悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 奸計と失踪2

「東和商事さん、新型MRIの導入は夏頃までには決めたいと考えております、まっそれまでじっくり検討しますのできょうの所はこれまでに、申し訳ないが16時より次の予定が入っておりますのでお引き取り下さい」そう言うとまだ何か言いたげな営業マンを無理にも部屋から追い出した。

雅人は電話を取ると受付に繋いだ。
「高橋だが受付に武井悠里っていう中学生は来ていませんか」

「いえまだおみえになってはおられませんが」

「そう…ひょっとして整形の診察待合にいるかもしれませんので調べて下さいな、見つけたら医院長室に案内して下さい」そう言って電話を切った。

雅人は思案げに部屋をゆっくり歩き始めた、熟慮した計画に無理はないかと考える、その一方罪悪感に苛まれ(やはり…いいオジサンで終わろうか)とも思い始めていた。

(相手は15歳、そんな子供に奸計を仕掛けるとは…お前は人非人か、けなげにも今どき定時制高校へ行こうという子に何を仕掛けようというのだ、この破廉恥漢が…)

次第に己の根性に嫌気がさしてきた(俺はどうしてこうなんだろう、欲しいと思ったらもう後先かまわず夢中になって…たまには我慢をしたらどうなんだ)

(そう…我慢しよう)ポツリ心の中で呟いた、すると肩の力がスッと抜けていく、その時電話が鳴った。

「武井悠里様がおみえになりました、これより医院長室に御案内します」との連絡だ。
電話を受話器に戻すと再び緊張し始める(お前あきらめたんだろう)と自問するも妙にもどかしく、眉間辺りを押さえデスクの椅子にドカっと腰を下ろした。

暫くしてノックが鳴りドアが開いた。
「医院長、武井様を御案内しました」との声に続きあの美少女が部屋に入ってきた。

雅人は立ち上がると「来てくれたんだね、さぁそこの椅子に掛けて下さい」
嬉しそうに言うと窓側の応接椅子に案内した。

少女は指定されたソファに浅く腰を掛け、愁いを含んだ眼差しで正面に座る雅人を見つめてきた。

(あぁこの透き通るような爽やかさはどこからくるのか…)
雅人はつい少女の顔をまじまじと見つめてしまい、その美しさに感嘆してしまう。

この無遠慮な視線に晒され少女は顔を赤く染め伏せてしまった、そしてモジモジと膝上で指をいじり、何か言いたげに再び視線を雅人に向けた。

「昨夜は他事を考えてて…大事な御車を傷つけてしまいどうお詫びしてよいのか…本当にごめんなさい」

「いや、私の方こそ道の端っこを走る君が見えず…でもあの商店街は自転車走行禁止区域のはず、大怪我にならず幸いだったけど…これからは注意しなくちゃね、でっ昨夜はお姉さんと相談できましたか?」

「……いえ、昨夜姉は帰ってきませんでした…」

「お姉さんが帰宅しないって…そういうこと度々あるの」

「いえ、初めてです…」

「そうか…困ったね、何とか連絡は取れないかな」

「先ほども何度も携帯に電話しましたが電源が切れてるみたい…」

「んんどうしたんだろう、心配だね」

「…………」

「さてとどうしよう、君はまだ中学生だから示談とか保証とかの話は難しいよね、しかし車は今朝方修理に出し、今週末には修理が終わるから支払いが生じる、だから示談決済は遅くとも明後日までには済ませたい、お姉さん何とかつかまらないかなぁ」

「先生…事故のこと出来ればお姉には内緒にしたいんです、姉に負担はかけられません」

どういう事情が有るのか少女は事故処理を姉に知られず自分一人で解決したいようだ…雅人は計画した奸計に少女は自ら飛び込んできた…そう思え、一旦あきらめた想いに再び迷いが生じる。

「負担って…賠償金のことだよね、でも君一人で解決出来るとは思えないが」雅人は言うとデスクに行き先ほど見ていた修理見積を取って戻ってきた。

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