許して悪魔様
非現実:作

■ 命を大事にね18

あれから4日間、ずぅっと部屋に篭りっきりだ。
学校にも行かず食事すら家族一緒には摂っていない。
晴れている日であってもピンク色のカーテンで締め切ったままで部屋は常に暗い。
私はご自慢のベッドを使わずに、床に新聞紙を敷いて寝て過ごしている。
理由は簡単…… ……身体に染み付いた魔界精液のせいである。
家に誰もいない日中ですら3回〜5回もお風呂に入っている。
肌を痛め付けるような強さでゴシゴシと拭うのだが、こればかりは全く消える事がなかったのだ。
実際この目で見た異常はやはりであった。
全身に受けた魔界精液が自分の肌に染みこんでいったのは、紛れも無く私の身体を変えた。
それは正に体臭と同じで、窓を締め切っていると部屋が精液臭で充満してしまうのだ。
そんな状態でお気に入りのベッドなど使える筈も無く、親であっても顔を合わせる気すら起きない。
……外に出る事が怖くて仕方が無いのだ。
お風呂と部屋を行き来する中、1日に一回私は別の場所へも移動する。
弟の部屋のPCの中へと足を踏み入れる。
ゲームの中の魔界になど死んでも行きたくないのだが、行かなければ本当に「死ぬ」。
オ○ンコに植え付けられた魔界二枚貝の種子のせいである。
くびれに無数の足でしがみ付いている養分蟲は半日を過ぎると白くなってゆく。
7匹の種子がオ○ンコから管を伸ばして、養分蟲から栄養を得ている証拠である。
……最近身体が……下腹部がかなり重く感じている。
日々重みは増しているようで、それは中の種子が成長しているのが嫌でも理解できる。
中で蠢く子等は以前の小さな動きと異なり、大胆にかつ狭い子宮の中を動き回っていた。

トントントンッ…… ……
そして今夜もお母さんが階段を上って来る音。

「希美子〜〜ご飯食べ終えたなら薬ちゃんと飲んでおきなさいよぉ?」
「解ってるってば!」
「…… ……」

ドア越しのお母さんは無言で私が食べ終えた食器を片している。
(お母さん……ごめんなさぃ……)
この4日間、私は家族と顔を合わせていない。
ドアの鍵を締め切って、全てを遮断した。
突然の娘の異変にお母さんは激しく動揺しているようだった。
……当たり前だろう。
私はお母さんには何でも話してきたのだ。
それが全てを拒否したのである。

「あのね、希美子?」
「……もう寝るから、下がってよ」
「あの……あのね希美子っ、学校で何かあったの?」
「別に何も無いからっ!!」

説明しようの無い狂った私の世界。
声が刺々しくなってしまう度、お母さんにすまないという気持ちになる。
そして今日のお母さんは、どうやらしぶとい。

「あのね……希美子、何かお料理してるの?」
「はぁ、ナニ言ってんの、風邪引いててそんな事」
「そ、そうよねごめんなさい……でも随分とバニラの香りがするから」
「ぇえっ?」

精液体臭で充満した室内でその臭いが漏れるのを恐れた私は、執拗にラベンダーの香りの消臭スプレーを振り掛けていたのだ。
ラベンダーか……最悪だが精液臭がするのなら解るのだが……。
(バニラって、嘘でしょ?)
左の二の腕に鼻を近付けようとして、顔をしかめて止める。
相変わらずの咽び立つ精液悪臭だ。

「バニラエッセンスの良い匂いがするからね、お母さん勘違いしちゃったわぁ。
希美子が学校サボる訳ないのにねぇ〜嫌ねぇお母さんったら、ハハハ。」
「ね、ねぇ……バ、バニラエッセンスの匂いがするの?」
「ごめんねぇ〜〜そういう香水を使ってるのよね」

そう言いながら立ち去ろうとするお母さん。

「ま、待って!!」

勇気を持って確かめなければならない。
施錠を解き放ちドアを開けて、私は4日振りにお母さんと対面したのだった。

「き、希美子…… ……」
「お、かあさん」

ドア場で半身の私を見て、お母さんはニコリと笑いながら言ってくれた。

「駄目よぉ香水なんて……風邪引きさんなんだから。
でもそのバニラの香水、いいじゃない?。」
「バニラの匂いする……?」
「ええ、とってもいい香り……でもちょっと付け過ぎじゃない?」
「……バニラの匂い、バニラなんだ……この匂い……」

左手で右腕を擦りながら私はブツブツと呟き、自然と顔を綻ばせていた。
途端に目の前が切り開かれたような……希望の光が見えた気がした。

「どうかしたの?」

お母さんが私の顔を覗き込んだ。
それでも近付かれるのは怖い。

「な、何でもないよっウン、もっもう寝るからっ!」
「そぅ、ゆっくり寝て早く風邪を治しなさい」
「う、うん」

ドアを閉めて、新聞紙の上に身体を預けた。
(他人には……この臭いはバニラの香りなんだ……)
それだったら私の今の環境も大きく元に戻れる。
そんな事を考えているうちに、私は深い眠りへと落ちていった。
毎日ダラダラと惰眠を貪っていたのだが、いつも毎日が寝不足だった。
不安と恐怖に際悩まされていた身体は相当突かれきっていたらしい。
あっという間の夢の中だった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊