走狗
MIN:作

■ 第2章 猟(かり)8

 俺は、鉄パイプに付いている、スイッチを押す。
 首が繋がれている鉄パイプは、両横に付いてある機械が動き出し、棒をドンドン下に降ろして行く。
 この機械自体が200s以上の重さで、両横を歯車が降ろして行く為、全員顔を下げるしかない。
 俺は、皿の位置を足で微調整し、顔の正面に来るようにした。
 全員顔の位置は、地上5p程だから、必然皿の中身を平らげ無ければ、窒息する。
「本来は、もう少し上で余裕を持って、食事をさせたかったが。今日は、馬鹿が居たので、全員この位置だ。以後謹んで貰いたい」
 俺の言葉が聞こえたかどうかは、定かでは無い。
 皆、手をバタつかせ、必死にシチューを減らしている。
 俺は、笑顔で見詰め、次の食事の準備に取り掛かる。

 正二と泰介の牢の中に、台車を押し込むと、俺は仰向けになるように指示した。
 正二も泰介も逆らって、言う事を聞かない。
 俺は、仕方なく仰向けに成るまで、蹴りまくった。
 5発目にようやく、2人とも仰向けになる。
 俺は、頭台で2人の頭が動かないように固定した後、口枷の栓を抜き、漏斗を突き刺した。
 そして、熱々のシチューをその漏斗いっぱいに注いでやった。
 正二は、足をばたつかせ、ひっくり返りそうだったので、腹を踏み抜いて、大人しくさせた。
 俺は念のため、増設の重りを20s分持って来て、正二の頭台に取り付けた。
「舌で調節しながら喰えば、窒息はしないからな…」
 そう言って2人を放置する。

 振り返ると、正一の様子が変だった。
 どうやらこいつには、この食事は無理だったらしい。
 正一は、ダラリとしたまま、動かなかった。
 俺は、首台を引き上げ、正一の脈を診る。
 完全に止まっている。
 状況を悟った正輔と絵美が、正一の名を叫ぶ。
 俺は、一応心肺蘇生の打撃の打ち方で、一撃入れてみる。
 ドウンと特殊な音が鳴ると、正輔が[貴様!]と怒鳴る。

 しかし、次の瞬間正一が激しく咳き込み、蘇生した。
 俺は、理論だけ習って、一度も試した事の無い技が成功した事に驚いた。
 だが、そんな事はおくびにも出さず、出来て当然のような顔で
「この事故は、お前が招く所だったんだぞ…。今度は、助けないからな…」
 正輔に対してクギを刺す。
 俺は、食事を終えた囚人達を牢に戻し、映像を再開させ、時計を確認する。
 あと1時間少々時間が有る。

 俺は、道具を片付け、洗い物をし、コントロールルームに入った。
 正二と泰介は無事に食事を終えていたが、グッタリとしている。
 そして、もう一つの牢では、そろそろ薬が効いてきた囚人達が、ソワソワし始めた。
 しかし、モニターに視線を向けて居なければ成らず、全員が辛そうだった。
 俺は、そんな囚人達に、助け船を出してやる。
「どうした?トイレを使いたいなら、首輪のスイッチは切ってやるぞ…。彼女達も、何時までもあの格好じゃ、大変だ…。協力してやれ」
 俺の言葉に
『くそー食事に何か混ぜたな!この卑怯者!俺は絶対に屈しないぞ!』
 正輔が怒鳴り、口々にそれに賛同する。
「じゃぁ彼女達は、そのままだ…。お前達は、水分を取ったが、彼女達は平気かな?冷えた室温で体力が落ちているのに…。死ななければ良いな…」
 俺は、囚人達の心を少し押してやる。
 後ろをチラチラ見ながら
『お前が解放すれば良いんだろう!そうすれば、辛い思いをせずに済む!』
 正輔の言葉に俺は切れそうになった。
「映像に映っている俺の妹は、どんな風だ…?楽しそうか…?お前らが、お前らの理論で進めるなら、俺はそれに乗ってやる…。お前達の息子の理論にな…」
 俺は、極力感情を殺しながら喋ったが、完全に怒気を押さえる事は出来なかった。
 俺の言葉に、黙り込む囚人達。

 そして、お腹のプレッシャーに耐えられ無かったのは、正二の妹千佳だった。
『おトイレ使います!お姉ちゃんゴメンね…。でも、お姉ちゃんもこのまま死ぬより良いでしょ…』
 そう言って立ち上がる。
 俺は、千佳の首輪のスイッチを切ってやる。
 千佳は、パジャマのズボンを降ろし、千恵の頭を抱え込むと、糞尿を漏斗に流し込んだ。
 表面を特殊加工した漏斗は、千佳の軟便と尿を全て、千恵の口に流し込む。
「千恵。一人目クリアー…。解放まで後6人」
 俺の言葉に、美登里が反応する。
『この気違い!私もトイレを使うわ!和美恨んでも良いわ…。でも、こうするしかない』
 そう言いながら立ち上がり、タイトスカートに手を突っ込み、ショーツを降ろす。
 こうなると後は総崩れだ。
 最後まで粘っていた、正輔は途中で便器を入れ替わり、1回の排便で2人を使った。
 他の者も、2巡目を出し、早々に2人を使った。
「今から解放に行く。少し待て」
 俺は、そう言いながらコントロールルームに用意していた、あんパンとパックの飲み物を持ち、牢へ向かった。
 途中、鞄を1つ持ち、牢への扉を開ける。

 俺は、牢内に入ると手早く拘束具を外し、鞄に詰め、それぞれにパンと飲み物を与え、何事もなかったように出て行った。
 そして、正二と泰介の牢に入り、2人の口枷を外してやる。
 口汚く罵る2人に[お前達が考えた事だろ]と言うと、押し黙った。
 俺の作業中、突き刺すような目線で、見詰める家族の視線。
(クククッ…、良い目線だ…。それを、香織や涼子のように恐怖で塗り固めてやる。絶対に…、そして絶望の内に殺してやる…)
 心地よい敵意に身を晒しながら、俺は身の内が震えるのを感じた。
 俺は、道具部屋に鞄を放り投げ、1階に向かった。
 新たな獲物を猟に行く時間だ。

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