愛の妙薬
俊輔:作

■ 第2章 山田総合内科のあやめさん
第1節 お薬の追加処方43

二人で不二屋に入ります。
テーブルにコーヒーとケーキが運ばれて来ます。

僕『ちょっと早いけど、かおりちゃん、お誕生日おめでとう、よかったら、これ、かおりちゃんへのプレゼント……』
かおりちゃん『わー、嬉しいな〜、かおりの誕生日覚えていてくれたんだ』
かおりちゃんの妖精のような顔が、満面、ニコニコです。
とっても幸せそうです。

かおりちゃん『これ、今、開けていい?』
僕『うん、ここで開けてみて』
かおりちゃん、丁寧に小箱を開けます。
中に入っているブルーのしおりを取り出します。
かおりちゃんのお顔が真っ赤に染まります。
そのしおりには<好きです>と書いてあるんです。

かおりちゃん、ペンダントなんかには目がありません。
かおりちゃん『山中君、ありがとう。かおり、うれしくって、うれしくって……』
かおりちゃんの目が潤んでいます。
ボーッとしたまなざしで僕を見ています。
かおりちゃん、とっても可愛いです。

僕『よかった〜!かおりちゃんが喜んでくれて。本当によかった〜』
かおりちゃん『私、山中君が大好きで大好きでたまんなかったの、山中君って、私の憧れだったの、小学校の時に山中君がおでこにキスしてくれた事、今でも、夢に見るわー』

40分位おしゃべりしました。
僕『じゃ、かおりちゃん、そろそろ帰りましょうか?
ご両親が心配するといけないもんね』
かおりちゃん『うん、そうね、そろそろ帰りましょう、でもね、かおりの父と母、今日、結婚記念日で湯河原にお泊まりなの、山中君、もしもよかったら、かおりのお家に来ないかしら?
かおりも、山中君にプレゼントしたいの』

僕『でも、僕の誕生日って、半年後だよ』
かおりちゃん『きっと、山中君が喜ぶプレゼントかもよ、無料のプレゼントなの』
二人で京成、JR、小田急を乗り継いで、星城学園前に向かいます。

電車の中で、北川先生の思い出や、この間の期末試験の事を話していたら、あっと言う間に、星城学園前に着きました。
駅から歩いて五分位のところにかおりちゃんのお家がありました。

目を見張りました。とんでもない豪邸です。
ギリシャ風の建築です。大きな鉄扉の門から玄関まで20mはあります。
広大なお庭の中央には噴水と自動スプリンクラーが3つあります。

かおりちゃん『山中君、いらっしゃい、ここが我が家です』
僕、<こんなお家があるんだ、二億円位しそうだな〜>と思います。
玄関に通されました。六畳位の玄関です。
玄関だというのに、シャンデリアが輝いています。

かおりちゃん『私のお部屋にご案内するわね、山中君』
グランドビアノがある20畳ほどの大きなリビングを通りました。
今まで見た事のないすごいリビングです。

かおりちゃん『山中君、ここが私のお部屋です。どうぞ』
入って驚きました。12畳以上ありそうなお部屋です。
ここにも、アップライトですが、スタインウェイ$ブラザーズのピアノがあります。
明るい彩飾のセミダブルのベッドがシャンデリアの下にありました。

かおりちゃん『私ね、リビングのピアノよりも、こっちのピアノの方が好きなの』
僕『驚いたなー、すごいお家に住んでいるんだね〜、かおりちゃんって』

かおりちゃん『山中君、私のプレゼント、受け取ってくれるかな〜?』
僕『それ、成田からずっ〜と楽しみにしてたよ、一体、なんだろう?』
かおりちゃん『あのね、それって、かおりのビアノなの、下手なんだけど、いつか、山中君に聴いていただこうかな〜って思って、一生懸命練習したの、山中君って、ラヴェルとドビッシーが得意でしょう?
私、へたっぴだけど、今日は、シューマンとショパンを弾くわね』

僕『そうなんだ〜、嬉しいな〜、僕の近代音楽と、かおりちゃんのロマン派音楽だね』

かおりちゃん『北川先生が言ったのよ、山中君は、きっと、ビアノを演奏する女の子が大好きよ』
僕『そっか〜、北川先生らしいな〜、で、かおりちゃん、今日の曲目はなんだろう?とっても楽しみだな〜』

かおりちゃん『恥ずかしいけど、シューマンは<子供の情景>から<トロイメライ>
ショパンは、夜想曲第二番、続けて弾くわね!』
僕『うわ〜、それはいいな〜、僕が譜めぐりするね』

かおりちゃん『わたし、上手にできるかな〜?』
かおりちゃん、細くて長い指で奏で始めます、シューマンの最初の一小節を聴いただけで、僕、身震いしました。
とっても柔らかで、甘美な演奏です。
僕、ニコって微笑みます。エールです。
かおりちゃんの指、ますます滑らかになります。

音響効果の素晴らしいお部屋がシューマンとショパンに包まれます。
僕、一生懸命、譜めくりします。
かおりちゃん、時々、僕に視線を送ります。
<かおり、ちゃんと弾けてるかな〜?>そんな眼差しです。僕、微笑みます。
<大丈夫だよ、かおりちゃん、とっても素晴らしいピアノだよ>

ショパンの最後の小節が柔らかに結ばれます。
僕、大拍手です。『すご〜い、めちゃくちゃ、素晴らしい、かおりちゃん、感激です』

僕、かおりちゃんの両肩に手を置いて、喜びを伝えます。
かおりちゃん『よかった〜、山中君に褒めてもらっちゃった』
かおりちゃん、おでこを上げて目をつむります。

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