悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 奸計と失踪5

 机上から物憂げに身を起こし涙を拭いて窓の外を見た、辺りは既に闇に包まれていた、悠理は蛍光灯の下に行き電灯の紐を引いた。
部屋が明るくなり黄色く焼けた畳の上に古びた勉強机とビニール製クローゼット1個が浮き上がった。

その明かりに姉が使う6畳間も照らされた、やはり姉の部屋にも同様のクローゼットと衣装BOX1個が浮き上がった。
それ以外は何もない部屋、悠里は思いつめたように姉の部屋に行き、クローゼットのファスナーを引いた、やはり中は空だ、次いで衣装BOXの蓋を開ける、BOX底には使い古した下着が2枚だけ残っていた。

(お姉ちゃん…もう返ってこないんだ)
再び言いしれぬ寂しさがこみ上げる、姉が妹を置き去りに置き手紙だけで逃げるように男の元へ走るなんて思いもしなかった。

悠理はあきらめたように机に戻り、便箋を封筒に戻そうと封を開けた、すると中にお札が入っていることに気付いた。
(何のお金?)数えるとちょうど10万円入っている、これは小千谷に行くまでの食費と小千谷までの交通費のつもりだろうか。

悠里は10万円を手の平に乗せた、中学生にして初めて見る大金だ、だが同時に先ほど医院長先生が言った200万円の示談金額を思い出した。
(あぁ10万では全然足りない、もうどうしたらいいの私だって逃げたい…)その時、何の脈絡もなく不意に伯父の潤んだ眼差しが脳裏をかすめた。

(お姉ちゃん…あんなに私の小千谷行きを拒んだくせに、いまさら小千谷に行けだなんて、借金と引き替えに私を…)

伯父と自分の関係に姉は気づいていたはず、それは伯父からの電話を姉に取り次いだときだった、姉は電話口で「伯父さん、あなたが悠里に何をしたか私が知らないとでも…養子だなんて、よくもまぁそんな破廉恥なことが…」と声をひそめ怒っていたのを隣の部屋で聞いてしまったのだ。

(お姉ちゃん、何もかも知ってたくせに…妹を売ってまで男にすがりたいの?)


 悠里はお金を封筒に戻し引き出しにしまった、涙は知らぬ間に乾き時計は既に8時を回っていた。
昨夜は帰らぬ姉を待ち続け4時過ぎまで起きていた、外が明るくなったころ少し微睡み自転車がない事を思いだし慌てて学校へと走った。

午前の授業が終わり、痛烈な空腹を感じ昨日の昼から何も食べていないことに気付いた、財布を覗くと270円…ちょうどパンと牛乳が買える金額だ。
しかし今夜も姉が帰ってこなかったら、そう思うと270円を使うのが勿体なくて昼食は我慢したのだ。


 (お腹空いたな…)どんなに悲しくても空腹は感じるんだ…そんなことを考えながら悠里は台所に行って再び冷蔵庫を開けた、姉はその日食べる量しか買わないことは知っていた、やはり先ほど見たとおり僅かばかりの調味料が入っているのみ。

次いで米びつを開けた、これも殆ど空だった。
あらためて貧乏の現実を実感し姉が如何に借金で苦しんでいたか…現実逃避しオーストラリアに彼を追った姉の想いがこれだけでもうかがい知れた。

(あっそうだ、10万円有ったんだ)
悠里は引き出しを開け封筒から1万円だけ抜いて着ているセーラー服を私服に着替えた。
先ほどまでの悲しみはどこえやら、今は空腹を癒やすことだけが関心事で1万円札を握ると外に飛び出した。

路地から大通りに出て左に曲がればすぐコンビニが有る、自転車に乗る距離ではないためアパートの階段を駆け下りるとそのまま走り出した、そのときまたもや伯父の顔が脳裏を走った、それも醜く歪んだ顔だ。
伯父は射精が近づくと醜い顔になった、その顔で「気持ちエエー」と叫んで逝くのだ、そんな伯父を可愛いと思えたり醜いと感じたり…。

悠里はあの二週間は嵐のような日々だったと今でも思う、それは伯父に体を許したその日から伯父が悠理の体にした羞恥の行為は異常だったからだ、昼の3時になると伯父は悠里の部屋にやってきて裸になるよう命じた、そして立たせたまま長い間飽きもせず全裸を見つめたり、恥ずかしい格好にさせていつまでも性器を舐めたり頬ずりしていた。

伯父の行為は日に日に異常さを増し、遂には尿や便を部屋でするよう命じ悠理が羞恥に耐えられず泣きじゃくると喜んだ、その後のSEXは決まって激しく悠理はその気持ちよさから伯父のどんな恥ずかしい命令も次第に従順に従うようになり、母が亡くなる二日前には肛門性交でオーガズムを経験するまで調教されていた。

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