走狗
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■ 第3章 覚醒23

 乙葉は、静かに自分の育った環境をみんなに話し出した。
 乙葉と優葉は、悦子の姉夫婦の子供だったが、交通事故で両親を亡くした。
 親を亡くした2人は、唯一の肉親である悦子に保護される事となり、姉夫婦の建てた家で、4人の生活を送り始めた。
 最初は、上手く行っていた生活も、全一が生まれた事により、激変した。
 悦子は、乙葉と優葉を使用人のように使い、息子を溺愛する。
 守もそんな悦子に賛同し、2人を扱き使った。
 それでも、普通に学校に通っていた乙葉に、不幸が起きた。
 近隣に住む金持ちの老人が、乙葉を見初め、家事手伝いに寄越すように、悦子達に申し出た。
 悦子達は、金に目が眩み、乙葉を差し出すように、老人の家で働かせる。

 老人は、特殊な嗜好を持つ、いわゆるサディストであり、乙葉を辱め凌辱の限りを尽くした。
 それが小学校6年から18歳迄の出来事で、その生活から解放された理由が、老人の死だった。
 乙葉は、中学校卒業後は、家に帰る事を許されなかったので、解放されて戻って来て愕然とする。
 妹の優葉は、全一の召使い権オモチャに成っていた。
 乙葉が帰って来た時、優葉は全裸でくつわを付けられ、背中に全一を乗せ本物の鞭で、殴られていた。
 乙葉18歳、優葉13歳、全一9歳の事だった。
 乙葉は、悦子達に懇願し、優葉に対する虐待を止めるように頼み込んだ。
 悦子がそれに対して出した答えは、月々40万円の支払いだった。
 後で知った事だが、それは老人が乙葉に対して払っていた、金額と同額だった。

 乙葉は、18歳でその金額を払うために、躊躇無く風俗に入った。
 しかし、乙葉の身体は長年の凌辱のため、男に対して反応しなかった。
 乙葉は、そこで女王の道を選び、金を稼いでいった。
 7年もの凌辱生活で憶えた技術と、男に反応しない身体が、乙葉を人気の女王にした。
 しかし、悦子達は約束を守る事無く、優葉の虐待を乙葉が成人するまで続けた。
 乙葉が成人して身元引受人に成ると、今度は親権を盾に、月々100万の金を要求した。
 そして、更に500万600万と何かと理由を作り、金を差し出させる。
 乙葉は、女王として毎日12時間以上働いているにも関わらず、家賃3万円の古びたマンションで、優葉とひっそりと暮らしていた。
 そして、やっと優葉が20歳に成って、成人したと思ったら、この事件に巻き込まれてしまった。
 だけど、自分の妹がしでかした不始末は、必ず償いたいと言った。

 乙葉は、ここまでを話し、泣き崩れた。
 話を聞いていた、全員が目頭を押さえる。
 俺は、モニターを見ながら怒りに震えた。
 俺は、忠雄のスピーカーマイクを繋ぎ、意見を聞いた。
「おい…。お前どう思う…?今の話を聞いて、許せるか…」
「無理っす…。俺にゃ…我慢出来ねぇっす…。私は、極道ですが…クズは…許せません…」
 俺の質問に、忠雄が即答する。
「良いぞ…、許可する…。そして、俺が止めに入った時、今の話を、俺にしろ…。俺も許せない…」
「はい…。ご主人様…、有り難う御座いやす…」
 忠雄の気合いが入った声に、相当の怒りを感じた。

 忠雄が立ち上がると、釣られるように啓介も立ち上がる。
 無言で守に近づくと、忠雄が頬をおもむろに掴んだ。
「今の話は…、本当ですか…?正直に答えて下さい…。私は、本職ですから、嘘かどうかは直ぐに解りやす…」
 忠雄は、低い落ち着いた声で、守に詰問する。
「本当だったら、どうだって言うのよ!貴方達には関係ないでしょ!これは、家庭の事情よ!」
 悦子が金切り声で、喚いた。
 もう、嘘も言い訳も通らない状況に、自らを追い込んだ。

 それを聞いていた、安曇野家の女性陣が立ち上がる。
「へーっ…。家庭の事情で虐待するんだ…」
 志緒理が静かに詰め寄る。
「って言うか、私らも酷い人間だけど…。それ以上だね…」
 秋美が柳眉を逆立て、言い放つ。
「そこまでしたんなら…。自分に返って来ても文句言えないわね…」
 夏恵が静かに、告げる。
「あんた…。思い切りいわしてやりなよ、こいつらはゴミ以下よ…」
 千春が忠雄に言った。
 こうして、ヤクザ家族のリンチが、西川家を襲った。
 俺は、ズタボロに成るまで、モニターを見詰める。

 西川家がボロボロに成ったのを見計らって、俺は打ち身用の細胞活性剤を持ち牢に向かう。
 牢の扉を開け、中に入ると
「何をしている!うるさいぞ!」
 低い声で恫喝する。
 ビクリと全員が震え、西川家をリンチしていた者が輪を解いた。
 安曇野家の真ん中で、守と悦子と全一が白目を剥いて、倒れている。
 輪の中から、忠雄が進み出て、俺に説明をした。
 俺は、全ての話を聞くと
「こいつらがクズだという事は、良く解った…。だが、ここの全権は俺にある。お前達が勝手にどうこうして良い、理由には成らない」
 そう言うとポケットから薬を取り出し
「しかし、ここには、こう言う便利な薬もある。この程度の傷なら30分も有れば完治する。今回はデモンストレーションだ…」
 手袋を嵌めて、西川家に塗り始める。

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