許して悪魔様
非現実:作

■ 命を大事にね22

駅のトイレで嘔吐したのは人生で初めての事だった。
涙と鼻水と、そして苦しくて苦い経験だった。
気晴らしに買った珈琲は結局あの一口だけで無駄になってしまった。
口直しにと口に近付けただけでも、珈琲の香りだけで更に胃が暴れだしてしまう始末。
(きっと熱があるんだ……)
火照った身体のおでこに自らの手を当てる。
…… …… …… ……解らない。
全身がカッカしているせいだ。
これが下半身による疼きでの熱なのか、本当に体調不良である熱なのか……?。
(ンっ、バッカな事っを!)
ベンチに座りながら私は頭を大きく横に振って思考を拒否した。
振った頭を止めた途端、若いサラリーマンと目が合ってしまい気まずい……。
(でもそれ所じゃないのよ!)
「何?」という視線を送ると慌てたサラリーマンは
慌てて携帯を取り出して何事も無かったように装う。
(ぅぉ…お願い……お願いだから私に構わないでよぉ……)
欲求不満で熱を帯びているなんて……この清楚うら若きブランドである女子高生にあってはならない。
その根性論が私を少し立ち直らせた。
(今……ちょっとだけ意志が強くいられている……)
この状況なら電車に乗って家に帰れるかも……。
淡い期待が胸を打つ。
アナウンスと同時に滑り込んだ電車に私は乗り込んだのだった。

普段感じられる一駅の感覚が物凄く長く感じた。
ガタンガタンと揺られる度に足場を安定した場所にと置き直す。
下半身には過度な衝撃を与えられないのだ。
私は平然を装い、上着を脱いでブラウスの上2つのボタンを外して手で風を求める。
(……あっつぅ……喉渇いたし……)
火照る身体と同時に異常な程の喉の渇き。
さっき珈琲が駄目だったくせに何故か身体が水分を求めている。
暑い暑い暑い……。
喉渇いた喉渇いた喉渇いた……。
夏が過ぎてカーディガン1つが欲しくなるようなこの季節にして、異常な態度の私。
(疼く身体のせいだ!)
ただ暑いんですをアピールする。
だが…… …… ……身体はカッカと火照り続き、下半身の疼きが押し当てている鞄の角では済まされなくなっているのも事実。
駅のベンチで休んでいたせいもあり、ちょうど車内はかなりの混み具合で身を守るのも苦労が居る客入り。
(……こん…な)
鞄を絶対死守としてスカートに押し当ててガードをするのだが…… ……元栓はガード出来ない。
働き蜂が花の香りに導かれるよう……。
それは無意識に、されど火照れば火照る程に香りたつ雌の匂い。
車内にて、それを制御することままならず振りまいているのだ。
扉端をキープした私に執拗に密着してきていたはげサラリーマンは未練たらしく降りてゆく。
私の隣の空白が主戦場と銘打ったかのように、男の人が犇めき合う。
男の人の性がそれを本能的に感じ取っているのだろうか?。
(体臭は一応バニラの香りである筈なのに何でこんなにも人目に付くの?)
もしかしたらその香りすらも既にアレ(精液)の匂いに変わってしまっているのだろうか。
そんな事になっていたら私はもう外に出られないだろう。
もう最悪の事しか頭に思い浮かばない。
自身の欲求不満と周囲の視線、無性に欲する喉の渇き……なんだか何もかも嫌になっている自分。
(もう……色々とヤダ……よ)
それでも私は、自然と身体を出来る限りに縮めて制服を手で押さえるしかない。

……途端。
ブルルルゥッゥルウゥ

「んあ!」

慌てて両手で口を塞ぐ。
学校指定のブラウスの胸ポケットに入れていた携帯がいきなり振動したのだった。
ブルルブルルッと、メール着信を知らせた携帯を慌て開く。

「会いたい」
「会って、またどう?」

2行の文面。
宛先名は登携帯に録していた(51歳)のジンさんだった。
車内揺られる中、ジンさんのを思い出す……。
(ぇえと…… ……。)
思考は定まらない。
(そんなのっぉ…ぃまは…はっぁぁあぁハッァッハぁはあ……いらないっ!)
私の本能が求めている。
そこに都合良くも常連さんがコンタクトして来た。
(ンふぅっぅ)
そんな中、私は携帯のボタンを高速打ち。
(…… …… …… ……送信!)
味わいたい……。
ただ無心にアレを味わいたい……アレじゃないと喉の乾きは収まらない……。
私は本能で悟った。
そして…… ……メールの返信を見て、実家への電車から降り立ったのだった。

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