内側の世界
天乃大智:作

■ 第3章 不良1

 きよしちゃんが連れ去られてからは、寂しかった。僕は、不良小学生というレッテルを貼られた。
「父親がヤクザだしね。血は争えないよ」
 そんな陰口を言われた。学校の先生も、僕を遠ざけた。きよしちゃんが、居なくなって、僕の周りの世界は、一変した。みんな、よそよそしくなった。友達が、居なくなった。
 今度は、僕が、遊んではいけない子になってしまった。しばらく前から、そうだったのに、僕が、気付いていなかっただけであった。しょうがないから、授業は真面目に聞いた。宿題もちゃんとやった。みるみる成績があがり、クラストップになった。でも、僕は、一人だった。そして、あまり喋らなくなった。一度貼られたレッテルは、もう剥がれる事はない。きよしちゃんは、居ないんだ。周囲の冷たい視線に、無性に腹が立った。気付くと何時も喧嘩をしていた。そして、いつも勝った。
 僕は昔からそうだった、喧嘩は強かった。体は別に大きくない、力と俊敏性は、他の子供達の比ではなかった。集中すると、相手の考えや、次の動きが読めるのだ。それは、考えているのではない、そう感じるのであった。そして、その読みが、ほぼ百パーセント当たった。だから、相手のパンチは避けられたし、先を読んで、蹴ったり、殴ったり出来た。そして、自分でも不思議な事に、掌を相手の体に当てて、「うっ」と気合を入れると、相手は殴られたように、飛んで行った。
 それは、「気」であり「気配」であった。僕には物事を察知できる能力があった。僕はよく、まだ誰も気付かないうちに、何が起こるか察知した。まるで他には誰一人感じることのできない、空気の微かな動き、微かな警告や気配を、感じ取れるかのように―僕は感じるのである。この能力は喧嘩の時ばかりではなく、他の場合にも役に立った。僕は一瞬にして物事をあるがままに読み取り、それがどうあるべきかを察知することが多いのである。ほとんどの人が一生かかっても到達できない洞察力を備えていたのである。と、思う―だから、喧嘩なら、誰にも負けない自信があった。そして、僕は恐れられた。しかし、いつも見る夢―悪夢は、なくならなかった。年々、僕は、悪夢を見る事が多くなった。そして、不安が募った。

 いつしか僕は、中学生になっていた。
 胸の大きく開いたシャツを羽織り、ボンタンを穿いていた。両手をズボンのポケットに突っ込んで、先の尖ったビニール靴の踵を鳴らして歩く。靴の踵には、金属が埋め込んである。カツカツと良い音がする。札付きのワルである。でも、僕は、弱い者苛めは、しなかった。自分より体の大きいヤツ、強いヤツとしか喧嘩をしなかった。強い者苛めであった。
「キャーッ」
 思春期の男の子によくある、気になる女の子苛めである。女子中学生の柔らかな肢体が、くねって回る。スカートが、舞い上がり白いパンティが覗く。慌てて股間を押さえる白い手。広がるスカートの裾。丈の短いスカートは、簡単に捲くられる。踊る白い太腿。瑞々しい桃の様である。黄色い悲鳴が上がる。喜んでいるのかも知れない。白い太腿が、走ってくる。身を捻る度に、脚の付け根まで露になる。艶かしい生足であった。パンティから食み出した尻の肉が、揺れる。僕の前で身を翻したのだ。広がったミニスカートから、逆三角形の白いパンティが、見えた。艶かしい、下腹部の曲線である。
 僕の傍に来ると、苛めっ子たちは、それ以上は追い掛けて来ない事を知っているのだ。そして、僕に、ぺこりと頭を下げると、立ち去って行った。女の子の白いパンティが、目に焼き付いた。
 思春期である。
 白い腿。
 その根元の括れ。
 パンティを押し上げ、更に食み出す尻の盛り上がり。
 スカートを押し上げる、丸い揺れるヒップ。
 引き締まったウエスト。
 ブラウスに透けて見えるブラ。
 開かれた胸元。その白い谷間。制服を広げる胸の膨らみ。
 僕は、悶々とした。その夜は、いつもと違った。僕は、夜の街を彷徨った。
 ノーブラの乳首。
 見えそうな超ミニ。
 歩く度に、盛り上がり丸く形を変えるヒップ。
 女の横顔。
 うなじ。
 胸を強調したTシャツ。
 揺れる胸。
 ぴちぴちのジーンズ。
 腰を振って歩く女。
 香水の香り。
 女の笑い声・・・
 夜の街は、刺激的であった。

 闇の中に素肌が浮かび上がる。
 それは、全裸の女体であった。
 素肌が、ボーッと仄かに光を帯び、周囲の闇から浮き出ているのであった。体のシルエットが、超立体的に視覚に訴えてくる。遠くから、物凄い速さで近付いて来て、ぱっと目の前に現れた。そんな感じの肉体であった。
 限りなく柔らかで、触ると壊れてしまう。でも、つい、触ってしまう。すると、掌に吸い付いてくる様な、掌を追い掛けてくる様な感触がする。滑らかで、滑々していて、温かい。灯篭の灯の様に、頼りなく、柔らかで、かぼそい光が、その豊満な女体から発光している。乳房が、乳首が、臍が、下腹部が、尻が、太腿が、脛が、足が、二の腕が、首筋が、あらゆる裸体の部位が、仄かに薫る様に光を紡ぎだす。
 そんな女が、僕の目の前に肢体を広げている。見事に隆起した乳房が上を向いている。白いオッパイにピンク色の乳首が立つ。その乳首に僕は吸い寄せられた。僕は乳首を吸って、舌で転がして噛んだ。

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