走狗
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■ 第3章 覚醒16

 俺は、ユックリとキッチンの椅子から立ち上がると、乙葉に向かい進み出そうとした。
 その時、俺は有る事を思い出す。
(美加園!あいつが居ない!待て…?乙葉の変わり様は…)
 そこ迄、考えついた時、キッチンの奥に気配を感じた。
 俺は、無言で気配のする場所まで進み、物入れの扉を開ける。
 物置の中に、隠れた美加園を発見した。
 美加園は、バインダーとモバイルPCを持ち、引きつった笑いを俺に向ける。
「り、良ちゃ〜ん…。あ、あのね…こ、これはね…」
 しどろもどろに成りながら、美加園が言い訳をしようとしている。
 俺は、そのまま拳を握り、右手を後ろに引き絞った。

 その手を乙葉が、必死で止める。
「ご主人様…。お、お待ち…く…ださ…い…」
 乙葉は、俺の意に反する行動を取っているせいで、激烈な恐怖感に耐えながら、俺を制止している。
 俺は、直ぐさま乙葉を抱き締め
「乙葉!大丈夫だ…。俺は怒っていない…、お前の判断は間違っていないぞ」
 耳元に告げる。
 乙葉は、俺の声で恐怖から解放され、緊張を解いた。
 俺は、落ち着いてきた、乙葉を抱き締めたまま、ユックリ美加園に向き直る。
「何度だ…?何度言えば…、お前は俺に、ちょっかいを出さなくなる…」
 絞り出すような俺の声には、明らかに殺意が籠もっていた。
「千恵を使い、和美を使い、乙葉まで…。お前は、俺に何を望むんだ!」
 俺の怒りを真正面から受け、美加園が目を閉じて、素早く十字を切って、俺の胸に飛び込んでくる。

 狭い場所で、後ろに乙葉が居たため、俺はかわす事が出来なかった。
 美加園が俺に抱きつき、俺はそれに肘打ちを降ろしかけた時
「叶さん!聞いて…。ここには、山のようなカメラと、盗聴器がある…。近くでないと、話せないのよ!」
 小さな声で、しかしハッキリと早口で、俺に告げた。
 俺の肘打ちは、ピタリと止まり、真正面から美加園の目を覗き込み、頷いた。
「何処がベストだ…」
 俺も同じように、小声で素早く聞く。
「ベッドか大浴場」
 美加園がまた小声で返し、俺に縋り付く。
「今日の風呂、乱入してこい」
 俺はそう言うと、美加園を引きはがし、放り投げる。
 美加園は、コロコロとキッチンを転がり、パタンと倒れた。
 乙葉が俺と美加園の間で、オロオロとしている。
 俺は、乙葉を抱き寄せ
「大丈夫だ…話は付いた。ところで、鍋は良いのか?」
 安心させた後、レンジの上の鍋を指差した。

 乙葉は、飛び上がって、レンジの火を消しに行った。
 俺が早めに気が付いたお陰で、どうやら料理は、無駄に成らなかったようだ。
 俺は、起き上がり、スタスタとキッチンを出ようとする。
 ここに居たら、俺の理性が持ちそうに無かったからだ。
「あっ!ご主人様、お待ち下さい…。宜しければ、味見をお願いしたいんですが…」
 乙葉が、俺の背中に、声を掛けてくる。
 俺の足がその場にピタリと止まり、動く事を拒否する。
 暫く考えたが、乙葉の申し出を断る理由が無く、振り返った。
 その途端、動きを拒否していた足が、滑らかに動き始める。

 乙葉の横に行き、鍋の中のシチューを味見する。
(う、旨い…!こいつ…、凄いな…)
 俺の動きが止まったのを見て、乙葉がモジモジと手をこね出し
「あの…美味しく有りませんか…?私の家のキッチンと違って、勝手が分からなくて…。調味料とかも、普段使ってない奴で…。いつもは、もっと上手に出来るんです…でも、すいません…美味しく有りませんか…」
 狼狽えながら、俺の答えを求める。
「俺は…、こんな旨いシチューは…食った事がない…」
 驚いた顔で、素直な感想を述べる。
 乙葉の表情は、途端に明るくなり、それを過ぎて、陶然となり紅潮して、腰が砕けてへたり込む。

 俺は、乙葉の行動が余りにも唐突すぎて、目が点になる。
 乙葉は、ハッと気が付いて顔を真っ赤にし、両手で顔を覆うと嫌々をして
「ご主人様…言い過ぎです…。もう…」
 恥ずかしそうに、俺に告げる。
 俺は、乙葉の手を掴んで引き起こすと、乙葉は何かに気付いて、手をお尻に回す。
 そのまま、俺の方を向きながら、ニコニコと作り笑いを浮かべ、場所を移動する。
 俺は、乙葉に
「待て…。気を付け!回れ右!」
 号令を掛ける。

 乙葉は、俺の言葉に反応し、号令通りに動いた。
 俺の目の前に現れた乙葉のスカートは、尻の下半分から太股の真ん中辺りまで、グッショリ濡れていた。
 俺に隠したかった物を見られ、乙葉は消え入りそうに成っている。
 俺は、そんな乙葉を後ろから抱き締め
「木偶達に飯を食わせろ…。その後で俺達で、食事をしよう…」
 耳元に囁く。
 乙葉は、コクンと頷いて、小さく[はい]と答え、目を擦りながら食事の用意を始めた。
 俺は、キッチンの椅子に座り直して、テキパキと動く乙葉を見詰める。
 乙葉は、俺の視線に気付きながら、どうにか俺の目を見ないように、顔を赤く染め動いている。
 木偶達の食事が終わり、俺はキッチンのテーブルで、乙葉を待つ。
 乙葉は、俯きながら、俺に料理を運んできた。

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