新・売られた少女
横尾茂明:作

■ 逃れの章1

中央高速の諏訪インターで降り、諏訪湖畔に着いたときには午後9時を廻っていた。
英次は計画もないまま長野に来たことを悔いた…実家の高遠は152号線を辿ればすぐそこであったが、ここまで来て…家に帰ることには躊躇していた…。

踏ん切りがつかぬまま反対方向に走り諏訪湖に来てみたが、湖畔の土産店はもう閉まっており閑散としていた。

二人はベンチに座ってボーと暗い湖面を見つめる…。

「英次さん…今夜はどうするの…」
「東京に戻るの?…」
少女は先ほどから暗い湖面を見つめ何かを考え込んでいる少年に不安を感じた。

「きょうはもう遅いから…この近くで宿をとろう、これからの事はまた明日考えることにしようよ」

「しかし…この時間では宿は…」
「あっそうだ! ここに来る途中…インターの近くにラブホテルが有ったよね…そこに泊まろうか!」

「うっ…うん…でも…英次さんラブホテルなんか入ったこと…有るの?」

「…ないけど…なんとかなるさ!」

二人は来た道を引き返す…途中コンビニで弁当と飲み物を買ってホテルのゲートに入った…。

怪しげなノレンが掛かった間口が続く…少年はその一つに潜って車を停めた。
二人は車から荷物を降ろし、駐車スペース奥の小さな扉から中に入る…中は薄暗く床にはチェックカウンタの方向を示す光の帯が流れていた。

二人は恐る恐る流れる帯に沿って奥に向かう…そしてカウンターのような所に出たが人気はなく、代わりに何枚もの部屋の写真パネルが並んでおりそれぞれに釦が付いていた…。

「ここで部屋を選ぶんだよね?…んんー聡美ちゃんはどの部屋がいい?」

「英次さん…もうどれでもいいよー誰か来たら恥ずかしいもの…早く決めて」

「よーし…ここにしよう!」

釦を押すと床に行先を知らせる光りのラインが浮き出た…。
「おおービックリ……」

二人はラインに沿って歩き…とある扉の前に来た。

「この部屋らしいね…」

ドアを開けて中を覗き込む「ぅわーなんてキレイなの…」少女は驚いた様につぶやく…。

中に入りドアを閉めると鍵が掛かってもう開かない…。

「あれ……開かないや…?」

「お金を払わないと開かない仕掛けらしいね…」

「しかしスゴイ部屋だね…」

部屋パネルに北欧風とあった…二人には何処が北欧なのか分からなかったが、すごく華やかな印象を受けた…。

「聡美ちゃん…きょうはいろいろ有って疲れたでしょう?」
英次は少女の鞄をベットの横に置いてから少女を気遣う様に見た。

「ううん…さっき車で少し寝たから…それより英次さんの方が運転ばかりで疲れたでしょ?」

「ちょっとネ、それより浅田の兄貴…今頃僕らを血眼になって捜しているんだろうな…」

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