許して悪魔様
非現実:作

■ 命を大事にね20

「あはっ、意識してんジャン〜〜〜希美子ぉ〜」
「あんまぁい香水とか、ねぇ?」
「ちっ違うよっ違う違う、ホントホントに…だってそんなの初耳だし!。」

私は断じて香水など付けていない。
これは……このかなり(らしい)バニラの臭気は別の理由で臭っているのだから……。
理由は口が裂けても言えないケド。

「ンでぇ〜どうすんの?」
「ぇえあ?」
「同級生のNO1イケメンが御氏名だよぉ、断る理由とかさぁ〜ないじゃん〜?。
このままゴーゴー……だぁよねぇ〜〜〜んんふふふ。」
「……な、なんでよ……」


殆ど覚えの無い朝のHRが終わり、私は職員室にいた。
対峙しているのは化学の教師で担任の柏木先生だ。
先程から男の人にしては相当甲高い声で私に対してまくし立てている。
大きな黒ぶち眼鏡が特徴の先生で、皮と骨で構成されていると言われる程に痩せ細っている。
あだ名は「オタ木」。
40間近の独身にして坊ちゃん刈りで、化学を熱く語るその印象でそう言われている。
加えて新1年生に配られる先生紹介という冊子に、趣味は「ゲームとインターネット」と平気で載せる兵だ。
お説教の大半は数日間の休の件で、風邪で休む分には仕方ないと先生は言った。
ただ拙かったのは、毎日連絡をしなかった事にオタ木先生は酷く激怒している。
確かに連絡の無い生徒というのは動向も解らないと同じで、担任としてはかなり不安だったであろう。
これは私が悪い……だが、そんな事すら考える余地も無い位に私は異常な体験をしていた。
頭が完全にパニックに陥っていたのだ。
連日音信不通の生徒(私)に対して、何度も同じ事を繰り返すオタ木先生は、相当頭にきていたのかもしれない。
とにかく柏木先生のお説教はかなりネチっこい。
一応ながら優等生の位置にいる私でもウンザリする位に面倒くさい。
ただただ「すいませんでした」「気を付けます」を繰り返す。
だが不思議な事に暗黙の了解で違反とされている香水の件には1度触れただけであった。
思い出すだけでもあまり大して怒られたという感じもなくて…… ……。

「キミ達みたいな学生が香水など……実に金の無駄だ」
「……すいません」
「そういうお金は参考書とかに使うのが学生の本来ある姿じゃないのかね?」
「ハイ……」
「校則ではないから強くは言わんが、過度な使用は止めておきたまえ」

私は大きく頷いて「解りました」と答えておくが、現状ではそれは無理な状況下にある。
(これって体臭なんだから……どうしろと……)
先生が知る限りの科学の力で何とかしてくれるなら、打ち明けてしまいたいほどに私自身も困っているのだ。

「体調が悪い時は休むのは仕方ない、だけど連絡だけはちゃんとするように!」
「はい、解りました……ご心配掛けてすいませんでした先生」

ようやくお腹の虫が治まったのか、オタ木先生の説教モードが終了した。

「全く……キミは成績優秀で優等生なんだから、頼むよ?」
「はい、本当にご迷惑お掛けしました」
「ウンウン、じゃあ授業の準備をしなさい」
「はい、失礼します」

深々と頭を下げて私はようやく職員室から出る事ができたのだった。
職員室のドアを閉めて深々と重い溜息を1つ。
何だか酷く疲れた……。
1日のカリキュラムである授業を受けきったような感じ。
思い出したかのように安物の腕時計に目をやると、授業開始まであと10分も無い。
廊下にはまだ生徒達がリラックスタイムを満喫している。
まだまだ余裕ある時間だ。
説教を聞いてる時間は酷く長く感じていたが、実際の時間の流れはそんなに経っていなかった。
(よし、これなら走らなくても余裕……)
私は職員室から続く教室へと足を進めたのだった。

自分の教室へ向かい、長い廊下から階段を上がり…… ……。
いつもどおりの何気ない行動。
だけど私は1つの異変に気付いていた。
(何だろぅ……この感じ……)
廊下・階段・階段の踊り場、通る場所に男子生徒が居る度に、視線を感じるのである。
(意識過剰?)
香水(体臭)がキツいから?。
いや……そんな人目を引くという感じではないのだ。
無意識に読み取れる男子生徒の視線は、紛う事無く言葉では表現されていないが獣の視線だった。
つまり向けられる視線が性的な欲望染みた視線。
(ぃヤダ……怖い……)
擦れ違うどの男子生徒の視線も狂気染みた狩人の視線なのだ。
怖い視線が見えなくなるまで続く。
(どうして?)
自身の問い掛けに、自身が回答を導き出す。
(そうだ……きっとこのバニラの香り……だ)
そうとしか考えられない。
この体臭が何かを影響させているに違いない。
サァァァっと私は顔を青ざめる。
ようやく通常の学生に戻れたつもりだったのに、思わぬ弊害が生じた。
(これを解決……て言うか、知る事が出来るのはアイツ……)
私は今日を捨てて、再びゲームの中に入る事を決意した。

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