走狗
MIN:作

■ 第3章 覚醒2

 火曜日の夜から水曜日の朝に掛けて、真っ先に拉致した、三浦・伊藤の両家は、ほぼ23本の凌辱ビデオを見終わる頃だ。
 水曜日の夜から木曜日の朝に拉致を終えた、安曇野家もその半分以上を見て、俺の意図を理解した筈だ。
 後は、金曜日の昼に拉致を終えた、キーパーソンの西川家をどう料理するかだ。
 西川優葉、こいつが主犯に繋がる唯一の手掛かり、こいつの口を割って、情報を手に入れ無ければ、何も成らない。
 俺は、牢の前で静かに微笑んだ。

 衣装を着替えた俺は、調教部屋に転がした5人を、部屋の隅に置いた粗末な椅子に座り、眺めている。
 すると、最初に眼を覚ましたのは、父守だった。
「な、何だ…こ、ここは何処なんだ…」
 目覚めて驚き、ボー然とする守に、俺は優しく言った。
「ここは、貴男達を処分する、処刑場ですよ…」
 俺の声に驚き、こちらを振り返る。
 俺は、あえてこの家族には、首輪を付けなかった。
 何故なら、首輪を付けて、動きを制御しなければ成らない者は、この家族には居ないからだ。
「な、何だ君は、全日本ツーリストの添乗員は何処だ!」
 声を張り上げ、精一杯の虚勢を張って、守は名前の通り、家族を守ろうとしている。
 俺は、そんな父親を尻目に、寝た振りを決め込んでいる、乙葉と優葉の2人が許せなかった。
「ここに、全日本ツーリストの添乗員は、居ないぜ…。それより、いい加減睡ったふりは、止めとけ…。バレバレだ…」
 俺がそう言うと、2人は起き上がり
「で…。何処の組織…?私達は、移籍しないって言ってるでしょ…」
 乙葉がそう言うと、優葉が
「ねえ…。父さんと母さんは良いけど、全一を巻き込むの止めてくんない!普通の高校生なんだから…」
 髪を直しながら、優葉が吐き捨てた。

 どうやらこの2人は、拉致に成れているらしい。
 俺は、少し頭に来て、ぼそりと呟く。
「正二、泰介、健太郎…。この3人に覚えは、有るか…」
 俺の声に乙葉は、[はあー?]と声を上げたが、優葉はピクリと反応する。
「4年前から2年前まで…。香織と涼子…。憶えてるか」
 俺は更に続けると、優葉が
「姉さん!やばい!別件だ…殺されるかも!」
 そう言って顔色を変え、立ち上がって走り出す。

 俺は、それを追う事をせず、乙葉をジッと見据える。
 実に肝の据わった女だ、俺の目線を真っ向から受け、怯む事もしない。
「優葉…、戻ってらっしゃい。どう足掻いても、ここからは出られない…。その男の許可無くね…」
 乙葉は、優葉を呼び戻す。
 肝が据わっているだけじゃ無く、頭の回転も速いと見える。
 俺は、足を組み替え、乙葉を見続ける。
 意志を込めて、憎悪も込めて見続けた。

 すると、乙葉は守を見て、こう言った
「父さん…。多分このままじゃ、私達全員死ぬわ…。こいつの目がそう言ってる…。優葉が、何かやったみたいだけど、3人は許してくれるように、話してみるわ…」
 俺に聞こえるように、ハッキリした声で父親に話し、俺を見詰める。
 俺は、乙葉の言葉も、気持ちも、意志も、理解したが、それは、とても俺の許せる物では、無かった。
 俺は、静かに目を伏せ、首をユックリ横に振った。
 乙葉は、目を伏せると、ユックリ大きく息を吐いた。

 その時、出口を探しに行っていた、優葉が手頃な金属の棒を持って、俺に殴り掛かって来た。
 俺は、事前に気配を察知していたから、よける動作を始めようとした瞬間、乙葉が言葉を発した。
「止めなさい!」
 透き通る制止の声が、優葉の振りかぶった、金属の棒を止めさせた。
 俺は、乙葉を見詰めながら、体重移動を止め元に戻した。
 優葉は、何故止められたのか解らず、戸惑いながら乙葉の元へ、歩いて行った。
 戻って来た優葉に、乙葉が凜とした声で
「優は、そんなんだから、失敗するの!ちゃんと、本質を見抜きなさい!この人を、暴力でどうこう出来る人か、解らないの?だから、みんなを巻き込むんでしょ!」
 乙葉の激しい叱責に、優葉が項垂れる。

 乙葉は、姿勢を正して俺に向き直り、深々と頭を下げて
「優葉が何をしたのか、私は知りません…。ですが、私以上に父や母や弟は、知らない事です…。自分勝手な言い分だと思いますが、どうか3人は許して下さい…」
 俺に懇願した。
 俺は、込み上げてくる、怒りを必死に押さえる。
「解った…。今から西川優葉が何をしたのか、見せよう…。そしてそれを見て、自分がどうすべきか、自分で決めてみろ…」
 俺はそう言って、リモコンを操作し、プロジェクターで壁面に、凌辱ビデオを写しだした。
 西川家には、ダイジェストで流して、22本目までを4時間で回した。
 途中で、弟と母親も起きて、そのビデオを見入っていた。
 俺は、ビデオを流している最中、一切喋らなかった。
 当事者の優葉は、隅の方で膝を抱えている。

 22本目を映し終えて、俺は一言、乙葉に言った。
「ここに映っている2人は、俺の妻と妹だ」
 乙葉は、唇を噛んで震えている。
 父親は、余りのショックに放心状態だ。
 母親に至っては、泣き崩れ、弟は蒼白に成っている。
 俺は、優葉に最後の23本目に何をしたのか、聞いた。
 優葉は、更に踞り、何も答えない。

 乙葉只一人が、俺を真正面から見詰め、大きく顎を引く。
(こいつ…。最後迄見せろと言うのか…。気丈だな…、良いだろう望み通り見せてやる…)
 俺は、乙葉の気持ちに応え、23本目の最後のシーンを見せてやった。
 俺の自宅爆破シーンを。
 乙葉は、それを見てガックリと肩を落とし、3人を見渡した。
 3人は、呆然と壁面を見、それがどう言う事なのかを、理解出来て居ない。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊