走狗
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■ 第2章 猟(かり)16

 起動したパソコンを操作し、項目[肉体改造]を選ぶ。
 項目の中には色々有ったが、ここでは、無視する。
 [豊胸処置]有った、有った。
 俺は、細部項目をクリックする。
 [豊胸処置]の項目だけで10有る。
 俺は、薬物を選ぶ、項目3つ。
 その中で、即効性を選ぶと、1つだった。

 俺は、細部事項を読んでみる。
 品名 cell changer(tipeB)
 用途 豊胸・変形
 用法 注射器による直接注入。
 効果 迅速性・永続性・弾力性に富、造形も自由度が高い。
 短所 コストが高く、使用量の調整が複雑なため、専門知識が必要。死亡例有り。
 その他 幹部の使用承認を要する。
 俺は、説明を読んで、一抹の不安を感じた。
 俺が使うと失敗して、和美が死ぬ事に成る気がする。

 俺は、和美に向かって説明する。
「和美…。とても使い方が難しいらしい…」
 俺の説明に、和美は頷き[構いません]と答える。
 俺は、暫く考え最終手段を使う事にした。
 メールソフトを起動し、由木にセルチェンジャーの使い方を聞く事にする。
(また、ややこしい要求が来るんじゃないか…)
 俺は、一抹の不安を抱きながら、メールを送信した。

 数分後、回答が戻って来た。
 回答は[素人には、使用不能]だった。
 俺は、この時閃いた、由木に医者を派遣して貰う事を思いついたのだ。
 この後の肉体改造や、医療処置について、俺は余りにも無知だ。
 専門家の参加は、必要不可欠だと考えた。
 早速、その内容をメールに書いて送ると、数分後[適任者を派遣いたします]と回答が送られて来た。
 新たな要求が来なかった所を見ると、由木も必要だと考えていたのだろう。

 俺は、メールの内容を和美に告げた。
「和美…。薬は存在するし、ここにも有る…。だけど素人には、手出し出来ない部類らしい」
 すると和美は途端に震えだした。
 俺は、そんな和美に更に告げる。
「だから俺は、専門家の派遣を依頼した。直ぐに来るらしい…」
 和美は、それを聞いて、元の無表情に戻る。
(こいつら…。言葉は理解するが、行動は否定されるかどうかだけだな…。使えないなか…)
 俺は、薬の効果と副作用を差し引いても、マイナスが大きいと感じだした。
 和美を連れて1階に行くと、千恵は料理を作り終えていた。

 俺は、基本的に食事と水分補給を、同時に採らせるつもりだったから、今日の昼飯はスープパスタだ。
 そのまま地下で飯を食わせ、俺は1階に上がって来た。
 高々昼食を食わせるのに、40分近くも掛かってしまった、人数が増えて来たのが原因だが、何か効率の良い方法を考え無ければ成らない。
 階段を元に戻し、歩き出そうとすると、丁度玄関に来客が現れる。
 俺は、連絡を入れてから、今の時間の短さに訝しんだが、ここに来客するのは、由木の関係者のみだと理解している。
 扉を開けると、黒いパンツスーツを着込んだ、長身の黒髪の美女が、大きなトランクの傍らに立っている。

 濡れたような切れ長の瞳に、スッキリと伸びた鼻梁、酷薄そうな薄い唇には、有るか無いかの笑みを湛え、緩やかな顎のラインは驚くほど滑らかだ。
 華奢な肩からのラインには、不似合いなボリュームの胸、それが腰の括れを強調し、程良く引き締まったヒップラインへ続く、スラリと伸びた足下には黒のパンプスがよく似合っていた。
 絵に描いたような絶世の美女を目の前に、俺は呆然としながら、右手を出し挨拶をする。
「始めまして、叶良顕です」
 美女は、スッと細いしなやかな指を軽く伸ばして、俺の右手を軽く握り、クスリと笑い名前を名乗る。
「美加園晃です。どうぞ宜しく」
 その声は、有り得ない程低い、明らかな男の声だった。

 俺は、ビクッと驚き、思わずその手を放し、一歩後ずさった。
 美加園と名乗る人物は、太い声でコロコロと笑い、俺に話し掛けた。
「どう…驚いた?これは私の作品…。でも、やっぱり声だけは、変えられないのよね…」
 そう言いながら美加園は、身体をくねらせ自分の姿を見せつける。
 俺は、事態を飲み込めず、呆気に取られた。
「あら…何とか言って下さいな…。良顕さん…どう?私綺麗でしょ…」
 音声と映像が合致せず、出来の悪いアフレコ映像を見ているようだ。
 俺は、溜まらず、美加園という人物に、質問した。
「あの…すいませんが…男?…」
 俺の質問にコロコロ笑いながら、美女はパンツのジッパーを下ろし、有り得ない巨根を引きずり出すと
「見ての通り…。バイセクシャルですわ…」
 ニヤリと笑って答えた。
 俺は、頭を抱えながら、意味が違うだろうと突っ込みそうになった。
 これが、両性具有の人造シーメールDr.マッドサイエンティストの美加園晃との出会いだった。
 この時の俺は、この縁が終世の腐れ縁に成る事など、夢にも思わなかった。

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