走狗
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■ 第5章 走狗18

 俺は、踵を返して、出て行こうとすると
「良いのか…このまま帰ってしまって…。何も知らないで戻ると、お前も、お前の奴隷も直ぐに死ぬぞ…。俺のようにな…」
 新藤は、自嘲気味に笑いながら、俺の足を止めさせる。
 そして、俺は更に深みへと嵌って行く。

 俺は、晃の所に行き、今日の新藤家で起きた事の裏を取る。
 晃は、今日は千恵と和美を手がけ始めたようだ、ベッドに2人が横たわり、スヤスヤと眠っている。
 晃は、その横で疲れた身体を椅子に凭せ掛け、身体を休めていた。
「よう…大丈夫か?ちょっと良いか?」
 俺が処置室に入ってくると、晃は驚いて
「どうしたの良ちゃん?誰か責めすぎたの?」
 俺に問い掛けてくる。
 俺は、顔の前で手を振り、笑い飛ばすと
「少し、話を聞きたい…。譲渡権って知ってるか…」
 俺が今日新藤に譲られた、権利の話を聞いた。

 俺の言葉に、晃が固まる。
「り、良ちゃん…。そ、それ…どこで…聞いたの?…。まさか、誰かに譲られたって…事、無いよね…」
 晃は、震えながら、引きつった笑いを浮かべ、俺に質問する。
 俺は、そんな晃の質問をあっさり認めた。
「ば、馬鹿ーーーー!大馬鹿者!何で…何で受けちゃったのよ!…。ああ〜ぁ…駄目だ…」
 晃は、俺に怒鳴りまくると、その後ガックリと肩を落とす。
 俺には、何の事だかさっぱり解らない、何故なら、俺は説明すると言った、新藤の話を5分も聞かなかったからだ。
 新藤の話は、あまりに常識を逸脱して、俺の気分を著しく害した。
 俺が晃に言葉を掛けようとした時、晃は手を上げて俺を制し、携帯電話を取りだして、何処かに連絡を入れる。
 暫く話した後、携帯を切り、俺の方を向いて、諦めた表情で告げる。
「ようこそ…、マテリアルへ…」
 そう言って、頭を深々と下げた。

 その仕草は、何処か仰々しく、晃には不似合いに感じたが、俺は頷いた。
「今、確認したわ…。良ちゃん、本当にメンバーに成ってる…。これの意味解ってたの?…。大変な事なのよ…」
 晃は、怒りをかみ殺したような表情で、俺に言った。
 俺は、そんな晃に反論し、今日有った出来事を、晃に語った。
 俺の話を聞き終えた晃は、腕組みをし暫く考えると
「良ちゃん…オールって言われたのよね…?で、その人はロストしたって…」
 俺に念を押してきた。
 俺は、晃に頷くと
「それは、ゲームの賭けた物の事よ…。オールは、文字通り全て、地位・財産・権利・それと命よ…。そして、ロストって言うのは、それら全てが無く成ったって事。で、最後に一つだけ許されるのが、譲渡権…。通常は、子供や親族の名前を上げるんだけど…。それを、渡されたら、別の権利を使って生きたまま渡すか、若しくは死ぬまで、離せないの…」
 晃は、俺に説明をした。
 ここまでは、話を聞いて来たから、知っている。
 但し、新藤の話は、尾ひれが付いて、とても俺の神経を逆撫でした。
「今、日本には、70人のメンバーが存在してるわ…。このメンバーの上位20人未満は、国内限定のゲームしか出来ないの…。そして、良ちゃんがその70番目…。良ちゃんは、これからそのメンバーと、ゲームをしなければならないの…。人を陥れて破滅させるゲームをね…」
 晃の説明は、俺が新藤から聞いて、気分を害した場所に来た。
「それで…、俺がそのゲームを断ったら…。どうなるんだ…?」
 俺は、低い静かな声で、晃に問い掛けた。
「この組織は、基本的に純粋なパワーゲームで成り立ってるの…。上位の者がゲームを申し込んで、下位の者が断る場合は…、不戦敗に成る…。必然、相手の要求を飲まなければ成らないわ…。それが、今回のように全てを求められても、断れない…」
 晃も俺に静かな声で、語り返す。

 俺は、晃の説明で初めて、どうやらとんでも無い世界に、足を踏み入れた事を認識した。
「俺が、それを回避する方法は…、有るのか…?」
 俺は、事の重大さに、呟くように、晃に質問をすると
「唯一有るのは、トップに成るしかないわ…。これは、並大抵の事じゃ無いけどね…」
 晃は、静かに俺に答える。
「まぁ…。良ちゃんは、まだ保留状態なのよ…。多分ね…、確定してたら本部から、お目付役が送られてくるわ…。由木さんみたいな人…」
 晃は、俺にそう言って、説明を終えた後、大きな溜息を吐いた。
 それに釣られて俺も大きな溜息を、一つ吐いた。

 俺は、肩を落とし、項垂れながら処置室を後にしようと、踵を返したが有る事を思い出し
「晃…。お前優葉に何か細工したか?こう、感度が上がるような…」
 俺の質問に、晃は
「しないわよ…。只でさえ暇が無いって言うのに、そんなややこしい処置するわけ無いじゃん…」
 俺に向かって、ぶっきらぼうに言った。
 俺は、それを聞いて、さっきの優葉の反応が、素の物だったと知った。
(あいつも…、反応が上がったのは…、俺に従属したからなのかな…?まぁ、これから解るだろ…)
 俺は、自分を納得させ、処置室を出た。

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