走狗
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■ 第4章 狂宴23

 俺は、処置室に入り、そこに立つ乙葉の姿を見て驚いた。
 先ず俺の目に飛び込んできたのは、緑色の大蛇、アナコンダだ。
 右の踝から、右足に絡みつき恥骨の上を通って、腹を一巻きして背中に姿を消している。
 そして、胸の真ん中に大きな女郎蜘蛛が、両の乳房一面に巣を張っている。
 長い足がその巣全体に伸び、まるで乳房を抱え込んでいるようだ。
 その巣の頂に、2匹のピンクの蝶が絡め取られている。
 蝶の胴体は、乙葉の乳首だった。
 左の恥骨の上には、赤い百足が一匹、左足には黒い百足が、太股の真ん中辺りまで這い上っている。
 赤い百足の胴体は、恥骨から、後ろに回り込み、そのまま両尻タブを這っている。
 胸から回り込み、鎖骨の辺りで背中を下って来たアナコンダの口が、その百足の胴をくわえていた。
 乙葉が床に座り込んで、足を開くと両股の付け根に、極彩色の蝶が羽を広げる。
(確かに…依頼通りだ…。しかし…俺は…取り返しの付かない事を…したのかも知れん…)
 それは、乙葉の瞳に間違えようの無い、或る色が浮かんでいたからだ。

 乙葉は、疑似とは言え、全身に入れ墨を入れられ、欲情していた。
「後10分もすれば、定着するわ…その間、触らないようにね」
 晃は、俺にそう言うと、何か不満そうだった。
「どうした?何かあったのか…」
 俺が晃の異変に気付き、質問すると
「別に…。何でもないわよ…」
 晃が拗ねたように、そっぽを向く。
「その人が、内ももに蝶を描いてくれって、言ったのを断ったから…」
 健太郎がボソリと呟いた。
「何だ、そんな事か…?良いじゃないか、描いてやれよ…」
 俺が健太郎に言うと、一言呟いた。
「おかま…駄目なんです…」
 俺は驚き、晃を見ると、晃は真っ赤な顔で、怒りを顕わにする。
 俺は、そんな晃を見て、笑いを堪えるのに、自分の腹筋を総動員した。

 俺は、健太郎を待たせ、乙葉を連れて地下に向かう。
 乙葉の身体に巻き付く、蛇と百足が足を前に出すたび、全身で妖しく揺れる。
 調教部屋を通り、牢の扉を開けると、中からは嬌声が響いてくる。
 俺は、先に乙葉を入れると、その嬌声は潮が引くように止んでいった。
 そして、全員の息を呑む気配が、伝わってくる。
 俺は、静かに成った牢内に足を踏み入れると、全員の視線は驚きで染まり、乙葉に釘付けに成っていた。
 牢の中央に歩み出すと、奴隷達に奉仕の終了を伝える。
 そして、入り口が死角になっている、西川家の檻の前に立つと、優葉を見る。

 優葉は、守に、散々殴りつけられたので有ろう、顔を腫らし口と鼻からは、血を流している。
 守の上で俺の方を向き、腰を揺さぶる優葉は、虚ろな視線を俺に向けている。
 俺は、そんな優葉を暫く見詰め、言葉を掛けた。
「よう…。お父さんと仲良くやってるか?」
 俺の言葉に、何の反応も見せない。
 俺は、そのまま、話を続けた。
「さっきは俺の指示に逆らって、お父さんに反抗したな…?だから、罰を受けて貰う…。いや、貰っただな…」
 ここまで言った時、優葉に初めて反応が返って来た。
「お、お姉ちゃん…。お姉ちゃんに何かしたの?ねえ…、会わせて…。お願い…、お願いします…」
 優葉は、守から離れて、にじり寄って来る。
 俺は、優葉の目を見て、ニッコリ微笑むと、右手を挙げて手招きする。
 乙葉がゆっくり、俺に向かって歩いて来る。

 優葉も徐々に視界に入る、姉の姿を見て、安心し、訝しんだ後、凍り付く。
 牢の真正面で止まり、ゆっくり廻る乙葉を、優葉は驚きの表情で、凍り付きながら見詰める。
 そして、聞く者の魂を、凍らせるような悲鳴を優葉は放った。
「お前のせいで、乙葉はこうなった…。さあ乙葉、今日からはその身体で、お父さんと仲良くするんだ…」
 檻の扉を俺が開けた時、優葉の瞳が入り口に向き、ゆっくり首を左右に振る。
 そして、その止めは、守の一言だった。
「へへへっ、こりゃ良いや、こんなそそる身体、見た事無い…。早く入って来い。はめまくってやる…」
 優葉は、激しく首を振り、牢の入り口をその身体で塞ぎながら、項垂れ呟き始める。
「…て……して、…殺してよ、…私を…殺して、…お願い…お願いします…」
 徐々に大きく、ハッキリ呟いた優葉が、勢いよく身体を回転させ、檻から飛び出し、俺の足に縋り付くと
「お願いします…!私を殺して下さい。あの男と一緒に、殺して下さい。お願いします!お姉ちゃんを、これ以上苦しめないで!」
 優葉が大粒の涙を流し、俺に哀願する。

 守が優葉の哀願に腹を立てたのか、手放していたリードを掴みに、態勢を変える。
 四つん這いで、手を伸ばした格好で、リードを掴んだ守は、それを固く握る。
 その瞬間俺は、優葉のスイッチが入らないように、左手で固定し、右手で強く持ち手の方を引く。
 俺の力に引かれ、守が体勢を崩して引き込まれ、檻の鉄格子に顔面を打ち付ける。
 俺は、優葉に向き直り
「その言葉を…お前は何度聞いた…。俺の妹と妻の口から、何度聞いたんだ…」
 静かな、しかし怒りを含んだ俺の声に、号泣する。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
 何度も頭を地面に打ち付けながら、俺に必死に詫びる。
 俺は、優葉の首輪を外すと、立ち上がり、牢を出て行く。
 そして、道具部屋から爆弾付きの首輪を持ち、リモコンを手に牢に戻った。
 牢に戻った俺は、優葉の首に首輪を嵌める。

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