走狗
MIN:作

■ 第2章 猟(かり)3

 扉を開けて中を確認する。
 途中一度、催眠ガス、荷台に放り込んだため、皆まだグッスリと眠っている。
 俺は、全員を地下の牢屋にぶち込んだ。
 そして、寝室の1つに入ると目を閉じ、眠りに着いた。
 疲れと緊張のためか、俺が目覚めたのは、正午の少し前だった。
 掛けていた目覚ましも、効力を発揮しなかったようだ。
 俺は、1つ伸びをすると、キッチンに行きランチを取る。

 飯を食った後、地下に降りると、何やら騒がしい。
 全員が眼を覚まし、今の状況を怒鳴り有っている。
 俺が姿を現すと、全員が一斉に攻撃の矛先を俺に向ける。
 俺は、手に持った一本鞭を横に薙ぎ、牢の鉄格子の上を鞭で舐める。
 俺の期待通り、全員が口をつぐむ。
 唯一、知能傷害がある正一だけは、笑っていた。

 俺は、牢の前に立ち止まると、三浦正二と伊藤泰介の2人に声を掛ける。
「よう…。三浦正二君、伊藤泰介君始めまして。俺は、君達の事をついこの間まで知らなかった…。随分妻と妹が世話を掛けたな…」
 俺の言葉を聞いた2人は、即座に反応した。
 本人達にも忘れられない、出来事だったのであろう。
 しかし、そんな事は俺の知った事じゃ無い。
 俺は、言い訳しようとする2人に、言葉を被せるタイミングで言い放つ。
「俺の名前は叶良顕。涼子の夫で香織の兄だ…。君達2人の家族には、君達がしてきた事をじっくりと見て貰おう」
 そう言って俺は、牢の正面にディスプレイを設置し、指差した。

 そして、正二と泰介に
「この中の、君達以外の4人の身元を、教えて欲しいんだが…。協力するかな?」
 質問を投げ掛ける。
 俺の質問に、歯をむき出して正二がうそぶく。
「誰が…!俺達はな、仲間を売るようなマネはしないんだよ…。どんな事があってもな…」
 その台詞を聞いて、俺はポケットからリモコンを取り出すと、01と02キーを入力し、ボタンを押した。
 途端に正二と泰介の、身体が跳ね上がる。

 俺は、タップリ1分間ボタンを押し続け、ユックリと指を放す。
「その首輪は、お前達の好きなスタンガンに成っている。威力は、今身をもって味わったな…。もう一度質問する、身元を話せ」
 俺の質問に、今度は黙り込む2人。
 俺は03と04を入力し、ボタンを押す。
 すると2人の婚約者、三河千恵と佐藤和美の身体が跳ね上がる。
 泰介が跳ね起き、鉄格子に[止めろ]と叫びながら捉まる。
 しかし、泰介は鉄格子に触れた瞬間、弾き飛ばされ昏倒する。

 俺は、ボタンを押しながら02を入力すると、泰介の身体が跳ね、昏倒から目覚める。
「鉄格子には、触れない方が良い…。電圧が半端無く強いのが、流れるから…」
 俺は、ボタンを放しながら、そう言った。
 [この野郎…]と怒りを満面に浮かべ、正二がにじり寄ってくるが、俺は気にせず
「次は誰が良い?何ならお前ら以外の全員にするか?」
 俺がそう言うと、泰介が口を開いた。
「安曇野だよ!安曇野健太郎って言うんだ!あの安曇野興行の息子さ!お前、あいつからケジメ取れるんなら、取ってみろよ」
 泰介が言った言葉に、俺は次の獲物が広域指定暴力団である事を知った。

 泰介が名前を言った事で、自分の立場が悪くなるのを恐れた正二は
「女は、西川優葉って言うんだ…。今は、池袋でSMの女王をしてる…」
 女の一人の名前を言った。
 俺は、込み上げて来る感情を抑えながら、正二と泰介に質問を加える。
「後の二人は…?いつもカメラを持ってた、主犯の女と、年明けから加わった男の名前は?」
 俺の変化に気圧された二人は、激しく首を横に振りながら、
「知らない…。本当に知らないんだ!いつも、優葉と一緒に来てたし。知ってるのは、優葉だけなんだ…」
「本当だぜ…。俺達は金を貰って、参加してただけなんだ…。いつも、あの女が金を出すんだ…」
 2人は、交互にしゃべり出した。

 要約はこうだった。
 正二と泰介を含む4人は、主犯の女に金で雇われ、陵辱の手伝いをした。
 主犯の女は、香織と顔見知りで、名字か名前に[しん]の文字が付くらしい。
 そして、残りの男は、どうやら主犯の女の親の部下であるようだった。
 此処までで、新しい手掛かりと言えば、主犯の女の自宅は中流ではなく上流の家庭である。
 そして、親もこの行為について、黙認していると言う事。
 俺と香織の知り合いで、[しん]の付く共通の相手。
 俺は、情報が足りないと判断し、新たな情報源の確保を優先させた。
 この間は、実質20秒ほどだった。

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