悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 奸計と失踪7

 コンビニで好物ばかり山ほど買ってアパートに戻ってきた。
精一杯のヤケ買いだ、悠理は買ってきたものを次々にレンジへ放り込み、調理できたものから片っ端に口に詰め込んで咀嚼した。
特に食べたいとは姉には言えなかったレトルトのハンバーグや唐揚げは予想以上においしく、気付けば買ってきたもの殆どを食べ尽くしていた。

だが不思議なものである、お腹が膨れると先ほどまでの苛立ちや不安は次第に薄れ、もうどうとでもなれといった自棄的な気分になっていく。
ふて腐れたように食器を洗い、思いついたように風呂場に行き湯船に湯を注ぐと再び部屋に戻り机の引き出しから自分名義の預金通帳探し頁をめくった。
46523円の印字が目に入る、次いでポケットからコンビニの釣銭を机上にぶちまけた。

(5230円…預金額と封筒の9万円を合わせると14万とちょっと、これが私の全財産…200万円なんて夢のまた夢、無いものはどうしようもない…医院長さんには正直に話して気の済むようにして下さいと開き直るしかないか…)

悠理はフッと自嘲めいた笑みを口元に浮かべると着ている服や下着をその場に脱ぎ散らかし風呂場へと歩く、浴槽には既に湯が溢れていた。
悠理は躊躇することなく流し湯もせず湯に飛び込んだ、そして大声で好きな歌を歌い始めた。
もう口やかましい姉はいない、もう誰にも気兼ねせず流されるままに生きてやる…悠里はそう思い歌っていた。

全裸のまま風呂から上がり台所へ行って冷やしておいた梅酒ソーダを一気にあおる。
初めて呑むお酒、アルコール度数は低いが酔いはすぐにきた(あぁぁお酒って、こんなに気持ちいいんだぁ、もう少し買ってくればよかったな)
そのときシンク上の化粧ステンレスが鏡のように悠里の裸像を映していることに気付いた、だが映っているのは首から下で顔は写っていない。

悠里は顔無し裸像に暫し見とれた。
(綺麗な乳房…まるで外国のグラビアモデルを見ているよう、伯父さんが小千谷に帰る前の日、このお乳やお尻に顔をうずめ手放したくないって泣いてた…)

伯父がこの体に溺れていたことは伯父の執拗な愛撫から分かっていた。
(私の裸ってそんな貴重品のように見えるのかしら…)と悠里は立ち上がり股間付近を映したりお尻を突き出して見入った。

(部活で着替えてるとき、皆が私の体を羨ましそうに見つめてた、お姉ちゃんも悠理の肌はスベスベでいいなぁっていつも言ってたけど、私の裸…そんなに綺麗なのかなぁ)そう思いながら体のあちらこちらを映し首をかしげた。

(あの医院長先生も下半身だけど私の裸を見た…先生私のお尻や性器を見てどう思ったのかしら、伯父さんみたいに顔をうずめたいと思ったの?もしそうならこの体と200万円を引き替えに…)

(うぅぅ寒くなってきちゃった、湯冷めしちゃう)
悠里は慌てて下着を着けるとパジャマを着た、ストーブを付けるほどでもなくガーディガンを羽織って勉強机に向かう、酔いは醒めやらず心も体も気持ちよくてまるで伯父さんに腿の内側を舐められている…そんな感じだった。

悠里は頭を振り、引き出しから封筒を取り出し手紙と残った9万円を机の上に並べた。
(さて医院長への賠償金はどうしよう…200万なんて大金想像も出来ないし、いっそ逃げちゃおうか…逃げるって何処へ、伯父さんちに)

(そうだ!伯父さんに相談してみよう、伯父さんち小地谷でも有数の資産家ってお姉ちゃん言ってたから200万くらいなら出してくれるかもしれない…)

そう思うも ためらいはあった、暫し考え酔った勢いも手伝ってか以前教えてもらった伯父の携帯に電話を入れていた。
だが伯父はもう寝てしまったのか呼び鈴が10回ほど聞こえ留守番電話に切り替わってしまった、時計を見ると11時を少し回っていた。
(もう寝ちゃったんだ、なら明日にしようか…)電話を切って再び机上を見つめる、今は酔いに任せ電話できたが明日になればもう電話できないと思えた。

そのとき机上の携帯が突然鳴った、「ウヮ」悠里は飛び上がるほど驚いた。
「もしもし悠里ですが…」

「おおっ悠里か、お前から電話をくれるなんてどういう風の吹き回しだ、でっこんな時間に電話とは 何かあったのか」

「ううん、伯父さんの声が聞きたくて…遅くにごめんなさい」

「何を言う、お前の電話なら真夜中でも嬉しいよ、あっそうそう姉さんはもうオーストラリアに発ったのか?」
(姉は伯父にオーストラリア行きを相談するため小千谷に行ったのか、それとも私を売るため…)

「分かりません、アパートに置き手紙が有り…姉の荷物はもう有りませんから多分…」

「何!、麻衣のやつ お前に会わずに行ったのか、ったく妹想いの優しい姉と感心しておったが、男に目が眩むと女はそうなるのか…まっ姉さんとしてはお前に合わせる顔がないのだろう、悠里 恨むんじゃないぞ。それよりいつこちらに来られる、何なら誰かに迎えに行かせるが…」

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