悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 少女の孤独1

 商店街の入口で親友の奈津美と別れた悠里は夕方の買い物客で賑わう商店街へと自転車を走らせた。だが悠里が乗る自転車は今にもチェーンが切れそうな異音を放ちだした。

この自転車は母・姉・悠里と受け継がれ20年近くも酷使された古自転車だ、それゆえ当然あちこちにガタがきていて、特にブレーキが甘くチェーンも錆付き今にも切れそうな音を立てていた。

(卒業式まであと4日、何とかそれまで壊れなければいいけど…)
そんな危惧を抱きつつペダルを慎重に踏みながら悠里は昼休み担任教師が吐き捨てた台詞を思い出していた。

「悠里、都立推薦合格の内定を辞退するなら何で推薦受験など受けたんだ!、少しは学校の迷惑も考えろよ、ったく…親のいない生徒はこれだから困るんだ、もう俺は知らんからな」


 悠里が13歳のとき酒屋を営む父が肺癌でこの世を去った、そして母もその翌年 乳癌を患い父の後を追った。
無理して吉祥寺の商店街に日本酒専門店をオープンし、これからという時に両親は相次いでこの世を去り、両親が姉妹に残したものは多額の借金であった。
姉は母の葬儀を済ませるとその一週間後、荻窪の自宅と吉祥寺の酒店を売却し、悠里を連れて深川の小さなアパートに引っ越した。

売却金は全て借金返済に充てられた、だがそれでも借入残金は一千万ほども残り、姉は大学をあきらめアパート近くのスーパーマーケットに就職。借金の返済と悠里の養育のために昼勤だけでは足らず夜も遅くまで居酒屋で働かなければならなかった。

そんな苦しい生活の中、姉の麻衣は悠里に何としても高校だけは行かせたいと推薦受験を受けるよう勧めたが…姉の収入の殆どは月々の借金返済に充てられている現状、悠里が進学を望めば麻衣の負担は今以上になろう、それゆえ悠里は中学を卒業したら就職し、麻衣に協力して借金返済に助力しようと既に決心もつけていた。

そんな中、先日奈津美と渋谷に行った際、芸能プロダクションの営業と名乗るオジサンに引き留められ「是非面接だけでも」としつこくつきまとわれた。
遂には携帯番号だけでもと懇願され、断り切れず番号を教えその場を逃げた、悠里は街に出ると必ずといっていいほどスカウトマンにつきまとわれていたのだ。

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