悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 刻まれた快感1

 悠里の母・静恵が余命半年と診断されたのは2月初めのころ、だが季節は既に夏を迎えその半年も過ぎようとしていた…。
悠里の姉・麻衣は担当医より「現在の衰弱から静恵さんの命はもって2週間」と告げられ、新潟の小千谷に住む伯父の祥一の元へ静恵危篤の連絡を入れた。

祥一は連絡を受け急遽上京すると病院に直行し担当医に静恵の病状を聞いた、担当医は「既に終末期で現在はモルヒネの投与のみ」と無情にも応えた。
それを聞いた祥一は嘆き悲しみ、病床に付き添っていた麻衣に「せめて臨終まで看取らせてほしい」とその日から病院に近い悠里の家に泊まり込み、病床で苦しむ母の介護に当たるようになった。

伯父の祥一は悠里の母とは二人兄妹で、小千谷で二百年続く老舗の酒造会社を営んでいた。
これは後日、伯父から聞いた話だが、母・静恵は二十歳のとき見習い杜氏と恋に落ち姉を身ごもったという、それを知った祖父は怒り心頭に見習い杜氏をクビにすると静恵に堕胎を迫った、だが静恵は深夜、見習い杜氏と手に手を取って小千谷を出奔、東京に駆け落ちし姉を出産したという。

勘当となった静恵は実家の両親からは見放され、十数年後その勘当が解けぬまま両親は他界、残された膨大な遺産は伯父一人が全てを受け継ぐことになった。
だが伯父は歳の離れた静恵を子供のころより可愛がり、静恵が勘当になった後も両親の目を盗んでは生活費を仕送り、いつも気に掛けていたと言う。


 伯父の祥一が家に来て1週間が過ぎたころ、姉の麻衣は伯父と交代のため、いつものように悠里に声を掛け母の介護のため病院に出掛けた。
午後3時過ぎ、姉と入れ替わるように病院から戻った伯父は初めて2階の悠里の部屋を訪れた、伯父は女の子らしく飾られた悠里の部屋を一瞥すると、その狭さに苦笑し「これはベッドに座るしかないな…」と独り言のように呟き遠慮顔でベッドの縁に腰を掛けた。

「悠里ちゃん、きょうは妙に静かだと思たら宿題やってたんだ、だったらオジさん邪魔だったかな」

「いえ、宿題はもう終わります、邪魔だなんて…」

「そうかい、じゃぁ少しだけ喋っていこうかな」
悠里は宿題の手を止めると椅子をずらし伯父の方に体を向けた、すると伯父は悠里がまだ幼かったころ…この家に1度来たことがあると言い、そのとき麻衣と悠里を連れ動物園に行ったことなどを話し、悠里も僅かに残る記憶を辿り懐かしく聞き入った。

だが30分もたったころ、伯父の視線が露わになった悠里の脚や股間に注がれていることに気付き慌てて脚を閉じミニスカートの裾を引っ張って顔を赤らめた。

「おっと、ゴメンあまり綺麗な脚だったから伯父さんつい見とれちゃった」

「だけど悠里ちゃんは中学時代のお母さんに本当によく似てるね、1週間前この家に来た時は中学時代の妹が立ってると思いビックリしちゃったよ、でも本当に綺麗な顔してるね…こんな綺麗な子が小千谷の街なんか歩いたら誰もが振り返って驚くだろうな」
そう言いながら濡れた瞳で悠里の体を舐めるように見回し「中学生なのに背丈はオジさんより高いようだが…いま何センチあるの」と聞いてきた。

そのとき「危険なオス」の臭いを感じ取った、その臭覚は女性特有の感性であろう。
だがそれは一瞬のこと、すぐに伯父はいつもの優しい表情に戻っていた。

それでも悠里はドキドキし極力平静を装うと「165センチ、クラスで二番目に高いのよ」と立ち上がり女の子らしい仕草で返した。

「ほぅ悠里ちゃん165センチもあるんだ、もう1センチで追い抜かれてしまうな」
伯父は笑いながら、透明感漂う美しい悠里の貌と均整のとれた体躯を再び嘗め回すように見つめた。

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