新・売られた少女
横尾茂明:作

■ 奸計の章1

「園長さんよ! もう3ヶ月も返済が無いたーどういうこった!、俺が仏面してる内にどうにかせんとただじゃすまねーぞ! コラー」

「し……柴田さん……もう少し……もう少しだけ待って下さいよ……必ず……なんとかしますから……」

「園長さんよー、先月からのそのセリフはもう聞き飽きたぜ……テメー本当に返すあてはあるんかい!」

「……………」

「元金200万、利子含めてもう300万にもなってるんだぜ、テメーにそんな金返せるわけねーだろーが」

「……利子が法外で…………」

「こら! テメー、借りるときなんつーた……1ヶ月で返すから利子が少々高くても結構とその口が言ったんだぜ!」

「そうおっしゃられても……子供達も食べ盛りで……経営も大変なんですわー」

「アホかテメーは、いい年こいて中坊なんぞに手出すからこんなことになったんだろー」

「それは…………」

「なっ……前にも言ったように……おたくの学園の聡美ちゃん……俺との養子縁組をなんとか承知すりゃ貸した200万と金利は全部チャラにするといって言ってんだろー、ええかげん観念せーや!」

「その件は……もう少しだけ考えさて……」

「アホかテメー! そんな言い逃れはもー聞きたかねーんだよ! もたもたしてると福祉課にみんなバラすぜ! コラすぐにでもなんとかしろ!」

「……市の福祉部児童課が目を光らしてるんで……すぐにと言われましても……ものには順序が……」

「よしわかった……じゃぁまた来週電話するからそれまでなんとかしろ!、これが最後だぜ!」



武雄は電話を切ってほくそ笑んだ、ようやく狙った獲物が手に入りそうな予感がしたからだった。

武雄は欲しいと思ったらどんな手を使ってでも手に入れる狡猾な男だった、この計画には数ヶ月をかけた。

事の発端は今年の1月である、車で信号待ちをしていると……横断歩道をランドセルを背負った一人の少女が歩いてきた、武雄はその少女を見て初めは奇異な思いがした、それは躰に不釣り合いなランドセルにあった。

高校生がランドセル……? (いや……違う……)

大人の体躯に幼い顔……不釣り合いとも言える小学生のコスチュ−ムに小さなランドセル……。

しかし少女が車の前を横切ったとき武雄は目を見張った……それは眩しいばかりの美少女! 今まで見たことないほどの愛くるしい可愛さに腕・脚の白さと光り輝く肌……武雄はこれほど美しい少女は見たことがなかった……優性遺伝の極地……すぐにはその形容が思い浮かばない程の美少女であった。

武雄は最近……無意識に何かを求めていた……が、この刹那……はっきりと輪郭が見えた気がした。

少女が視界から消えたとき後方のクラクションで我に返る、武雄は舌打ちをし信号を通り抜け道路の端に車を停め少女の去った方向を見た。

武雄はこの時……痛烈なる渇望を感じた……(あぁー欲しい……)

武雄は何を血迷ったのか……車から飛び降り道路を横切り、少女の去った脇道に走り込む。

前方に少女が歩いている……このまま連れ去りたい衝動に駆られ走り出したい思いに耐えた、喉奥が乾いて視野が白く濁る。

少女はすっと横道にそれる……武雄も足音を消して後を追う、少女は走り出し……塾のような建物に駆け込んだ、明るく、「ただいまー」と大きな声を上げ扉を開けて中に消えた……。

武雄の心臓は早鐘のように鳴り、耳奥にキーンという耳鳴りを感じた、己の興奮に思わず笑ってしまう……。

(こんな興奮は何年ぶりだろう……)

建物の入り口の上にかかっている看板らしきものをみた……(友愛学園……塾なのかな?)

暫く佇むが少女が出てくるはずもなく、この時……武雄は車のエンジンを切っていないことを思い出した。

(少女の手がかりが掴めただけでもよしとするか……)さも惜しそうに振り返りながら表通りに向かう。

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