特別授業−現場主義
百合ひろし:作

■ 4

そして部屋に入ると、後から入って来た恵子が鍵を閉めた。これで夏奈子は完全に逃げられなくなった。
「保健の特別授業って……何をするんですか?」
夏奈子は覚悟を決めて聞いた。これさえ乗り切れば今度こそ自由になれる―――。先程の道代の言葉、煙草が云々言っていた訳だから煙草に関する事はこの授業を受ければ無かった事にされる、という風に考えた。道代は顎に指を当てて少し考えた後、
「じゃ、そのコート脱いで。暑かったでしょう」
と言った。別に考えていたのはどうやって進行するかを考えていただけであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。夏奈子がコートの前のボタンを外して袖から右腕、左腕と順番に抜いていってブラジャーとパンティを露にすると、道代は笑顔ではしゃいだ。
「まあ、可愛い。本当に縞パンのコを間近で見れるなんて思わなかったわ」
しかし、道代はある一種の違和感を感じた。そう―――、バランスが悪いのである。夏奈子は『折角』白地に水色の縞パンを穿いているのに、上につけているブラジャーは何故白1色モノなのか?という事である。この手のものだったらセットで売っていてもおかしくないのに。
「何でブラは縞じゃないのかな?」
道代は夏奈子の斜め前に立って聞いた。この位置に立てば、夏奈子が万が一攻撃しようとしてもダメージは殆ど受けない、という位置だった。夏奈子は興味深そうに自分をじろじろ観察する道代に、
「だって……、縞だったら透けて凄く目立つじゃないですか―――」
と顔を赤らめて答えた。道代はその答えを聞いて、
「あっそ。じゃ、今はワイシャツ着てないんだし透ける透けない気にしないでいいから―――、それ以上に縞パンに白ブラだと違和感あって嫌だから、外しちゃって」
と満面の笑顔で言った。夏奈子は、
「え……?まだ……脱ぐんですか……?」
と更に顔を赤くして聞いた。道代は一歩近づいて、
「聞こえなかったの?ブラ外しちゃって」
と笑顔のまま言った。笑顔で言われたら怖いというか、恵子以上の恐怖だった。もし言う事聞かなかったらここでボコボコに殴られた上に停学にされてしまう―――と思った。夏奈子は、
「分かりました」
と道代から視線を逸らし、背中に手を回してブラジャーのホックをゆっくりと外した。そしてストラップを右、左と肩から抜いて、最後にカップを胸からどけると、非常に綺麗な乳房が露になった。道代は、
「じゃ、ブラはここに置いて、それからこのベッドに横になって」
と指示した。パンティ一枚姿になった夏奈子は言われた通りに手に持っていたブラジャーは机の上に置き、それから左足、右足の順にベッドに乗せてから横になった。すると道代はこんな事を聞いてきた。
「1つだけ希望を聞いてあげる。但し、授業を円滑に受けるための希望よ。帰りたいとかは聞けないわ」
夏奈子はそれを聞いて、今さっきブラジャーまで外す様に言われたので次が心配になった。その為、
「まさか、後でパンツまで脱げとか言わないですよね……?私は―――いや、何でもないです」
と言った。道代はそれを聞いて夏奈子の横で前屈みになってベッドに頬杖を付いて、
「言い掛けたなら言いなさいよ。聞いてあげるから」
と言った。あくまでもニコニコと笑顔で―――。夏奈子はキッと道代の方を向いて、
「と、兎に角、―――脱ぐ位なら停学でも退学でも受けます」
と言った後恥かしそうに両手で顔を隠した。道代はそれを聞いて、
「りょーかい。そう言うと思ったわ。貴女の縞パン好きが半端じゃない事位分かっていたから」
とクスクス笑いながら言った。夏奈子は、
「分かっていた―――ってどういう事ですか……?」
と聞いた。道代は立ち上がって、
「貴女が煙草を吸った日からずっと今日のこの日を待っていたわ。丁度いい事に富永後輩の授業の時水着を忘れて来た御蔭で実行に移れたの」
と言った後、壁にあるカレンダーをめくる様な仕草を見せ、
「でも貴女が隙を見せるのに随分時間掛かったわね―――。だからその間に貴女の素行を徹底的に調査したわ」
と言った。
夏奈子は高層マンションに住んでいる為、自分の部屋が何処かから覗かれているなんて事は考えてもいなかった。しかし、覗けるポイントは存在した―――。夏奈子の部屋から周りを見るとまるで空中庭園なのだが、正面に、とは言っても100〜150m離れた所だが、一棟同じ位の高さのマンションがある。
つまり、恵子や道代達、特別授業をやる教師達に雇われた探偵はそこから夏奈子の様子を観察していたのである―――まさかそんな所から覗かれているなど夢にも思わなかったが。
正面以外にはそこそこ高層マンションがあるのだが、そこからは夏奈子の部屋の中を観察することは出来なかった。

その観察の結果得られたもののひとつは、夏奈子が縞パンが大好きであるという事だった―――。

夏奈子は、覗かれないという安心感からかシャワーを浴びた後、髪を乾かした後ツインテールに縛り、縞パン一枚姿で窓際の椅子に掛けてボーッと外を眺めている事が多々あった。色はその時その時で様々で、沢山持っている事も解っていた。
勿論そんな調査をしていたなんて事は道代は一言も言わなかったので夏奈子は何故道代が当然の如くそういった趣味を知ってるのか不思議に思ったが、クラスメートへの聞取りや普段の観察、例えばスカートが捲れ、縞パンが見えるのを何回か目撃した等、でも分かるのかも知れないと思っていた。いや、そう思うしか無かった―――。つまり、夏奈子が先程言い掛けて止めた言葉は―――『私は縞パン姿が好きだから』という事だった。
道代は、
「その隙を見せるのに時間が掛かった事が貴女を助けたのかしら……」
と窓の方を向いて顎に人指し指を当てて言った。そして、
「とりあえず、始めましょうか」
と笑顔で言った。その笑顔はやはり人形の様に可愛らしかった―――。その後道代は夏奈子の腰に手をやり、軽く揉みほぐした。
「うっ」
夏奈子は軽く声を上げた。考え事―――、道代がどうして自分の事をこんなに詳しく知っているのか考えていた時に、急に腰に温い感触が来たので声を上げてしまった。道代はクスクス笑い、
「緊張ほぐしてね」
と言った後、更に腰をマッサージし、その後太股も同様にした。
「まだ固いかな、柔らかく柔らかく」
まるでマッサージ師の様な腕である。オイルは使ってないが―――。
「1時間後には貴方は天国に居る様な気分よ、きっと」
と言いながら夏奈子の太股から手を離した。夏奈子は、
「何をするつもりなんですか―――?」
と聞いた。道代は笑顔のまま、
「言ったでしょ?保健の授業だ―――って。ひとつひとつ人体の不思議を解説してあげるわ」
と答え、それからお椀を伏せた様な形の良い乳房に手をやった。
「ち、ちょっと……。やめてください」
夏奈子は顔を赤らめて言い、乳房を包み込む様にしている道代の手の上に自分の手をやって言った。すると道代は口を尖らせて、
「やめないわ。これが特別授業なんだから。―――手、邪魔よ」
と言った。夏奈子はそれを聞いて諦めて手を退けた。その代わりに、
「授業なら―――生徒にきちんと教えて下さい……」
と言った。もう悪あがきにしかならない事は夏奈子自身一番良く解っていた。

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