走狗
MIN:作

■ 第5章 走狗6

 俺は、甘える2人に対して、ポツリと呟く
「千恵…。和美…。俺は、酷い奴だと思うか…」
 頭を撫でながら2人に質問をする。
「はい…。行為は、とても酷い事だと思います…。でも、御主人様は、それを心の中では、否定されていると思います…。だから…、私は違うと思います」
 千恵は、俯きながら話し出し、最後は俺の目を見詰めながら、言い切った。
「ご主人様は…、理由があって…、こう言う事をしているだけで…。本当は、優しい方だと…、私は思います…」
 和美が頬を染め、俯く。
(こいつらに…、俺を否定出来る筈もないのに…。俺は、何を聞いて居るんだ…)
 俺が自嘲気味に、フッと笑うと、千恵は俺の考えを見事に見抜き、震えながら話し出した。
「今。御主人様は…、私が…、どうあっても御主人様に逆らえないと…、お思いでしょうが…。私は…、私は、逆らっても、御主人様に…、本当の…事…を…お伝え…します…。私が…、どう…な…ても…か、か、…まい…ま…せ…ん…」
 千恵は、大きく目を見開き、大粒の涙を湛えながら、込み上げてくる心の中の恐怖と戦い、ブルブル震えて、俺に言い切った。
(こいつ…。暗示を越えて…俺に…)
 俺は、千恵の言葉に驚いたが、それ以上に暗示を越えて、自分の気持ちを伝えようとする千恵の精神力に驚いた。
 千恵は案の定、パニックを引き起こし、自分の精神状態を崩壊の危機に晒す。
 俺は、状態の危機に素早く気づき、千恵を抱き締め
「千恵!千恵!大丈夫だ!お前ほど俺を信じている奴は居ない!大丈夫だ、俺は、お前の忠誠を知っている!落ち着け…大丈夫だ…千恵…」
 千恵に静か力強く、話しかけた。
 すると、千恵はぴくっと小さく跳ね、ショック状態から戻って来た。
「御主人様…。御主人様ー…。怖かった…!怖かったけど、千恵の忠誠を…、思いを、知って欲しかった…。千恵は道具だけど…。御主人様を誰よりも思う…、道具に成りたいんです…。御主人様の質問にも…、御主人様の期待にも、ちゃんと応えられる…道具に成りたいんです…」
 千恵は、俺に抱かれ、泣きながら俺に思いをぶつけて来た。
 俺は、そんな千恵を優しく抱き締める。

 すると、それを見ていた、和美が同じようにチャレンジをしようとしたが、俺はそれを止める。
 今日は、精神的にかなり辛い調教を受けて、これ以上精神を危険に晒させる訳にはいかない。
 残念そうな顔をして俯く和美を、俺は笑って抱き寄せ、同じように抱き締めた。
 俺は、そのまま2人の身体を優しく撫でて、労をねぎらった。
 俺には、そんな事しか出来なかった。
 何故なら、俺は誰の思いにも応える事は出来ない、いや、その資格のない人間だからだ。
 今はただ、俺が与えられる全てで、この2人の労をねぎらってやりたかった。

 1時間ほどして、晃から作業終了の連絡が入り、俺は2人を見詰める。
 千恵と和美は、いつの間にか俺の膝枕で眠っていた。
 スヤスヤと心地よさそうな眠りを、醒ますかどうか迷っていると、千恵が身動ぎし、目を醒ます。
 続いて寝起きの悪い和美まで、目を醒ました。
「起きたのか…」
 俺が話しかけると
「はい…。ご主人様が、困っている気がしたので…目が覚めました…」
「私も同じです…。変なの…いつもは絶対、目が覚めないのに…」
 2人は、目を擦りながら、俺に伝えた。
 俺は、目覚めた2人を見て、驚いた。
 2人とも何処か艶のようなモノが、滲み出しているからだ。
(こいつら…変わったな…。いや、化けたのか…、どちらにしても…凄いな女は…)
 どんな苦境も、自分のプラスに変える女の凄さを、俺は肌で感じた。

 リビングに着いた俺達は、それぞれが席に着いた。
 俺は、3人掛けの真ん中に座り、俺の横には千恵と和美が座る。
 もう一つの3人掛けに、乙葉と千佳が座り、1人掛けには晃と忠雄がそれぞれ座った。
 そして、その周りを紺色のメイド服を着た、7人の奴隷が甲斐甲斐しく世話をする。
 俺は、乙葉に命じて、優葉も連れてくるように命じると、事情を知らない者達は驚いた。
 その中で忠雄は、笑いながら
「やっぱり…。ご主人様は、殺してなかったんですね…。私の目に狂いは無かった…」
 嬉しそうに一人で笑っていた。

 暫くすると千恵が突然立ち上がり、
「乙葉さ〜ん…、場所を変わって下さい…。私達は、ご褒美一杯貰いました…。だから、お譲りしま〜す」
 千恵は、乙葉の気持ちを思いやって言い出した。
「ち、千恵ちゃん…。あ、有り難う…。じゃぁ、お言葉に甘えるわね…」
 乙葉が立ち上がって、場所を変わると
「ふん!私は、また、ほって置かれるのね!良いわよ…もう」
 晃が途端に拗ねだした。
「医師は、私と変わりましょ…。はい、せ・ん・せ・い・どうぞ…」
 和美が立ち上がると
「和美ちゃん…、あなた良い子ね…。そのオッパイ、絶対綺麗に仕上げるからね…」
 そう言いながら、晃はそそくさと場所を変わる。

 和んだ雰囲気で続く酒宴で、晃が俺に提案する。
「ねえ、良ちゃん…。この子達もう、酷い怪我とかする事無いでしょ…。じゃぁ、私が手を入れても構わない?素材的に良い子、一杯居るのよね…」
 ほろ酔い気分の晃が、俺にしなだれながら、言って来た。
「どうするつもりだ?何か意味があるのか?」
 晃は、一瞬真面目な表情で頷き、また戻ると全員に
「ねぇ。みんな〜、今より綺麗に成りたい人、手を上げて〜っ。この世界的天才形成外科医が、ただで最新の技術を使って上げるわよ〜っ」
 晃の言葉に、女達全員が手を上げる。
 そんな中、乙葉までもが、小さく手を上げていた。
「乙葉ちゃん…。あんた、まだ綺麗に成りたいの…欲張り過ぎ…」
 晃が呆れて、乙葉に言った。
 こうして、奴隷達は逐次晃の美容手術を受ける事となった。
 これが後々、大きな意味を持つとは、俺はその時考えもしなかった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊