許して悪魔様
非現実:作

■ 命を大事にね24

ベッドに蹲り、刻々と時間が経過するのを待ち望んでいる私。
家に帰ると直ぐにシャワーを浴びて、部屋に篭りきった。
まだ体調が良くないからと、食卓にすら座るのを拒んだ。
お腹は確かに減っている……だけど、この身体の疼きの方が格段に勝っていた。
股間に手を伸ばそうか、何度も心の葛藤と戦い続けている。
帰りの電車、身体の欲求不満に負けて常連さんとHをしたが全く満たされること無くて、そればかりか更に性欲が増してしまった……。
「これは普通のHとかでは駄目なんだ」私は薄々感付いていた。
だから今は耐えるしかない。
だが、時間は遅々として中々経過せず…… ……。
数十分置きに襲い掛かる快楽への欲求のせいで、身体は既に汗だくになっている。
そしてそれと同時に自身でも解る位に立ち込めてくるアレな臭い。
……精液。
考えただけでもおぞましい事である。
この臭気を発しているのが私なのだから……。
(ったく、もっぉ、何時まで起きてるのよっ!!)
何十、いや百は行ったかもしれない時計に目をやる。
日は変わって12時半が過ぎた辺りだった。
弟の健太の部屋からは、まだ微かに動く音が聞こえてくる。
テレビもコンポも電気すら付けておらずシンと静まり返ったこの部屋、他の部屋の音すら敏感に耳に届く。
ただただドクンドクンと波打つような心臓の音さえ鮮明に聞こえるのだ。
この身の欲求が解消されていないという理由、そしていつまで待てばいいのというじれったさ。
私は相当イライラしていた……。

カチリ…… …… ……その音と共に音と気配が消えた。
(寝た?)
ガバッと私はベッドから身を起こした。
弟の寝つきの良さは長い間一緒に住んでいて立証出来る。
しかも一度寝たら中々起きない。
(で、でも……まだ早いか、な……)
ここは慎重に行動しなくてはならない。
既に健太の部屋に侵入しているような動向で音を立てずに、イヤホンを手にして相手(弟)の動向を壁越しで伺う。
まるでスパイか特殊部隊の何かのよう。
頭の中で誰かと誰かが打ち合わせしている。

10分後よ……10分後にやるわ
すばやく進入し、目的を果たして、すばやく戻る
このミッションは誰にも知られてはならないの

ミッションの目的、無論それは健太のPCを起動して問題のあのゲームに進入することだった。
この任務は極めて難しい。
イヤホンで音は消せるが侵入したという事を知られてはならないのだ。
急に不安になる…… ……。
でもこのまま一晩、こんな状態でいたら気が狂いそうになる。
イヤホンを強く握り締めて覚悟した。

抜き足差し足で隣の部屋へと辿り着き、そっとドアを小さく開けて中の様子を伺う。
ベッドの中の弟は布団を頭まで被り睡眠中だった。
(これはチャンス)
都合良い事に身体の向きも丁度壁側だ。
試しに私は軽くベッドを揺さぶってみる。
……全く起きる気配すら見せない健太である。
(大丈夫……大丈夫よ……うん)
爆睡している健太の様子を伺いながら、私はパソコンへと歩を慎重に進めた。
イヤホンを本体に差し込んでから、パソコンの電源を立ち上げる。
心臓の鼓動が物凄く激しい。
苛々と不安が心を揺さぶり、この時ばかりは快楽の欲求不満さを忘れられていた。
例の見慣れた画面が現れ、私はハッとする。
(ひ、光が!?)
ディスプレイが青く煌々とした光を発していた。
慌ててディスプレイをベッド側と反対の位置に変えた。
(なっ、んもっ、バレたっ?)
…… …… ……幸運にも頭から布団を被っている壁向きで眠る弟は未だ夢の中。
(はぁぁぁ……正直今のはマジ焦った……もぉぉぉ……ヤバかったよぉ……)
音ばかり気にし過ぎて肝心の明かりには全く配慮していなかったのだ。
(ったく、何でノートパソコン買わないのよっ、私がどれだけ苦労してると思ってるのよっ!。
ノートなら持ち出すだけでこんなに気を使わないですむのに!!。)
何も知らず眠る弟に心の中で悪態付く。
事情を知っていてそれを聞いたとしたら健太は間違い無く理不尽だと怒るだろう。
……誰もが怒るだろう。
私はそれほど余裕が無かったのだった。
何はともあれ、映画風に云えば……敵(弟)が眠っているままの状態で、私は敵(弟)の情報システム侵入に成功した訳である。
ディスクトップのアイコンで、例のゲームを見つけてマウスを動かす。
標的をマウスで捉えたままの状態で、一呼吸。
脳裏に「本当にアノ変な世界にまた入るの?」と、警告する天使側の私。
正直、マジで怖い。
あの変な世界での私は有り得ない設定にされている。
そして、それは現実にも再現されているのだ。
アイコンをジッと睨み、私は心の葛藤と戦う。
ウズウズとした性的欲求不満が再燃しかけていた。
親にも、お医者さんにも打ち明けられないこの症状。
再び脳裏で再生される変態(魔王)の言葉の「終わらせるにはゲームをエンディングまで進める事」という待った無しの現状。
この私の欲求不満さは普通のHで満足出来なかった。
それは何故か解らないが、ソレを解消説明できるのは魔王の奴しかいないと何となく理解した。
……あんなド変態な奴の事など信用したくはないのだが、今は一番信用出来る存在でもあった。
それが腹立たしくもあり無念にも思う。
ふるふると震えるマウスを握る右手の人差し指が……ゆっくりとそして力強く押された……。

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