内側の世界
天乃大智:作

■ 第1章 想念1

僕は流された。風に流された。水に流された。
僕は、漂い続けた。遠い昔から、遥か彼方まで・・・
漂い続けた・・・
風に乗り、流されること、数百年―
水に浮かび、水に沈み、水に流されること、更に数百年―
僕は、時を旅した。
やっと、僕は、自分の意志で移動できる事が、分かった。
そこへ行こうと思うだけで良かった。
ただ、それだけ・・・
簡単であった。
 その事に気付くのに、数百年を要した。

ああ、
何を考えていたのか・・・
思い出せない―
 空白の思考。そんなものがあるのなら、僕が正にそれであった。

それでも季節が、変わって行っている事だけは分かる。
なぜか?
景色だ。景色が変わる。
温度は、感じない・・・以前は、何かを感じていたように思う。
そう、僕には感覚があった。何かを感じていたように思う。それを忘れた・・・感覚があったことを・・・忘れた、思い出せない。

でも、随分と遅いような気がする。
時間の経過が・・・

僕は、何? 繰り返される自問自答・・・

意識だけはあるが、一体何だろう。
意識とは、思考かな?
思考だけが、一人旅をしている。
幽体、霊体、そんなものか。
いろんな所を、浮いたり、沈んだり。雲の上だったり、水の中だったりする。
何も感じない。五感である。
何も思い出せない。空白の記憶。

今、地球が、見える。
青く、大きく、丸い。球体である。
初めて、地球の自転を、見たような気がする。
何も思い出せない。僕は、何処から来たのか。何度目の自問自答であろうか。
でも、何か気に掛かる。空白の記憶が、気に掛かるのか。
永い時間だけが、過ぎて行く。
いつまでも。いつまでも・・・

ちょっと、寝ていたのだろうか。光と闇の中で―
時々意識が薄れる。それを、僕は寝ていたと言ったのだ。記憶が跳ぶ。
僕は、感覚がなくなり、意識も薄れ、真の「無」になってしまうのだろうか?

僕は、浮いている。
誰も居ない。
でも、少し前に、意識を見た。
意識であろう・・・
魂と言った方が、分り易いかも知れない。
しかし、それは意識であった。
輝く光の砂が、巻き上がったような意識を―
彼なのか、彼女なのか、それなのか、
僕には、気付かずに、逝ってしまった。
いや、少しだけ、チラッと、僕の方を見たような気がする。
何処へ行くのか?
どうでもいい事である・・・
以前、その輝く光の砂、
弱々しく輝く、柔らかな光の集合体を追い掛けていた。
その輝きは、天に昇る。
その光の集合体は、天から降り注ぐ優しい光を目指す。
太陽の光ではない。
もっと、違う光だ。
何処までも、追い掛けた。
そして、すっと消える。
天から降り注ぐ、優しい光の中に、消える。

何故だか分からないけど、ずっとずっと昔が、懐かしいと思う。
思い出せない・・・。どうして、そう思うのか?

また、地球が、太陽の周りを回った。
数えてみようか?
地球は、綺麗である。

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