内側の世界
天乃大智:作

■ 第2章 きよしちゃんとキーボー4

 何が起こったの?
 これが事故?
 涼子には初体験であった。事故が、である。ボンネットに、ヒロシの靴底が見えた。涼子は、何も考えられなかった。ヒロシは、シートベルトをしていなかったのである。フロントガラスを突き破り、ボンネットの上に上体を投げ出していた。涼子は、頭がくらくらした。
 ゴホン、ゴホン。
 エア・バックのガスの所為ね・・・、これから、警察とか、色々面倒なことになるわ、そんな事を考える自分に、涼子は気付いた。
 ギギーッ。
 ワーゲン・ゴルフの車体が揺らいだ。涼子は、悲鳴を上げそうになって、思わず息を止めた。そんな・・・
 むっとするような獣臭が、涼子の鼻孔を衝いた。獣の臭い・・・
 うがー。
 大男が、ヒロシを?み上げていた。その姿が、ヘッドライトに映し出された。蒸気に霞む。
 悪魔?
 青い肌に、二本の角。太くてごわごわした黒髪が、野人の様に伸びている。黒髪の前の額は突き出ている。鼻は、ゴリラのように低く、横に大きい。目は異様に大きくて、瞳はブルーであった。しかし、眼球の色が違う。左右の眼球の色が違うのである。片方が黄色、もう片方が橙色であった。耳元まで大きく裂けた口から、鋭利な牙が、食み出している。赤く大きな舌が、牙の内側で動く。
「ギャーッ」
 ヒロシが、断末魔の声を上げた。肉が裂け、骨が折れる気味の悪い音がする。青い悪魔は、ヒロシの体を引き裂いた。生温かい血が、涼子の顔に降り掛かった。涼子は、声も出なかった。青い悪魔は、ヒロシの胸から、その大きな手を挿入すると、内蔵を引き出した。ヒロシの内臓を手?みで食べ始めた。ヒロシは口から血を吹き出し、白目を剥いて体を痙攣させた。うがうが、と言っている。青い悪魔の獅子口から、血が跳び散った。涼子は、ガクガク震えていた。心臓の鼓動が、青い悪魔に聞かれそうであった。血の臭い、内臓の臭い、エア・バックのガスの臭い、獣の臭いが、入り混じった悪臭―濃密な硫黄の臭いである。涼子は、気分が悪くなった。吐きそうなところを懸命に我慢した。口の中に胃液の臭いが広がった。スカイラインを通り過ぎる車は、涼子の乗った車に気付いてくれない・・・涼子はどうしても、青い悪魔から目を離す事が出来なかった。
 これは、悪魔? 鬼? 人の二倍の背丈があり、大きな牙が生えている。
 エア・バックが萎むと、涼子はハッとした。涼子は座席の足元に身を隠そうとした。
 カツッ。
 うっ。
 シートベルトが、邪魔をする。シートベルトを外す。
 カチッ。大きな音がした。
 青い悪魔が目を上げた。涼子と目が合った。青い瞳が輝き、涼子を誘惑しようとした。涼子は青い悪魔から目を逸らし、ドアを開けようとしたが、開かない。シートを倒し、後部座席に這いずり込んだ。ミニスカートから、白い脚が淫らにくねった。
 グシャ。
 青い悪魔が、いとも簡単にドアを引き千切った。引き千切られたドアが、闇の中に吸い込まれた。
 お願い。開いて・・・
 後部座席のドアは開いた。
「キャーッ」
 涼子は真っ暗闇の中、谷底に転げ落ちた。どすん。青々した下草が、涼子の体を保護した。
 ドスン。
 何か重たい物が、涼子の傍に着地した。獣臭が、血の臭いが周囲に充満した。
 グッシャン、ボッコン。
 ヒロシのワーゲン・ゴルフが、谷底に落下した。ぼっと炎が上がる。涼子は、頭がクラクラしたが、四つん這いになって逃げた。
 ドス、ドス。
 重たい足音は、ゆっくり近付いて来る。
 涼子は、振り返った。炎に悪魔のシルエットが、浮かび上がる。
「イヤーッ」
 ビリビリ、
 涼子のブラウスが?まれ、剥ぎ取られた。夜風が、涼子の白い素肌を撫ぜた。スカートも取られた。内股に風が通った。ブラとパンティが、豊かな肉に食い込んでいる。意外と豊満な肢体であった。白い乳房が食み出し、尻の割れ目が見えるほど、パンティがずれている。涼子は、それでも逃げようとしたが、暗闇の中、何かに突き当たった。上を見ると青い目が二つ、光った。
 涼子は、我を忘れた。青い目に見惚れた。恍惚となった。体の芯から疼いてくる。今、ペニスが欲しかった。無性に股間が熱くなった。体が火照り、涼子の股間は愛液に濡れた。涼子は、自らブラとパンティを脱いだ。さっきまでヒロシが口に含んでいた白いプルンとした乳房と、ピンク色の乳首が露出した。濡れた黒い陰毛が、夜風にひんやりした。涼子のプロポーションが、炎に照らされた。何かヌルッとした、それでいてザラザラしたものが、涼子の体を這い摺り回った。気持ち良かった。
「あーん、あーっ」
 涼子は、甘い声を上げた。大きな腕に抱き上げられた。そのヌルッとした物が、涼子の中に侵入して来た。百合の花弁を押し広げ、滑りにズボ、と入り込む。
「あはーん」喘ぎの声―潤んだ声である。
 涼子の乳首と股間に、何かが吸い付いた。何かが咬み付いてきた。針で刺された様な、ちくりとした痛みがあった。刺されたところが、むず痒く、腫れた様に熱を持つ。そこをぬるぬる粘つく軟体動物が蠢く。
 あ、あ、と涼子の唇が、切なげに開かれた。もう、何がなんだか分らない・・・
 涼子は太い二本の腕に抱かれ、身動きが出来なかった。それでも、涼子は逃れようとして必死に暴れた。少なくても、そういう風に見えた。悦んでいたのかも知れない。涼子の両脚は、悩ましく開かれていたのである。電流が、流れた。乳首と女陰に、である。膨れ上がる様な、衝撃であった。涼子の女体は、弾けた。眼が、白目であった。一瞬にして、色に狂った。涼子の陰毛が、逆立つ。全身の毛が、逆立った。涼子は、オルガスムスの絶頂に立った。極楽を彷徨った。体が蕩け、液体になった。液体になった涼子の体を、太くて大きいもの、生き物の様にくねくね動くものが、抉じ開けて侵入してきた。巨大なものが、ここまで届くかと言うぐらいに、涼子の臓腑を突き上げる。それが、動く。涼子の中が、捲れ上がった。涼子は、そう感じた。涼子は、ひいひいと声を上げる。ヒロシとの間では、感じたことのない絶頂であった。涼子の体は、悪魔の腕の中で、跳ね上がり、大きく弓形に反り返った。涼子の意識は、肉体を放れ、快楽の世界に引き篭もった。涼子は、体を刺し貫かれたまま、青い悪魔に咬み付かれた。涼子は、血を流しながら、のた打ち回る。それが、苦痛によるものとは言い切れなかった。涼子は、悪魔に体を摺り寄せ、腰を押し付けているのである。
「もう、止めてー」そんな事を涼子は叫んでいる。
「もっと、もっと」切ない叫びである。
 涼子の乳房が、食い千切られた。すべすべした腹の肉が大きく裂かれ、内臓が引き出される。涼子の体が痙攣して、動かなくなった。涼子は、青い悪魔に犯されながら、喰われてしまったのだ。

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