悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 少女の孤独2

以前その事を姉に相談したら「大手プロダクションならオーディションでスカウトするでしょ、そんな街を歩く女の子に声掛ける芸能プロダクションなんて絶対怪しいからついて行っちゃ駄目よ」と言われ、以降はどんなに懇願されようとも辞退していた。

だが今日、部活が終わったときその芸能プロダクションのオジサンからいま学校の近くまで来ているから是非会って欲しいと電話が来た、悠里は部活中だから無理と電話を切ったが、すぐに電話が鳴り「部活が終わるまで商店街入口の喫茶・エンゼルで待ってるから」としつこい。

悠里は困りはてその事を奈津美に相談した。
「へぇ…あのオジサン近くに来ているんだ、よっぽど悠里が気に入ったんだね、そう言えばクラスの男の子達が言ってたけど…どのアイドルグループにも悠里ちゃんほど可愛い子はいないってさ。

さっきもバスケの男子達…練習もしないで悠里ちゃんに魅取れてたの見たでしょ、私から見ても悠里ちゃんはビックリするほど綺麗だもん、スカウトマンがしつこくなるのも仕方がないよ、でもそんなにイヤならこれから会ってはっきり断ったらいいじゃない、何なら私が付いていってあげるからさ」

勝ち気の奈津美が付いてきてくれるならと悠里は促されて喫茶店に向かった。
喫茶店に入ると店奥のテーブルにオジサンが座っていた、悠里達が入ってきたのを見つけるとオジサンは恥ずかしげもなく大きく手を振った。

悠里らは恥ずかしくなり慌ててテーブルに駆け寄る。
「来てくれたんだね、友達も一緒なんだ、でっこのお友達も一緒に面接を受けたいの?」

「私は悠里の付き添いです、面接なんてとんでもない…」
と奈津美は応えたが…まんざらでもないといった表情で笑った。

「悠里さんは別格として、君も個性的ですごく可愛いよ、どぅ何なら一緒に面接受けてみたら」
結局出鼻をくじかれた感じに話は進み、面接を断るどころか途中から奈津美はオジサン側に回った感じで「悠里ちゃん一緒に受けようよ」と言い出す始末。

その後、オジサンさんの話は現実味を帯び、現在5人グループの美少女アイドルユニットを計画中で、面接で合格したら事務所の寮に入居してもらい、売り出すまでの半年間はダンスと歌の集中レッスン受けてもらう、高校は私立の指定校に入学し学費と生活費の一切は事務所が面倒をみる、だが売り出すまでのあいだは給与は出ない、しかしレッスンの成績次第で小遣い程度は考慮するって言われた。

結局は「少し考えてみます」と応えてしまい喫茶店を出た、ミイラ取りがミイラになった感じの奈津美は上気加減に「私たちテレビに出られるかも知れないね」とはしゃいで帰っていった。

(寮に住んで高校にも行かせて貰えるなんて夢のような話、スゴク現実味が有ったけど…アイドルユニットの話しは少し嘘っぽかった。
最近はアイドルユニットを餌に変なビデオに出演させる芸能プロダクションが多いから気をつけなさいってお姉ちゃんが言ってたけど…でも本当に高校に行かせてもらえるなら変なビデオに出ることになっても我慢する、だって伯父さんにあんなことされたんだもの…あれ以上に変な経験なんてないと思うから。
でも、もしHなビデオなんかに出たらお姉ちゃんスゴク怒るだろうな…残念だけどオジサンには明日ハッキリと断りの電話を入れよう…かな。

あっ、そういえば部活顧問の先生が定時制高校の募集ならまだ間に合うかもしれないと言ってた…受けてみようかな。
定時制なら昼間仕事して夜通える、それならお姉ちゃんの負担も軽いはず、早速お姉ちゃんに話さなくちゃ、でも推薦断ったこと話したら怒るかなぁ、最近勤め先が忙しいのか少し怒りっぽいもの…。

昨日も晩御飯のとき部活が終わることを話したら「食事中は黙って食べなさい!」って怒られた、お姉ちゃんだって食事中に他事考えてるくせに、最近お姉ちゃん変だよ、あっ!お姉ちゃん6時半には出ちゃうから急がなくっちゃ)

その時、漫然と疾走する悠里の前方横筋に、一旦停車した白のスポーツカーがゆっくり前進を始めていた、だが悠里は考え事に夢中で前方が車で塞がれていることには全く気が付いていなかった。

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