許して悪魔様
非現実:作

■ 私はママ7

お母さんのお弁当を食べ終えて、私はいつもの様に何気なくピルケースを取り出す。

「アレ、まだ飲んでんだ〜薬」
「えっ、あ……うん、まだ本調子じゃなくって」

いつもお昼ご飯を一緒する友達のリカの声に、一瞬ビクッとなって適当に誤魔化す。
真向かいに座っていたマリが続けて言う。

「そう言えば今日も体育休んでたけど大丈夫なの、ホントに?」
「ま、まぁね……過度な貧血気味ってお医者さんに言われてるの、あは……は」
「それにしたって随分と長くないよねぇ、体育休むのも最近多いし」
「あはは……」

もう笑って誤魔化すしかなかった。
ここ最近の私の身体は体型には現れてはいないものの、凄まじい変化が現れていた。
まず激しい運動をすると下腹部から強烈な痛みを生じ、そして絶えず胃がムカムカとしているのだ。
食事を終え、この魔王ヴァインの精液薬を飲むと次第にソレは収まるのだが体調は本当によろしくない。
思い当たる節がある私は、自室のパソコンで「つわり」をネット検索した。
…… ……出来れば外れてほしかった予想は的中し、子を体内に設けた女性の「つわり」とそっくりな状態だった。
(しかも……その子は悪魔の子…… ……)
出来るだけ考えないようにしていても、友達から指摘されると嫌でも頭の中で蘇ってくる現実。
かと言ってこの精液薬を飲まないと私は死んでしまう(らしい)。
一日だけでも飲まないでみるという挑戦はリスクが高過ぎる。
何せ魔王ヴァインの言う事は一々当たっているのだった。
せめて学校にいる時だけはこの悪夢から逃れたい。
私は話題を終わらせる為に1粒の白濁としたカプセルを素早く口に放り込み、口内で歯を立ててカリッと中身を出す。
ドロドロとした液体が口内に纏わり付き、私はしかめっ面で全部出るのを待つ。

「そんなに苦いの、ソレ?」

コクコク。
私は口を一切開かずに2〜3頷いて肯定の意を表した。
そう……今は絶対に口など開けないのだ。
今の私の口内を友達が見れば、嗅げば……絶対にソレが何であるかは直ぐにバレるであろう。
思春期の女の子はそれなりに興味を持ち、密かに色々と研究しているのだ。
バレる訳にはいかない、素早く用意してあったコーラで喉に流し込んだ。
本音を言うとコーラはあまり好きではない飲み物の1つである。
刺激の強い炭酸量と後味の甘い感じがどうにも慣れないのだが、精液薬のドロッとしたアレ特有の苦味を掻き消してくれる為、薬を飲むときはコーラと決めていた。

「ちょっと歯磨き」

口臭がとても気になる。
残りの休み時間の10分前まで使って、念入りに何度も何度も磨き続ける私は他人から見たら潔癖症と勘違いされそうだ。
(そだ!)
口を濯ぎ終えて、私は徐に個室トイレに入る。
別に今は用を足す必要は無かったが、ピルケースの中身が心配だったのだ。
ポケットからピルケースを取り出してサァッと血の気が引く。
あと、4つしかなかった。
(今日の晩御飯と明日の3食分しか!)
多めに貰った精液薬だったが、実は初めて味わう「つわり」の苦しさに耐えかねて何粒かは無断で服用していたのだ。
その為、予定していたよりも早く薬はなくなりかけていた。
(まっずぅぅ……コレ……また貰いに行かないと……)
出来る事なら、他に相談できる相手が居るのなら……あんなゲームの世界になんか入りたくはない。
だけど、だけど、だけど。
今の私には悔しいけど奴しかいなかった。
   ・
   ・
   ・
深夜1時半。
ミッション開始。
私はパジャマの姿で音を立てない様にドアを開け隣の弟の部屋まで到着した。
ここまでは万事OK。
音の無い深い息吹を立てて、ゆっくりと弟の部屋のドアノブをゆっくりと音を立てず回す。
キィィ…ィッィ…… ……
(馬鹿っ!?)
誰に言ったものではなく、私は心の中で罵声する。
幸い、一度眠りについたら中々起きない自慢の弟はベッドで夢心地。
(疲れるわぁ〜〜……)
声の無い溜息と共に心底そう思う。
そして常に横目で弟を監視しつつ抜き足差し足での忍び歩きで弟のパソコンまで辿り着く。
以前の教訓を踏まえ、先ず私はディスプレイを用意していた厚手の布に被せ、イヤホンを差し込む。
いざ、起動。
起動音はイヤホンで掻き消され、お馴染みの青い画面も厚手の布で遮光は殆ど無い。
私は最早手馴れた動きで例のゲームを立ち上げた。
一瞬にして光が私を導き、意識を遠のかせた。
無理矢理寝ようとして夢の中に引きずり込まれる感覚。
そして目が覚めた時は。

そう、魔王ヴァインが仁王立ちで待ち構えているのである。

「ぅああ!」

相変わらず慣れない、いや慣れたくも無いよ。

「よぅく来た、淫姫希美子よ」
「来たくて来たんじゃないの、あのね用件を率直に言うわ」
「む?」
「アレ、アレを頂戴」
「んっふっふっふっふ……ふうぅわっはっはっは」

いきなりの高笑いは本当に怖い、正直引く。

「な、な……何よいきなり……気違ってるの?」
「淫姫希美子、ワシのペ○スが欲しいとは随分な従順な雌になったのもよ」
「ンなっ!!!」
「ワシのこの衰え知らぬペ○スが欲しいのか?」
「…… …… ……」

ワナワナ震える体は最早我慢できない。

「ちっがぁっぁぁああうっ!」

頭に血を滾らせて私は叫んでいた。
だが、魔王ヴァインは余裕の表情で言う。

「そうかそうか、死を選ぶかと思いきや中々淫姫希美子も健気な事よ」
「薬、ク・ス・リを頂戴!」
「あぁ〜〜やろう」
「ぇへ?」

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊