走狗
MIN:作
■ 第4章 狂宴25
健太郎との約束を果たすため、俺は地下に夏恵を連れに行く。
罪人でも交わした約束を守るのは、俺にとっては当然の事だからだ。
牢の中に入ると、皆一様に疲れている。
精神的にも、肉体的にも疲労は、ピークに近いだろう。
(そろそろ、奴隷と木偶に格差を付けるか…)
俺は、夏恵を連れて行くついでに、奴隷達を一旦引き上げさせる事にした。
安曇野家の前に来ると、俺は夏恵を呼び出した。
夏恵は、戸惑い怯えるが
「行って来い…そいつの言う事を聞くんだ…」
驚いた事に、栄蔵がそう言って、夏恵を送り出した。
しかし、そんな態度とは裏腹に、栄蔵の目は重く沈み、深い色を湛えている。
(こいつ…。何を考えている…?この目は…何か、重い決断をした時の目だ…)
俺が真正面から、栄蔵の目を覗き込むと、栄蔵はフッと笑って目を閉じた。
俺は、気になりながらも背中を向け、奴隷達を呼び、牢を後にする。
牢から出た4人に、俺は風呂に入って食事の用意を命じる。
食事は、これからは、男女を分けて取らせ、男には強精剤、女には弱めの催淫剤を混入するように指示した。
そして、夏恵を連れて処置室に向かう。
処置室には、晃と健太郎だけだった。
そして、俺は健太郎に夏恵を引き渡す。
「健ちゃん…。これは、どう言う事…」
夏恵が混乱し、俺に説明を求める。
俺は肩をすくませ、健太郎を示すと
「そいつがな、乙葉の入れ墨を入れる替わりに、お前と一晩過ごさせろって言うんだ…。入れ墨を入れた後でね…」
夏恵に説明してやった。
夏恵は、目を大きく見開き、ガタガタと震え出す。
「な、夏姉…。お、俺の気持ち…知ってたろ…頼むよ…」
健太郎が泣きそうな顔で、夏恵に迫って行く。
夏恵は、嫌々をしながら、後ずさり俺にぶつかる。
健太郎は、俺を見て、晃を見る。
晃は、肩を竦めてツカツカと夏恵に近づくと、スッと何かのスプレーを出し、夏恵の顔のすぐ前で、噴射する。
数秒首を振ってた夏恵が、コトンと落ちる。
俺は、そのまま夏恵を抱き上げ、ベッドに寝かせる。
健太郎が晃に向かって
「どれだけ眠ってる…?」
必死の顔で聞くと、晃は
「今の噴射だったら、良いとこ10分ね…。追加する?でも2時間ぐらいよ…」
うんざりして、嫌そうな顔で健太郎に聞いた。
健太郎は、カクカクと首を縦に振る。
俺は、ムカ付いて来て、処置室を出て行った。
そのまま、自室に向かいベッドに腰掛け、身体を倒す。
暫く、ぼーっとしていると、廊下をパタパタと走る音がし、更に暫くすると逆方向から、またパタパタと音がする。
誰かが廊下を走って、行き来しているようだ。
3度目の音が鳴った時、俺は頭に来て扉を開け、音の主を捜した。
音の主は、乙葉だった。
「乙葉…。何をして居るんだ…パタパタと…」
俺の声に振り返った乙葉は、汗だくで青い顔をしている。
異変に気付いて、声のトーンを変え、同じ質問をすると
「優葉が…。優葉が、何処にも居ないんです…。処置室を出て、案内している最中に…消えてしまったんです…」
乙葉は、泣きそうな顔で、俺に話した。
処置室を出てからだと、今から1時間程前の話だ。
俺は、一瞬[逃げたか]と思ったが、乙葉を置いて行く訳がない。
するとその時、キッチンから悲鳴が上がった。
千恵の声だ。
俺は、急いで1階のキッチンに向かった。
キッチンの入り口には、千恵と和美が腰を抜かして、驚いている。
俺が声を掛けると、千恵は俺を見詰め。
「お、お化けー」
大きな声を出して、必死で這い寄ってくる。
俺は、その千恵を飛び越して、キッチンの入り口に立ち、中を見る。
その姿を見て、俺は言葉を失った。
そこには、優葉が血を流して、座り込んでいた。
優葉の頭は、髪の毛が一本もなく、眉毛も無かった。
そして、口から血を流し、ガタガタと震えている。
俺に見詰められ、泣きそうな顔をする優葉。
そして、俺の後ろに乙葉が現れ、優葉の姿を見るなり、気を失った。
俺は、乙葉が床に付く前に抱き留め、ユックリと床に降ろし、優葉に振り返る。
「何をしている…。何でそんな格好に、成っている…!」
俺が質問すると、優葉は震えながら答える。
「あ、あひょ…ごおひゅひんはま…わらひ…ゆうひへ…ほひふへ…」
俺は、優葉の不自然な喋り方に気が付き、口を開けさせた。
そこには、舌がとんでも無い事に成って居た。
真っ赤に爛れ、倍以上の大きさに膨れ、表面からは、ドクドクと血が溢れて居る。
「これは…何をした…」
俺は、優葉の目を見ながら、質問した。
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