走狗
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■ 第2章 猟(かり)4

 俺は、頭を切り換え、鉄格子を向くと、拉致してきた家族に話す。
「これを見れば、あんた達がこれから、どんな目に合うか良く解ると思う…。眠る事も、目をそらす事も許さん!お前達に嵌めた首輪が、監視している。全部を見て、自分の家族がどうなるのかを想像しろ!」
 俺は、そう言ってその場を立ち去った。
 立ち止まっていると、直ぐにでも、全員をぶち殺しそうに成ったからだ。
 俺は、コントロールルームに入り、1時間で2℃、部屋の温度を下げていくように、空調をコントロールする。
 気温の低下は、思考力と体力を奪う。
 俺は、安曇野健太郎拉致をパソコンに問い掛けた。
 色々なパターンを検証するが、答えは[不可能]だった。

 牢屋の室温が10度を切った時、監視カメラが異変を映し出した。
 正輔と正二が、つかみ合いの喧嘩を始めたのだ。
 俺は、ニヤリと笑いながら、5秒数える。
 カメラの中で、正輔と正二が痙攣を起こして倒れる。
 俺は、マイクに向かって、話しかける。
「俺は、言ったはずだ…。眠る事も、目をそらす事も許さんと。お前達の視線が外れると、首輪のスタンガンが動き出す…。良く、憶えておけ」
 俺の声は、スピーカーを通り、牢の中に響いた。
 全員首輪を触り、倒れている2人に目を向ける。

 2人は、目線を外しているため、小刻みにスタンガンに責められる。
 目線を戻した正輔が、ようやくスタンガンの攻撃から解放された。
 仕掛けは単純。
 首輪に突いているセンサーが、モニターに向いていなければ、カウントを始め、5秒でスイッチが入る。
 だから、実際はモニターに身体を向けて、姿勢を立てたままなら、眠る事も可能だ。
 そんな器用な事が出来るならね…。
 正二も身体を起こし、スタンガンから解放される。

 俺は、立ち上がりコントロールルームを後にする。
 データが不足している、それも徹底的に。
 苛つく俺は、壁に八つ当たりをする。
 ふと、目線を移すと直ぐ目の前には、パソコンが置いてある。
(確か、足りない物が有ったら、このパソコンから、連絡を入れろと言ってたな…)
 俺は、由木の言葉を思い出し、メールソフトを起動する。
 住所録に記載された名前は、由木、只一人だった。

 俺は、由木の名前をクリックし、メッセージを書く。
 [安曇野健太郎と西川優葉の身辺データと家族データが欲しい]と書き込み、送信した。
 答えは、数分で帰って来た。
 [対価は、奴隷3体の教育と生命の保持]と由木のメッセージ。
 俺は、それを見て[了解]と一言送る。
 すると、30分ほどして、添付ファイルの付いたメールが2通届いた。
 1通は、安曇野家、そしてもう1通は、西川家の詳細データだった。

 俺は、安曇野家の詳細データを開いた。
 父:安曇野栄蔵52歳、金融系ヤクザだが武闘派でも通っている。
 構成員46名の組織だ。
 裏では、銃器の密売やカジノなどの賭場も手広く行っている商売人で、3人目の妻に産ませたのが健太郎だ。
 上の姉3人は、それぞれ別の場所に住んでいて、一番上の姉千春は、若頭の嫁になっている。
 健太郎の母、志緒理は38歳、長女と9つしか離れていない。
 そして、次女夏恵27歳と3女秋美25歳は共に、クラブを経営している。
 安曇野の家族には、常に2人ずつの護衛が付いており、異常が発生した場合は、直ぐに連絡が入るように成っている。

 俺は、パソコンに映し出されたデータに頭を抱えた。
(厄介だな…。こんなに散らばられると、対処の方法が無い…。何とか1つに集まってくれないか…)
 そう考えていた時、1つの案が浮かんだ。
(そうだ…。1つに集めれば良い…。そうすれば、可能だ…)
 俺は、有る状況をシミュレートし、パソコンに拉致可能かと問い掛ける。
 パソコンの回答は、[可能]と回答する。

 安曇野家は、通常時、郊外のマンションのワンフロアーに住んでいるが、有事の際には8階建ての自社ビルで生活する。
 1階は金融窓口、2階は組事務所で、3階4階は構成員の宿泊施設、5階は道場や倉庫、6階から上が幹部の家族に当てられている。
 市街地に昂然とそびえるその建物は、威圧感を持ち、異様な雰囲気を醸し出している。
 通りに面した外壁は、全面強化ガラスで守られ、何の凹凸もない、正に墓石のようだ。
 しかし、この手の建物は、外からの攻撃には強いが、中に細工をされると極端に弱い。
 俺は、計画を煮詰めながら、ほくそ笑んだ。

 計画が出来上がり、俺は準備に取り掛かる。
 牢の方からは、香織の悲鳴が聞こえて来る。
 映像ファイルは、1本目が終わったくらいか…。
 まだまだ、飢えと寒さで苦しんで貰う。
 仕上げは、それからだ。

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