許して悪魔様
非現実:作

■ 私はママ1

「ようやくお目覚めか?」
「ぅ……むぅん…… ……」
「そろそろ慣れてもよさそうなものだがな、流石の淫姫様も堪えるか?」
「…… ……んく」

朦朧とする頭で、悪態付く奴に対して私はイラッとする。
それに答える気も起きないくらいに今は気だるいのだ。
と同時に、また来てしまったという深い溜息。
気絶から復活する度に、このゲーム内への進入を酷く後悔してしまう。
だけど仕方がないと……頼みの両親にもお医者さんにも話せない狂った事実が私の身に起こっている。
これを解決するにはこうするしかない。
自身そう言い聞かせて私は魔王ナンたらの前に立つのだ。

「毎日という約束の筈だったがどういう了見だ?」
「ぅ……うっさいわよ、女子高生は色々と忙しいのっ!!」
「フフフ、相変わらずこの魔王に対しての言葉が…… ……ッッ!?」

突然、魔王ナンたらが尖った鼻をスンスンと鳴らす。
(ぁ……そうだったっ、わた……わ、私…今ヤバい臭いが!)
無駄だと思うよりも咄嗟の判断で、私は身を屈めてしゃがんでいた。
ズン、ズンと、魔王ナンたらがゆっくりと私の元へと歩んでくる……ヤバイと脳が危険信号を出している。
しゃがんだ両膝に顔を押し付けて私は振るえながら叫んだ。

「ゃああっ、来ないでっぇ!?」
「馬鹿者がっぁ!」
「っわ、ひゃっぁぅ!?」

それは一瞬の出来事で、パジャマの襟首を掴まれた途端、身体が宙に浮いた。
華奢で小柄なんてムカつくくらい羨ましいと友達からも云われる私の体重だって4○キロあるのに、この魔王ナンたらは左手一本で一瞬に私を吊り上げた。
そして瞬時の事で何が起こったのか訳も解らなかった私は、平行線上に見える魔王ナンたらの顔と対峙していた。
…… …… ……その顔はおそらく始めて見るかもしれない程の怒り表情で満ちていた。
(こ、こ、こ……わい)
初めて感じた恐れ。

「希美子、そなた……死にたいのか?」
「っぇ?」
「死にたいのかと問うたのだ」
「し、死ぬって……」

「死」というキーワードを脳裏に浮かべると同時に、まるでスライド写真のように微笑む両親と健太の顔を思い出した。
ふるふる……と、か弱く私は首を横に振った。

「罪人希美子よ、ワシは淫姫を裁く身にて貴様が死のうが生きようが全く構わん。
だがっ、我が僕となる魔界の者を共に犠牲にするつもりならワシは到底許せん。」
「〜〜〜ぇ…ぁ……ぇ!?」

今の私は死ぬかもしれない状態だと宣告されている最中では到底思考すら追いつかない。
魔王ナンたらの言っている意味が理解出来なかった。
そんな私の状況を把握したのか、魔王ナンたらは説明口調で現状を言うた。

「まず何日も放置した結果、貴様に植え込んだ魔界の種が餓死しかけている。
その意味が解るか、貴様に仕込んだ養分蟲は1日しか持たないからだ。」
「あ……」

いつぞやの会話が蘇る。
あの時は半信半疑だった、これは夢だと決め付けていた。
だが実際に起こった身の変異は、実際にそのルールがあるのだと……今、思い知らされた。

「希美子、種付けした魔界の種は死に掛けると苗床の水分を全て吸収しようとする。
ありとあらゆる水分をだ、例えばヒトの唾液も汗も……そして血液もだ。」

顔面蒼白。
そして喉の渇きの理由が明らかになった。
だけどその理由は私を十分に震え上がらせるもので、血も吸われてしまう……その事実に私は言葉も出なかった。

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