悠里の孤独
横尾茂明:作
■ 少女の孤独3
前方を塞ぐ車に気づくのが一瞬遅れた、悠里は引きつるようにブレーキを握る、だが距離がなさ過ぎた、まだブレーキが効けばギリギリ間に合ったかもしれないが。
商店街に嫌な衝突音が鳴り響き、行き交う人々を驚かせた。
ほぼノーブレーキで突っ込んだ自転車は前輪を車のフェンダーに激しく衝突させ、悠里の体はその勢いで低いボンネットを飛び越え あわや地面に叩き付けられると思われた瞬間、奇跡的にも一回転し お尻から滑るように着地した。
もし車がスポーツカーでなく車高の高い車であったなら、顔面か頭部を車体に激突させ重傷は免れなかったろう。
悠里は自分が尻餅をつきスカートも露わに地べたに座っていることに気づき慌てて立ち上がろうとした、だが臀部に激しい痛みを感じ思わず膝をついた。
スポーツカーを運転していた男が慌てて車から飛び出してきた、「きみ、大丈夫か!」と悠里の肩を掴んだ。
「だ、大丈夫です…でもお尻が…うぅぅ」
「あぁ良かった頭は打ってないようだ、さっ早く病院に行こう、すぐその先にあるから きみ車に乗れるかい?」
「あっ、はい…でも手を貸して下さい」
悠里は男に腕を支えられ何とか立ち上がると、肩を借り車の助手席に座った。
男はドアを閉めタイヤハウスに喰い込んだ自転車を強引に引き剥がすと辻角の看板柱に立て掛けた。
悠里は男の挙動を車内から見ていた、看板柱に立て掛けられた自転車は無残にも前ホークは後方に折れ曲がりタイヤは楕円に変形していた。
男は暫く自転車の損傷具合を見ていたが、あきらめたように前カゴから学生鞄を取り出すとドアを開け乗り込んできた。
「自転車はダメだな…持ち物は鞄だけだね」
そう悠理に確認し左右を慎重に見てから車を発進させた、車は300mほども走り右奥にある大きな病院へと進路を切る、そのとき車の前輪辺りからザーっという擦れ音が鳴り響いた、どうやら先ほどの衝突でフェンダーが変形し右前輪に喰い込んだようだ。
だが運転手はそんな音などお構いなしに病院へと入っていく、その病院の屋上には「医療法人・高橋総合病院」と大きな看板がライトに照らされていた。
車輪は遂にガリガリとけたたましい音に変わり玄関アプローチの車線へと進む、暫く走ると左側に病院玄関が見え 車は左へ進んで玄関前に車を止めた。
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