走狗
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■ 第3章 覚醒12

 俺は、力尽きた乙葉を抱えると、シャワールームに向かう。
 ダラリと身体中の力が抜けた乙葉を、俺は丁寧に洗ってやる。
 不思議な事に、乙葉は失神している筈なのに、俺の身体が触れているとピクピクと、その部分が反応する。
 そして、身体を洗っている時には、顔に微笑みまで浮かべた。
(こいつ…寝てるのか…夢でも見てるのか…)
 俺は、本気で疑い、シャワールームの床に寝かせてみる。
 すると、表情を消し、只の失神状態に成る。
 俺は、首を傾げながら乙葉の髪を洗い、トリートメントをすると、泡を落として身体の水気を拭いブローした。
 良く涼子と風呂に入り、やっていたなと、昔を思い出す。

 乙葉をベッドに戻し、俺は時間を確認する。
 時計は、07:11を示している。
(やべ…。完全に遅刻だ…。確か、美加園は…6時には、朝田が目覚めると言っていた…)
 俺は、急いで服を着ると部屋を出る。
 そこで、俺を呼びに来た千恵とぶつかる。
「あ!ご主人様!早く来て下さい!何か、大変な事に成っちゃってます!」
 千恵は、俺の顔を見るなり、慌ててそう捲し立てる。
 俺は、急いで研究室に向かった。

 研究室に入ると、朝田が血だらけで、暴れている。
 俺は、その手に持った鋏と血を流してしがみ付く、和美を見て
(失敗したか!くそ!取り敢えず…眠らせる!)
 状況を判断し、朝田に向かって突っ込む。
 突っ込んでゆく俺と、朝田の目が一瞬合った。
 俺は、勢いと体重を乗せた蹴りを、朝田の寸前で強引に止めた。
 朝田は、俺を見て泣いていたからだ。
「あ…あ、ああ〜っ…ご主人様…やっと…やっと、お顔を…拝見できました…」
 そう言いながら、くずおれるように、俺の足下に縋り付く。
 俺は、意味が解らず朝田を見下ろし、美加園を見て、和美を見た。
「良ちゃん!何してたのよ…6時に来てって言ってたでしょ!こいつ、パニック起こして、暴れ回ったじゃないの!」
 美加園が、俺に猛烈な勢いで、捲し立てる。
「この人…。ご主人様に…不要だと思ったらしくて、死のうとしたんです…」
 和美が血だらけの、身体をヨロヨロと起こして、俺に説明する。
 そこに、後ろから千恵が現れて
「か、和美ちゃん…。一生懸命…、止めたんです…けど…」
 走ってきて、荒くなった呼吸を整えながら俺に説明する。
 全て俺が招いた、結果だった。
 俺は、朝田に近づくと、頭を踏みにじり
「何故…俺が来るのを、待てなかった…」
 静かに怒りを込めて、言い放つ。
「はい…ご主人様が…お顔を見せて下さらないのは…自分が不要だからだと…頭の奥から聞こえて…すいやせん!」
 朝田は、俺の足の下で、ひたすら這いつくばる。
「そんな理由で…。お前は、俺の奴隷に傷を付けたのか…。お前なら自分の、急所をひと思いに貫けただろう…」
 俺の指摘に、朝田はビクリと震える。
「お前は、自分の都合で暴れただけだ…。そうでないなら、和美は傷ついて居ないし、お前は死んでいる…。違うか?」
 俺の言葉に朝田は
「お、仰るとおりです…。申し訳ございやせん…」
 ブルブル震えながら、詫びる。
「そいつを責めるのは、お門違いよ…。良ちゃん!全部貴男が悪いの!こんな、事してて時間に遅れる。貴男がね!」
 美加園は、昂然と胸を張って、俺を責める。

 その時、フラフラと乙葉が研究室に現れる。
「ご主人様、こちらでしたか…。申し訳御座いません、いつの間にか、寝入っておりました」
 すっと、頭を下げて詫び、顔を持ち上げ直立した乙葉を見詰めて、俺以外の全員が息を飲む。
「な…なに…。何したの…良ちゃん…」
 辛うじて、美加園が俺に質問した。
「こいつの、仕上げで遅れた…悪かったな…」
 俺がそう言うと、美加園は文句が言えなくなっていた。
 それ程、乙葉の変化は、インパクトが有った。

 研究室の一騒動は終焉を迎え、和美は俺の腕の中で、美加園に傷の治療を受けている。
 麻酔は俺の、抱擁とキスだ。
 和美が痛がると、俺が抱き締めキスして口を塞ぐ。
 千恵は、それをずっと羨ましそうに見詰め、乙葉は感情を面に表さず、同じように見詰めていた。
 和美の苦悶が終わり、傷口が塞がりかけると
「ちょっと、良ちゃん!あんたあの子に何したのよ!一晩で変わりすぎよ…殆ど反則じゃん!」
 美加園が俺に食って掛かってきた。

 取り敢えず、俺はデータ、データと喚く美加園を無視して、4人の奴隷を並べる。
 俺は、前に並んだ奴隷に、一人一人指をさしながら、役割を伝えた。
「千恵。お前は、牢に戻るとけなし役だ…。彼奴らがどれだけ酷い事をしたか、自分達にどんな被害が出てるか、吹聴しろ」
「和美。お前はフォロー役だ、千恵がけなした事や、責めに合ったモノをフォローしろ」
「乙葉。お前は分析だ…。俺の狙いが何なのか、分析して奴らに、情報を与えろ…。俺の狙いを忘れるな…。情報を操作しろ」
「忠雄。お前は全体のコミュニティーの管理だ、みんなが同じ方向を向くように、管理操作しろ」
 俺は、4人にそれぞれ、役目を与え注意点を伝えた。
「全員。耳にこれを、差し込んでおけ。お前達の話は、囁き声でもこのマイクが拾うし、スピーカの音も外には漏れない」
 俺は、そう言って、以前千恵と和美に与えた、骨伝導のマイクスピーカーを乙葉と忠雄にも与える。

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