愛の妙薬
俊輔:作

■ 第2章 山田総合内科のあやめさん
第1節 お薬の追加処方7

私『ところで、外見とか、性器の魅力の他に、例えば、知能とか、声の善し悪しとか、運動能力の優劣とかも、同様ではないでしょうか?』
あやめさん『山中さん、おっしゃるとおりです。
知能とか、声の善し悪しとか、運動能力の優劣も、同様に考える事が出来ます。
しかも、それらも、性的魅力に属すると考える事もできるのです。
それ故に、自然淘汰、そして進化があると思うのです。
例えば、女性から見て、優れた運動能力を持つ男性に性的魅力を感じることもあるでしょう、声のよい男性とカラオケの後、一夜を共にしたい、というように考える事もできるでしょう。』

私『つまり、知能、運動能力、声の美しさ等を含めた広義の性的魅力と、顔の美しさ、女性の胸の美しさのような狭義の性的魅力があって、そのどちらも進化論的に論ずる事ができる、そういうわけですね?』
あやめさん『山中さん、そのとおりです。』

私『なるほど、なるほど』
あやめさん『さっき、私が、<人類は、性的な意味で、魅力的になる方向にまっしぐらに進んでいる>と、言ったのは、どちらかというと、狭義の性的魅力のことです。』
私『それは、推察していたとおりです。』

あやめさん『ところで、山中さん、狭義の性的魅力の例を幾つかあげて頂けますか?
女性の場合です。』
私『お顔の美しさ、大きくて美しい乳房、大きいクリトリス、−−−』

あやめさん『そうです、山中さん、女性の美しい顔は明らかに性的な意味で魅力的です。
つまり、そのような美しい女性と性交したい、と思う男性が圧倒的多数派です。
一方で、美しくない女性にプロポーズしてくれる男性は少数派です。』

私『わかりました。つまり、美しい女性は、結婚できる確率というか、性交できる頻度と申しますか、いずれにしても、そのような確率が高いので、子孫を残す比率が高い、逆に、美しくない女性の場合、逆の理屈で、子孫を残す比率が低くなる、そのようなことですしょうか?』

あやめさん『まさにそのとおりです。これこそが、ダーウィンの進化論です。
その結果、1世代と申しますか、1生殖時代、つまり30年間で、0.01%位、美しい子供が増加する、という事になるんです』

私『その0.01%というのはどういう数字ですか?』
あやめさん『例えば、男女それぞれ100,000人の社会があるとします。
女性のうち、50,000人が美人、50,000人が非美人だとします。
そして、50,000人の美人は全員結婚できたけれども、50,000人の非美人の内の10人は結婚できなかったとします。
つまり、100,000人の女性のうち、10人は結婚できなかった、という事になります。
これは、0.01%に相当します。』

私『なるほど、なるほど、50,000人の非美人の内の10人は結婚できなかった、というのは、確率的に、0.01%だけ、非美人が減少して49.99%が非美人になる、逆にいえば、0.01%だけ、美人比率が増加するということになるというわけですね。
つまり、美人比率が50%だった社会が、30年後に、50.01%になるというわけですか。』

あやめさん『そのとおりです、
そして、その30年後、つまり60年後には、非美人比率は、49,98%になるわけです。
この計算は、厳密には、銀行に預けた貯金の複利計算のように計算しなければならないのですが、簡単のために、単利計算でも、概念的には理解できます。』

私『その単利計算を続行すると、非美人比率は、90年後には、49,97%、300年後には49%、3000年後には40%、9000年後には10%、9900年後には1%になる、9990年後には、0.1%になる、そんなかんじですか?』

あやめさん『そのとおりです、山中さん、この前提の場合、9990年後には、女性のうち、99,9%は美人になるのです。
実際は、この、9900年という数字よりは、1桁か、2桁長い期間が必要なようで、9万900年とか、99万年になるようです。』

私『極めてよく理解できました。
雄の孔雀がセックスアピールして、雌の孔雀を引きつけようとする、美しくない雄の孔雀は、雌の孔雀と性交できない確率が増える、その結果、子孫をより多く残すことができない、これが、自然淘汰という概念なんですね、結果として、殆どの孔雀が美しくなっている、』

あやめさん『まさにそのとおりです、山中さん、』
私『でも、ちょっと、腑に落ちないところがあります。
さっき、あやめさん、人類は、性的な意味で、魅力的になる方向にまっしぐらに進んでいる、といいましたよね、

そして、クリトリスが大きい女性は性的に魅力的だと、私が言った時に、それを否定しませんでしたよね、だけど、お見合いの席で初めて女性に会ったり、レストランで食事したりする時に、その女性のクリトリスが大きいかどうか、わからないと思うのですがーー、つまり、クリトリスとか、ペニスが大きいかどうか、全くわからないまま結婚する、それが普通ではないでしょうか?』

あやめさん『全くその通りです、山中さん。
見合い結婚が主流だった時代は勿論、その後、自由恋愛の時代になっても、長い間、男性は、妻となる女性のクリトリスが大きいから結婚しよう、とか、この女性は感度がいいから結婚しよう、とか、そのような判断、というか、選択をする機会はありませんでした。』
私『逆に、女性の場合、男性のペニスが大きいから結婚しよう、という判断をする機会がなかったんですよね?』

あやめさん『そのとおりです。つまり、狭義の性的魅力には2種類あるんです。
お見合いの場とか、レストランで食事する時に感じる性的魅力、これは、主に、外見的魅力です。

もう一つは、セックスをするプロセスを通じて感じる性的魅力です。
このうち、前者は、古典的な出会いのプロセスを通じて感じる性的魅力であり、後者は、最近の、特に、若い男女の婚前交渉を通じて得られる性的魅力です。
山中さんは、前者のカテゴリーにどのようなアイテムが属するかは、簡単に指摘できると思います。例えば、女性の美しさですよね。』
私『そうですね、お顔がきれいだとか、胸の形や大きさが素敵だとかですね』

あやめさん『そうです、孔雀が伴侶を選ぶのと同じ基準です。
ところが、最近、人類は、性交渉をして初めて感じる異性の魅力を、結婚の約束をする前から知るようになったんです。
しかも、最近は、婚約する前に、複数の異性と性交渉するようになりましたから、性交渉を通じて、より多くの快楽を与えてくれる異性を、選択的に選ぶようになったんです。』

私『なるほど、なるほど、自然淘汰と言う概念が、見た目の美しさの世界から、性交渉の時に、より多くの快楽を与えてくれる異性の選択、それにも拡大された、というわけですね。』
あやめさん『その通りです』

私『こんなにわかりやすい講義を、中学生の性教育の時に教えてくれたらいいのになー!』
あやめさん『近いうちに、そうなると思いますよ、山中さん!』

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