走狗
MIN:作

■ 第3章 覚醒14

 7対1だが、今の俺には、こいつらを嬲り者にする程度は、文字通り朝飯前だった。
(しかし、これじゃ駄目だ…。このままじゃ、本気を出した由木に勝てない…)
 俺は、近い将来、由木とも戦いに成る事を予測の中に入れている。
 想定しておいて、準備しておく事は、何かがあった時、それだけ選択肢が増える事に成るからだ。
 出来るだけ、全員にダメージが行き渡るように、加減をしながら7人の間を移動する。
 1時間ほど経った時、俺の前に立っているのは、栄蔵、忠雄、正輔、正二の4人だった。
 俺は、突っ込んで来ようとする、栄蔵の動きを制し、道具部屋に向かい木刀を4本持って来た。
「話にならん…。こいつを使え」
 そう言いながら、4人に放り投げる。

 実際俺は、息一つ乱れていないが、4人は肩で大きく息をし、フラフラに成っている。
 4人は、足下の木刀を取り、一斉に俺に打ち掛かってくる。
(そうだ…、これぐらいの、プレッシャーが無ければ、意味がない…)
 俺は、4人の攻撃をかわしながら、正確に急所に触れて行く。
 突いてしまうと一撃で決まる場所を、丹念に加減し、4人に攻撃を続けさせた。
 30分ほど経って、最後迄残った栄蔵が嘔吐しながら膝を着いて、[もう良い]と言った。
 誰も、気絶などさせずに、音を上げる迄、俺は全員の体力と気力を削った。
「もう良いのか…?いつでも良いぞ、相手をしてやる…。俺に敵意を向けたら、女でも容赦しない…」
 そう言って、全員を睨み付ける。

 女達は、一様に恐怖に引きつった顔を向け、何度も頷いていた。
 女達には、俺は化け物のように映っているだろう、7人に殴りかかられ傷一つ負わず、逆に男達を戦闘不能にしたのだから。
 俺は、調教の開始を宣言し、モニターのカレンダーを廻した。
 4Pの[だるまさんが転んだ]が出た。
 俺は、人数を考え2組作る事にし、ルーレットを廻す。
 最初は、女を決めるルーレット、次に男を決めるルーレットを廻した。
 ダーツは、優葉、正二、泰介、健太郎の順番で、投げさせた。
 ここで、面白い事が起きた。
 優葉がダーツの矢を、回転で弾かれ的を外したのだ。

 優葉の顔が、一瞬で凍り付く。
 的を外すと、その役割は自分で、負わなければ成らないからだ。
 メンバーに選ばれた優葉を外し、残りの3人でダーツを投げる。
 決まったメンバーは、一組目優葉、正輔、啓介、全一、そしてジョーカー悦子。
 二組目は、夏恵、忠雄、守、正一、ジョーカー和美の8人だった。
(和美が入ったか…。どう振る舞うか、見物だな…)
 俺は、腹の中でニヤリと笑う。

 男達全員に、薬を飲ませて準備を整える。
「この調教には、勝者が存在する。そうだな、各組で1番に成った家族には、今晩、暖を取れるように、毛布を貸し出そう」
 そう言うと、俺はスタートを宣言し、かけ声を正二と健太郎に掛けさせる。
 俺は、辺り見ながら、始まった4Pを見る。
 そこで、ふと俺は正二の妹、千佳に目を止める。
(ん…千佳の奴…。この間の自分と重ねているのか…?揺さぶって見るか…)
 俺は、食い入るような目で、4Pを見詰める千佳を呼びつける。
 千佳は、弾かれたように返事をし、恐怖に顔を染め俺の側まで、恐る恐る歩いて来る。

 全員が千佳が何をされるのだろうかと、不安な目つきで見ている。
 俺は、千佳に4Pを真正面で見る位置に、四つん這いに成るように指示すると、その背中の上に馬乗りになる。
 みんな、それを見た時、思わず目線を逸らし俯いた。
 俺は、スッと千佳の耳の穴に、骨伝導スピーカーマイクを差し込む。
 耳に違和感を感じた千佳は、それが何なのか分からず震え出す。
「動くな…。囁くように喋るだけで、良く聞こえるだろ…」
 そう言って、千佳の動きを止めた。
「う、うん…」
 千佳の戸惑いと驚きが、手に取るように解る。
「そんなに怖がるな…。お前を今すぐ、どうこうする気は、全くない…」
 俺の言葉と声に、少し安堵したのか、緊張が少しだけ解けた。
「俺の質問に嘘偽り無く答えたら、この後も悪いようにはしないぞ…」
 千佳は、俺の提案に驚きながら
「えっ…、本当?…。それなら…、何でも話すから…」
 うわずった、声で返事をする。
「だが、誤魔化しや嘘を言った時点で、終わりだからな…。死ぬ程、後悔したくなければ、正直に答えろ…」
 俺のクギを刺す言葉に、ゴクリと唾を飲み込み返事をした。
「お前は、正二達のした事をどう思う…」
 俺の質問は、千佳にとって意外だったのか、戻って来た返事は[えっ?]だった。

 しかし、もう一度同じ質問をすると[酷い事だと思う]と答えを返してきた。
「お前がそれに対して、報いを受ける必要は、有ると思うか…」
 また以外だったのか、即答できず、暫く考えた後。
「解ら無い…。私が当事者なら…、出来ないと思うけど…。したいとは…思うと…思う…」
 俺は、千佳の頭をポンポンと、上から優しく叩いた。
 千佳は、驚きながらも、俺のするがままにしている。
「千佳…。お前は、あれを見てどう思う…」
 俺は、目の前で繰り広げられる、4Pの感想を聞いた。
「あ、あれは…怖い…」
「それだけか?」
「う、うん…」
「本当に今の返事で、後悔しないんだな」
 俺の言葉に、千佳がブルブルと震え出す。
 俺には、解っている。
 千佳がこれを見て、違う答えを出している事を。

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