悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 少女の孤独4

「ここで待ってて、すぐに看護師さんを呼んでくるから」
そう言い残し男は車を降りると病院玄関へと走って行った。

一人残された悠里は先ほどの動転ぶりから少しばかり平常心を取り戻しつつあった。
だが平常心が戻り始めたとき…しでかした事の大きさに我に返ったという感じで膝が震えだした、それは先ほどの事故は明らかに自分が加害者と感じたからだ。

相手の車が停車していたのは目端に見えた、運転手が左右を確認したかまでは分からないが、確認したとしても商店街の左端を疾駆する自転車などまず目には入らないだろうし、商店街入口には「商店街は自転車から降りて通行!」と大きな看板も出ていた。

もしあの車に人が乗ってなくて駐車してただけでも…たぶん自分はぶつかったかもしれないと思えた、それはナガラスマホと同じ感覚に感じたからだ。

(どうしよう…この車 ハンドル中央のマークはポルシェ?、総革張りの高級スポーツカーみたい、こんな高そうな車にぶつけるなんて…高額な修理代を請求されたらどうしよう、それに自転車が無くちゃ学校に通うのも大変…)

その時ドアが外から開かれ女性看護師が顔を見せた。
「すぐに診察しますから降りて下さい、お嬢さん歩けますか」と聞いてきた。

「はい、どうにか…」そういうと悠里は鞄を抱え車から降りた。
看護師の肩に掴まり玄関を入り、少し歩くとやはりお尻は痛みだした、しかし歩けぬというほどの痛みではなかった。

病院一階、最奥のX線撮影室の前まで連れて行かれ「この用紙に氏名・年齢・住所を書いて下さい」と言われ用紙とボールペンが渡された。

悠里はX線撮影室横の長椅子に座り、渡された用紙に所定事項を書き込むと看護師に渡した。
「自転車でぶつかったって聞いたけど、幸い頭はぶつけてないようね…でも転倒したショックで頸椎/脊椎/腰椎に異常がなかったかX線で調べてみましょう」
そう言うと悠里を残し看護師はX線撮影室に入っていった。

悠里は手持ちぶさたに周囲を見渡した、午後の受診時間が過ぎているためか病院内は閑散とし、行き交う人々は医師と看護師ばかりであった。

(スポーツカーを運転してた人…あれっきり現れないけど…どうしたのかしら)
と不審に思っていたときX線撮影室の扉が開き「武井悠里さん中にお入り下さい」と看護師に呼ばれた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊