走狗
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■ 第5章 走狗3

 忠雄がリビングの扉を潜り、夏恵を犬のように引っ張って、登場した。
「ご主人様…。お召しにより参上しました」
 そう言いながら、入り口で平伏する忠雄を見て、安曇野家の生き残りは、全員息を飲む。
「良く来た…。お前の仕上げを見せてみろ…」
 俺がそう命じると、忠雄は頭を下げ
「はい、ご主人様…。只今、ご覧に入れます…。おい、夏!」
 忠雄が短く、夏恵に指示すると、夏恵はモソモソと動いて、正座し平伏すると
「忠雄様の奴隷にして頂いた夏恵です。呼び名はナツと成りました。犬以下のゴミから始めさせて頂きますので、奴隷になれるまで見守ってください…」
 夏恵は、俺にそう伝えた。
 忠雄は、俺に頭を下げ
「すいません…。私の勝手な判断で、こいつをゴミにしました…」
 俺に詫びを入れる。
「構わん…。そいつの管理は、お前に任せる…。ゴミだろうが廃棄処分だろうが、好きにしろ…」
 俺は、忠雄に告げた。
「はい、有り難う御座います…。こいつを、立派な奴隷に仕上げますので、その時は仕えさせてやって下さい…」
 忠雄は、更に俺に頭を下げた。

 沈黙がリビングを占領する。
 その沈黙を破り、俺は忠雄を呼びつけた。
 忠雄は、千佳と乙葉の横に並ぶと、平伏する。
 俺は、顔を上げるように言うと、この壮年奴隷の労をねぎらった。
「忠雄…。お前は今回、良くやった…。立ってその椅子に座れ…。これから、お前は普段、床に正座はしなくて良い…椅子に座れ…」
 俺の言葉に、忠雄は全身を振るわせ
「有り難う御座います…。有り難う御座います。勿体ない程の計らい、有り難う御座います」
 何度も頭を下げる。
 俺は、止まらない忠雄を制して、椅子に座らせる。
 ただ、それだけの事で忠雄は、号泣している。
 安曇野家の者達にとって、俺達の世界は異世界だった。
 抱き締められ口吻をされただけで、絶頂を極める奴隷。
 椅子に座る事を許可されただけで、号泣する奴隷。
 自分達の知る世界の浅薄さに、ショックを受けた。

 俺は、安曇野家の面々に向き直り
「これが、俺の主従関係だ…。付いて来れるか…」
 静かに告げた。
 安曇野家の者は、俺の言葉に驚き、戸惑った。
 その中で、尤も早く意見を口にしたのは、千春だった。
「あ、あの…。私は、以前、お風呂で千佳様が感じられる所を拝見し…。とても…とても、惹かれました…。その後…、ご主人…。叶様に教えて頂き…、夫との事を考えて居りました…。まさか、まさか既に夫が叶様の奴隷に…。お願いします…。私を…、お仲間に…、奴隷にして下さい…。お願いします…」
 千春が平伏した時、晃から連絡が入った。
『良ちゃ〜ん…、4人の処置終わったわよ。我ながら良い出来』
 俺は、千春を制しながら、晃に尋ねた。
「千恵と和美は、動かせるか?」
 俺の言葉に晃が
『全然平気よ…。どこ?声からするとリビング辺り?』
 答えを返し、場所を教えた。

 俺は2人をリビングに送り出すように晃に頼むと、千春に向き直る。
「千春…。今からここに来る物を見て、同じ事が言えたら…。奴隷にしてやる…」
 俺はそう言うと、千春の目を覗き込んだ。
 千春は、俺の目に射抜かれ、唾を飲み込み、頷いた。
 そのまま、数分が経った。
 リビングには、2度目の沈黙が流れる。
 そして、リビングの入り口に、2人の人影が現れ、俺以外の全員が息を飲んだ。
 入り口から入って来た、元千恵と元和美の姿を見て、言葉を失っていた。

 千恵は、犬に成って居た。
 髪の毛は全て剃られ、頭皮を剥いで持ち上げられ、三角の耳を象って立ち上がっている。
 顔は、鼻の下から上あごに掛けて持ち上がり、大きくひしゃげ、それに下あごが添えられる程、長く成って居る。
 言ってみれば、頬から上は人間、そこから下は犬を模している。
 手の指は、握った状態で纏まり、指の関節は無い。
 足は、つま先立ちの状態で、足の裏にはそれを支えるように、[犬の踵]が付いている。
 尻には、尾てい骨から真っ直ぐ伸びた、短毛種の立派な尻尾が、身体から生えている。

 和美は、豚に成って居た。
 髪の毛は全て剃られ、頭皮を剥いで持ち上げられ、三角の耳を象って垂れ下がっている。
 顔は、頬が膨れ、その間に上に向けられた鼻が覗き、鼻の下は鼻先に一体化していた。
 言ってみれば、頬から上は人間、そこから下は豚を模している
 手の指は、ひずめの形に変えられ、指自体が無い。
 足の形も強引に変えられ、つま先立ちで蹄を作られていた。
 尻には、尾てい骨からクルリと巻きの有る、豚の尻尾が、身体から生えている。

 リビングに居る全員は、その壮絶さに言葉を失う。
 俺の前に、2匹が辿り着くと、激しくじゃれついてくる。
 俺は、2匹に伏せるように命じた。
 2匹は、俺の命令に従い、その場に伏せて、指示を待つ。
 俺は、千春を見詰め
「どうだ…?これを見て…。まだ俺に、服従を誓えるか…」
 俺の質問に、千春は固まる。
 俺は、その場の全員に、目線を向けると、ソファーから立ち上がる。
「忠雄…乙葉…。この場は、お前達で仕切れ…」
 俺は、2匹のリードを持って、リビングを出て行った。

 玄関ホールには響子と絵美が、香織と涼子の姿に変えられて、待っている。
 俺は、その姿を見て胸くそが悪くなったが、正二と泰介の精神を抉るには、必要だと判断した。
 4匹を連れて、俺は階段を下りて行く、今回で2人に決定打を与えるつもりだった。
 地下の調教室には、由木に頼んだ[有る物]を、優葉に運ばせて有った。
 それを見た響子と絵美は怯え、千恵と和美は決心した。
 牢の扉を開けて、俺は中に入る。
 自分で設定しておきながらだが、相も変わらぬ寒さに、辟易した。
 俺は、檻の中に居る正二と泰介に出るように命じ、罪人用の檻に入れ手足を拘束した。
「よう…元気か…。まあ、この状況で、元気なら相当神経が太いな…。今日は、お前達に見せたいモノが出来た」
 俺は、ここまで言うと、2人を見詰め、残忍な笑顔を見せる。
 2人は、目線を逸らし、俯いた。
 俺は、そんな2人に構わず
「お前達も懐かしいだろ…。おい!入って来い」
 2人に話した後、入り口に声を掛ける。

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