とある悪魔のものがたり
紅いきつね:作

■ 2

「旅行に行かない?」
香織がそう提案したのは高3の夏休みが始まる少し前の事だった。
「え?そりゃ構わないけど、大丈夫なのか?」
祐悟がそう聞き返したのには理由がある。
香織の両親には会ったことがないが、厳しいと聞いている。
門限は夜の7時、外泊なんてもっての外。デートに出かけても夕方にはサヨナラである。
だからなのか香織の身持ちは固く、二人の間に肉体関係はない。実はキスだってまだなのだ。
でも祐悟は香織との付き合いに満足していた。
もちろん健康な男子として女の体に興味はあるし、早く体験したいとも思っている。しかし無理強いするつもりはなかった。身体のつながりではなく、心で二人はつながっている。そう感じていたのだ。
「うん。パパにお願いしたの。高校最後の夏だから思い出を作りたいって。」そう言って香織は頬を赤く染めて視線を外す。「・・・えっとね、やっと決心がついたの。祐悟にあげるって・・・」
「ほ、本当!?」
「そこで聞き返さない!」
恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった香織は耳まで赤くなっていた。
「ごめん。あ、でもどこに行く?そんなに金があるわけじゃないし」
「それなら大丈夫。実はね、軽井沢におじさんの家があるの。でもね、今は仕事で日本にいないんでいつでも使っていいって言われてるんだ。」
「まじで軽井沢!?すげーじゃん。あ、でもメシとかどうしよう。」
「あのねー祐悟、私が料理できないとか思ってるんじゃないでしょうね」
「できるの?」
「当たり前じゃない!これでも料理の腕は評判いいのよ」
「じゃあ香織の手料理期待してるよ」
「もちろん。期待しちゃってね。行くのは夏休み入ってすぐでいいかな?」
ふたりとも大学進学を希望している。なので夏休み後半はあまり時間が取れないかもしれない。そうすると夏休み入ってすぐというのは妥当なところだろう。
しかし夏休みが始まるまで1ヶ月もない。決心したならすぐやらせてくれればいいのに・・・と思わないでもなかったが、女は初体験のシチュエーションを大切にすると雑誌で読んだ記憶がある。香織もそうなのだろうと祐悟は我慢することにした。
「OK。楽しみだな」
「・・・待たせちゃってごめんね」
そう言う香織の顔はまだ赤いままだった。

駅のすぐ近くにあるスーパーで食料品を買い込むとそこそこの量になった。
予定では2泊3日なので少し多いような気がしないでもなかったが、香織が念のためと言って多めに買ったのだ。
「駅からバスだっけ?」
「うん。ちょっと遠いけど。」
バスの乗客は、祐悟達二人の他に5人の中年男性のグループがいるだけだった。
一番後ろの席に座った祐悟たちをちらちらと見ている。
(どうだ、俺の彼女は可愛いだろう)
中年男性達の視線が主に香織に向けられていることを感じた祐悟は優越感に浸る。お前らみたいなオヤジには縁がないだろうと。
「あ、いっけない」
香織がバックから携帯を出そうとして床に落としてしまう。
拾うよと祐悟が言う間もなく香織が前かがみになって携帯を拾う。
その時にワンピースの前が開き、淡い水色のブラジャーに包まれた大きな双丘が見えてしまう。
一瞬見惚れてから、はっと中年男性の方を見ると案の定にやにやしながら凝視していた。
「お、おい」
「なあに?」
きょとんとした顔で香織が祐悟の顔を見る。
さすがに「おっぱいが丸見えだから気をつけろ」とも言えず、代わりにオヤジたちを睨みつける。
彼らは相変わらずニヤニヤしながら、何かを話していた。

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