走狗
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■ 第3章 覚醒29

 そんな中俺は、今日の功労者を発表した。
「今日は、調教の下準備を始めたばかりだが、早くも効果を現した。千恵、お前だ…」
 千恵に向かって俺が言うと、千恵は深々と頭を下げ
「有り難う御座います。これからも、ご主人様に褒めて頂けるよう、努力いたします」
 嬉しそうにそう言うと、他の奴隷達は少し項垂れる。
「他の者も、結果を出す事を考えながら行動しろ。だが、自分が工作している事は、絶対にバレさせるな」
 全員にきつく言い聞かせた。

 俺は、他の奴隷を帰す前に、明日からの方針を伝える。
「明日からは、お前達を奴隷として扱う。千恵と和美は、以前俺に服従した事にしているが、乙葉は明日調教が始まる前に、俺に適当な理由を付けて、申し出ろ。それと忠雄は、そのまま潜伏して、最後までみんなをコントロールするんだ…。お前が、一番重要な役割だ」
 そう言って、忠雄を正面から見詰める。
 忠雄は、ゴクリと唾を飲み込み、頭を下げて
「はい、ご主人様!どんな事が有っても、最後まで努めさせて頂きやす…」
 固く俺に誓った。
「よし、今日はこれで戻るんだ、行くぞ」
 俺は、そう言って立ち上がり、牢に向かう。

 牢に入る前に、催眠ガスを噴射し、眠りを深める。
 換気をした後、牢に3人を戻し、俺は千恵を連れて戻ってゆく。
 今日は、俺の横で千恵が眠る。
 それが、奴隷達の最大の褒美だった。
 千恵は、俺の横を四つん這いで嬉しそうに微笑みながら、尻を振って付いてくる。
 俺は、そんな千恵の頭を軽く撫で、微笑んでやる。
 千恵は、有頂天に成って、激しく尻をくねらせた。

 朝、目が覚めると俺の腕の中で、千恵が安らかな寝息を立てている。
 俺は、千恵を起こし、牢まで送った。
 去り際に千恵が
「今日も頑張ります…。ご主人様の横で、眠れるように…」
 小さく囁いて、戻っていった。
 俺は、薄く笑い千恵の頭を撫で、牢の扉を閉める。
 今日からは、少しきつめに追い込まなくては成らない。
 俺は踵を返し、1階へ上がっていった。

 俺は、リビングでカメラの女について考えていた。
 一言で言うなら、[冷酷]に尽きる。
 あの当時16・7の少女が、同世代とはいえ、4人もの男女を操作し、人の命さえ何とも思わない。
 ハッキリ言って、化け物としか思えない。
 しかも自分の情報を2年間、ほぼ毎日のようにいた人間に、露程も悟らせない用心深さ。
 俺は、八方塞がりに成った状況に頭を抱えた。
「今日は、どんな用事だ…?由木。朝早くから現れるなんて、重大な事でも有ったか?」
 俺は、自分の後ろに向けて、言葉を投げ掛けた。
「ほう…。わたくしの気配に、気付かれましたか…?いえ、重大と言う程では御座いません。ただのお知らせと、確認のためです…」
 由木は、リビングの俺の背中側の隅から、音も無く現れた。
 静かに歩き出し、俺の座るソファーを過ぎて、視界に入る場所まで移動すると、ユックリと身体を回し、俺に向き直る。
「なにぶん契約に関する事は、早急にお伝えしないと…。行き違えに成ってしまっては、重大になってしまいます…」
 由木の言葉に、俺は答える。
「契約?ああ、俺の自由を確保する、対価か…」
 俺は、由木に目線を向け、それだけの事を言う。

 由木は、俺の目を真正面から見詰め、俺の状態を見抜こうとする。
「契約云々を唱えるなら、俺も言わせて貰おう…。何故、西川家の情報を操作した…?両親が養父母って事を隠す必要が有ったのか?」
 俺は、逆に由木の心を読もうとした。
 暫く無言で、にらみ合った。
 すると、由木の唇が少し上がる。
「そうですか、その件に関しては、お互いに認識の齟齬が有ったようで御座いますな…。如何でしょう、最終的に清算という形では」
 由木が妥協案を出して来た、俺はそれに乗る事にする。
「今回の懸案に対する、こちら側の要求で御座いますが。西川全一の身柄を引き渡して頂く、と言うのが主の依頼です」
 由木は、そう言って頭を少しだけ下げて、俺の出方を待った。
 俺は、由木の条件に、乗った。

 俺は、由木を伴ってリビングを出て、地下へ向かった。
 牢の中では、モゾモゾと起き始める木偶が数人出始めた。
 牢の隅で身体を丸め、震えながら眠る全一を見て、俺は顎をしゃくる。
 由木は1つ頷くと、俺の方に向き直り大きく頷いて
「では、遠慮無く預からせて頂きます…」
 由木が全一の首筋に触れると、全一の身体から一瞬で力が抜ける。
 それを軽々と担ぎ上げ、何事もなかったように牢を出て行く。
 守は、既に目覚めていたが、由木の異様な雰囲気に押され、何も話せないでいた。
 俺はそんな守を放置し、牢を出て扉を閉める。

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