柵の入り口の鍵、もう一つは、厳めしい飾りから、玄関の鍵だと思える。
 しかし、後二つが解らない。
 俺は、入り口を開け、車に乗って奥に進んだ。

 玄関に立ち、鍵を開け扉を押すと、綺麗に掃除された広大な玄関ホールが現れる。
 そして、そこに一人の男が礼をした状態で、待っていた。
 真っ白なスーツに、赤いネクタイが目を引く。
 オールバックに撫でつけた銀髪が、その年齢を感じさせる。
 俺は、その男の雰囲気から、喫茶店で待ち合わせたなぞの男だと直感した。
「ようこそお出で下さいました…。わたくし由木(ゆうき)と申します。この館の使い方をご説明に参りました」
 由木と名乗る男は、丁寧に言いながら頭を上げ身体を開くと、奥を差し示し、俺を誘導する格好で静止する。
 持ち上げた顔は、銀髪とは打って変わって、まだ40前の肌の張りが有った。

 俺は、由木に従い、玄関ホールを横切り、階段の付け根にある壁に向かった。
 そこには、注意深く見ないと解らない様な隙間があり、それをズラすと鍵穴が現れた。
 由木は、身体を後ろに引き、鍵穴を指し示して
「クロスの付いた方です」
 小さな声で、鍵の種類を告げた。
 俺は、指定された方の鍵を入れて捻った。
 鍵は、カチリと音をたてると、驚いた事に階段が、床に呑み込まれて行く。
 由木に促されるまま、階段を進むと、降りた場所に又鍵穴がある。
 そこに、鍵を差し再度捻ると、階段がせり上がり、その後ろにポッカリと通路が現れた。
「こちらで御座います」
 通路を指し示しながら、奥に案内する由木。
 5m程進むと、広大な空間が現れる。

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