悠里の孤独
横尾茂明:作

■ 奸計錯誤7

 二人は夜道を病院裏の医院長の家まで歩いた。
喫茶店で少女から抱いて下さいと言われたとき雅人は耳を疑った、だが少女の眼差しを見て聞き違いではないと分かり「そ、そんなの…抱かなくても分かっている」と即座に返したが…返す言葉は無様に震えていた。

少女は「抱いて」の言葉を放ったのち頑な表情に変わり「先生が抱くと仰らなければこのお金を置いて帰ります」と再び200万が入った封筒を雅人の前に押し戻し、それ以降少女はうつむき口を閉ざしてしまった。

抱いて欲しい…その言葉は雅人が待ちに待った言葉、奸計は図らずも成功裏の成り行きと言えよう、だが雅人はつい今しがた聖人君子めいたこと熱く語り、少女の伯父を鬼畜とののしったばかり、その舌の根も乾かぬうちにハイ抱きましょうとは節操がなさ過ぎてとても言えたものではない。

だが周囲の客らは息を殺し二人の成り行きを窺っているようにも見え…雅人は身の置き所を求め目が泳ぎだした、それなのに当の少女は俯いて雅人の応えをいつまでも待っている。
遂に「分かった君の気が済むようにするから…取り敢えずここを出よう」そう言うと封筒を押し返し席から立ち上がった。

喫茶店を出ると雅人は(抱くといっても一体何処に行けばいいんだ…あっ、そういえば商店街を抜けた右手にビジネスホテルがあったな)そうは思ったが少女はセーラー服を着ている(まさかこのままホテルに入れば淫行罪、参ったなぁ…こうなれば自宅に連れて行くしかないか)


雅人の実家には父と通いのお手伝いさんがいるのみ、だがその父は最近痴呆症が進みまた持病の糖尿病が思わしくなく今は病院の特別病室に入っていた、またお手伝いさんは6時には帰ってしまう、それゆえ広大な屋敷には雅人と悠理の二人だけが応接間に「心此所に在らず」で座っていた。

「いまキッチンを見てきたらお手伝いさん帰ってしまい夕食は僕の分しか用意してないんだ、どうしよう外に食べに出ようか?」

「いえ、昨夜死ぬほど食べましたから今夜は抜くつもりでいました」と少女は訳の分からないことを言う。

「そうはいかない、じゃぁ僕の分を半分あげよう」そう言うと少女を促しダイニングにへ向かった。
広大な屋敷…幾つ廊下を曲がったのやら、ようやくダイニングに着き少女を大きなダイニングテーブルに着かせると雅人はキッチンに入った。

暫くするとキッチンからまな板を叩く音が聞こえた、出来たものを暖めるだけと少女は思ったが…どうやら何か料理を始めたようだ。
それにしても屋敷の広さには驚いた、いま居るダイニングだけでも20畳以上は有ろうか(この屋敷と御庭それと病院を合わせれば一千坪は超えよう…土地だけでも数十億…伯父さん小千谷で1・2番のお金持ちと聞いたけど、どちらが資産家なんだろう)

部屋を見渡し少女は他事を考えることで気を静めようとしていた…だが(はぁぁ先生に抱かれるんだ…)そんな想いが顔を出し、その度に心を震えさせた。
(伯父さん以外に男の人は知らない、伯父さんには変態なSEXばかり教えられたから…、もし無意識に変な要求をして嫌われたらどうしよう…)
少女は正常なSEXとはどうやってするものか、そんなことはこれまで考えたこともなかった。

(でも夢見た通り先生に抱いて貰える…今まで抱かれるって気持ちのいいことするだけだと思ってた、でもこんなに嬉しい想いにもなれるだなんて、これが正常ということ?)そう思うと心が切なくなり、食欲は次第に失せていく。
(私のアソコ…もう濡れているんだろうな、後でおトイレ借りてきれいに洗わなくちゃ)

「ゴメン待たせちゃって、夕ご飯のおかずが少なくて結局スパゲティを作ったよ、旨くないけどこれで我慢してくれる」そう言うと大皿に盛ったスパゲティをテーブルに乗せ、取り皿とフォークを悠理の前に置いた。

「おいしそう」悠理はそう言ったものの明らかに麺は茹ですぎに見え、大皿に大量に盛られたペペロンチーノは一体何人前だろうと食欲はさらに減退した、それでもせっかく作ってくれた夕食、遠慮は失礼と思い僅かな量を皿に取り時間を掛けて食べた。

結局スパゲティは半分以上も残り「どうも塩分が少なすぎたようだ…フフッまずかったね」と雅人は残った量と少女を交互に見て苦笑した。
コーヒーを飲み終わると沈黙が続いた、雅人は椅子から立ち上がる切っ掛けが掴めずカップばかりいじっている、これを傍目から見れば二人の頭にはもうSEXのことしかないように見えただろう。

やがて雅人は咳払いをし、それを切っ掛けとして「僕の寝室に行こうか」とボソリ呟いた。

「はい…」そう少女は応えると立ち上がって雅人を見つめた。

その視線に釣られるように雅人は立ち上がり、ダイニングを出ると少女を先導するように廊下を歩き出した。
再び幾重もの廊下を曲がり寝室らしき扉の前に立った「悠里君、本当にいいんだね」そう確認し少女の目をあの眼差しで見つめてきた。

「はい、でもその前におトイレに行きたいのですが…」

「あっ、ごめん気が付かなくって、トイレはそこだよ」と廊下を挟んで寝室に対面する扉を開けた。

「お借りします」そう言い少女はその扉を入り内側から閉めた。
(トイレも広いんだ…)そんなことを思いつつショーツを脱いで便座に座る。
性器を指で確かめてみて(やっぱり濡れてる…恥ずかしい子)悠理は苦笑しながらウォシュレット・ビデのボタンを押し性器を隈無く洗浄する。

トイレを出ると対面側の寝室扉を開けた、すると薄暗がりの中…雅人は既に全裸になり大きなベッドの上で胡座を組んで視線だけこちらに向けていた。
その視線が合った刹那、少女は急に恥ずかしくなった、考えてみれば肥満で醜く太った伯父さんの裸しか経験はなく、目の前の引き締まった逞しい男性の体躯を見るのは初めてだった。

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