悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 奸計と失踪3

「これを見てごらん」と先ほど届いた修理見積をテーブルに置く。
そこには修理明細が20行ほど並び合計1,376,500円と書かれ、備考欄には事故による価値損は車両損壊軽微につき1割(2,600.000円・参考までに)と記載されていた。

「悠里さん、見ての通り事故による損害額は合計すると3,976,500円にもなる、過失度合いを3:7としても君の負担額は1,192,950円、これに君の自転車全損分3/10をプラスすると120万になるんだ。

でもこれは過失度合い3:7の場合であって、実際は自転車走行禁止区域をナガラ走行し停車中の車にぶつけたとなれば過失度合いは5:5が妥当、つまり事故損金の半分200万ほどが君の負担額になるけど、この金額が君一人の手に負えるのかな」
雅人は言いながら猫がネズミをいたぶる展開になっているのにふと気付いた。

先ほどまでは、昼前に自転車屋に届けさせたスクール自転車を少女に与え、幾許かの慰謝料を渡してケリにしようと考えていた、だが少女の余りの可憐さと唯一身内である姉にも内緒にしたいとの少女の告白に…またもや雅人の心の奥に沸々と煮えたぎる欲望が芽生え始めたのだ。

(やはりあきらめられない…あんな素晴らしい尻や性器をあきらめられるものか)気付けば小動物を膝下に引き据え、その精神をいたぶる行為に及んでいた。

雅人は我に返った感じに再び少女を見つめた、少女は途方に暮れた顔で修理見積を見つめ、やがて耐えきれないのか肩先が震え始めた、だが震える少女の表情は雅人にとっては心しびれさす秘薬にも感じた。

(もう少しだけ少女の精神を虐めたい…もう少しだけ)
リミッターを設けての奇妙ないたぶり、それは欲望を抑える理性リミッターのつもりであろうが、少女の精神をいたぶる行為そのものが強姦と何ら変わらぬことに雅人はまだ気付いてはいない。

少女はようやく見積書から視線を雅人に移した、その真っ直ぐな視線に少しうろたえたが咳払いでごまかし「君の納得いくようにしたいけど…どうする」と上目遣いに聞いた。

「このような大金…私どころか姉にも無理な金額です」少女は絞り出すように応えると、大粒の涙をあふれさせた。

「あっごめん、泣かせるつもりじゃ…君が一人で解決したいようだから現状を口にしたまでで、これからの示談交渉で負担額は減額していくのだが…さっこれで分かったと思うけど、君一人で解決するのは無理なんだ、やはりお姉さんを呼ばなければ」

「でも…でも、私が起こした事故、姉に責任はありません」

「んん困ったね、これでは話が進まない、何度も言うようだが君には無理なんだ、明日まで待つからお姉さんをここに連れてきて欲しい、それが無理なら私が君の家に伺うが」雅人はさらにたたみかけた。

「困ります、姉に会うのは絶対ダメ…」少女はとうとう声を出して悲しげに泣き始めた。

(おいおいまさか泣き出すとは…まいったなぁ)雅人はソファから立ち上がると大胆にも少女の横に腰を下ろした、そしてためらいつつも腕を廻し少女の肩を抱いた、そのとき少女のなんとも言えぬ甘い香りが鼻をくすぐった。

「泣かせてごめん、もう明日とは言わないから今日のところは帰りなさい、君がどうしてもお姉さんに知られたくないと言うならそれでもいい、でも今週中には君なりの解決方法を聞かせてくれるかい、さぁ立って」雅人は泣き濡れる少女の腕を支え ゆっくり立ち上がらせた。

「あっ、そうだ君の自転車は壊れてしまったから新しいのを用意してたんだ、さぁ一緒に来てくれるかな」
白衣からハンカチを取り出し少女の涙を優しく拭き、そっと背中を押して医院長室のドアを開けた。

少女をエレベーターに乗せ玄関ホールに用意した6段変速の真新しいスクール自転車を見せた、少女は目を丸くしこんな高価な自転車は貰えませんと辞退する、だが雅人は自転車の保証は私の責務だから負担に思わないでと無理にも乗せて送り出した。

雅人は部屋に戻ると先ほどまで少女が座っていたソファに腰を下ろした、結局少女には何も言わせず、何も考えさせず帰した。
これも計画の内であったのか、少女に弁済不能な金額を聞かせ途方に暮れたところで開放する…実に汚いやり口ではあるが、さてあの少女はこの先どれほど苦悩し悶え苦しむだろう…。

(加虐の悦びとはこのようなものか…)
雅人は被虐に苦悩する美少女の心理を慮った。

(唯一身内である姉に事故の相談はできないという…それは雅人にとって思惑通りの展開だ、さてあの少女に他にあてがあろうか…いや15歳の少女にそんなあてなどあるまい、では示談金の捻出はどうするのか、いっそ自分の肉体がその弁済金に充当すると少女が思い至ればしめたものだが…さてさてあの少女これからどう出てくるのか、まっ ダメ元で行けるところまでいってみよう)
雅人はウインド越しに赤く染まった西の空を見た、すると苦悶する美しい少女の貌が浮かび上がり、やがて西陽とともにビルの谷間に没していった。

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